5 謎の美女の正体 ②
「こいつ、今は人間の姿をしているけど、実際は日本刀のあやかしなんだ」
龍騎はいきしを指差して言った。
「そういえば、日本刀を背負っていらっしゃいましたね。……といいますか、あやかしとかって詳しい話は分からないんですけど、神津さんってそういうお話が好きなんですね」
引きつり笑いを浮かべながら、小鳥は意味が分からないふりをした。
(殺されたくはないけれど、できれば関わりたくない。神津さんは悪い人ではなさそうだし、彼から妖気は感じないけれど、隠しているだけで人間じゃないかもしれないし!)
人間から感じられない不穏な圧のことを小鳥は妖気や妖力と呼んでいる。小鬼たちには集中すれば妖気を微かに感じるくらいだが、いきしの場合は違った。本人は隠しているが妖気が漏れ出すほどに強い。
龍騎は気の毒そうな目で小鳥を見ながら手を横に振る。
「ああ。もう、誤魔化そうとしても無駄だぞ。日本刀が見えた時点でアウトだ」
「……そうでした」
(ああ、もう! 私ってば本当に馬鹿だわ! いきしさんがあやかしなら日本刀だって見えないはずだもんね!)
「嘘をついてごめんなさい」
「隠したくなる気持ちはわかる。妖怪が見えるだなんて人には知られたくないよな」
微笑んだ龍騎の姿を見て、小鳥の胸がちくりと痛んだ。彼女には龍騎が傷ついているように見えたのだ。
(私だって同じ思いをしたことがあるのに最低だ)
「あの、その嫌な意味じゃないんです。幼い頃にそのことを口にして馬鹿にされたことがあるんで、できれば知られたくなくて……。それに、怖かったんです」
「……怖い? あたしが?」
いきしはわざとなのか、にたりと笑って尋ねた。
(そうです。あなたがです! ……って言ったらどうなるんだろう)
小鳥はいきしを見つめて答える。
「私には妖怪が敵なのか味方なのか分かりません。それに神津さんのこともよく知らないんです。ですから、いきしさんがどんなあやかしなのかもわかりません」
「うふふ。そうよね。あたしは得体が知れないわよねぇ」
ころころと笑う、いきしを呆れた目で見たあと、龍騎は小鳥に話しかける。
「そうだな。警戒はしておいたほうが良い。普通の妖怪は悪戯で終わるが、人間型に変化できるあやかしは共存を望むかそうでないか極端なんだ」
「……いきしさんはどうなんですか」
龍騎の答えに頷いてから、小鳥はいきしを見つめた。
「安心して。あたしは人間の味方。あ、悪い人間は嫌いよ。でもね、あたし、人間は殺せないのよね」
「人間は……というのは?」
物騒な話になってきたと思い、周りの席に人がいないか確認すると、龍騎が口を開く。
「この店はあやかしが経営している店で、オーナーのじいちゃんは人間なんだけど妖怪やあやかしのことを知ってる。店自体が人間には見えにくいようになっているから、この店に入れるのは妖怪かあやかし、もしくは妖怪たちが見える人間だけなんだ」
「そうだったんですね」
店内の様子を眺めてみると、小鳥たち以外に客はおらず、カウンター席が5つに4人掛けのテーブル席が5つ。木の温かみを感じる内装で、カウンターの向こうが調理場になっている。背の高いすらりとした白髪の老人が、いきしの分のパフェを盛り付けているところだった。
小鳥は視線を龍騎といきしに戻して尋ねる。
「あの、神津さんといきしさんの目的は何なのでしょう。もし、秘密を守れと言うのであれば頼まれなくてもそうするつもりでした」
「秘密を守るのは当たり前よ。小鳥だって他の人に気持ち悪がられたくないんでしょう?」
「……そうです」
「あたしたちが小鳥にお願いしたいのはそんなことじゃなくて、あんたに手伝ってほしいことがあるの。もちろん、ただ働きしろとは言わないわ。報酬は出す。龍騎がね」
微笑むいきしから龍騎に視線を移すと、龍騎は苦笑して話し始める。
「自分で言うのも何なんだが、俺の実家はまあまあの資産家で金はある。ちなみに俺たちが勤めている会社の会長とじいちゃんは仲が良いんだ。だから、副業は可にしてもらってる」
「え、えっと。報酬の面はわかりました。あの、手伝うとはどんなことでしょうか。私にできるかもわからないですし、まず、何をしたら良いのか簡単に教えてもらえませんか」
「ごめん。そうだよな。初めから説明すると、俺たちの家系は代々、困っているあやかしのお助け屋をしてるんだ」
「あやかしのお助け屋?」
小鳥が聞き返すと、龍騎は真剣な表情で頷き、いきしは小鳥の反応に満足しているかのように、にこりと微笑んだ。




