47 とある親と子 ③
龍騎にしてみれば、今日はオーナーの家探しの話をする予定だったため、ダブルデートの話については、小鳥を家まで送る時に話すということになった。
オーナーとの話をする前に、一度家に帰り車を駐車場に停めてくると言って龍騎が店を出ていった。
その間に小鳥はオーナーに話しかける。
「息子さん、働けるくらいに健康そうで良かったです。あれくらい動けるなら一人になっても困ることはないんじゃないでしょうか」
外に出られないなら働くことも難しいかもしれないが、人のあとをつけるような元気があるのなら問題ないだろうと、小鳥は考えた。
オーナーは悲しげな笑みを浮かべて頭を下げる。
「ありがとうございます。本当に小鳥さんにはご迷惑をおかけいたしました」
「気にしないでください。それよりも小鬼や送り犬たちが気付かないくらいに気配を消せるのはすごいですね」
「ピーッ!」
小鬼が鳴いて、否定するように手を横に振った。
妖怪たちは誠のことを嫌っているため、彼が何をしようが気にしていなかった。誠を知らない妖怪たちにしてみれば、たくさんいる人間の一人なので興味はない。小鳥に懐いている小鬼や送り犬は誠がいることはわかっていたが、小鳥に接触しようとしているとは思っていなかったので無視していたのだ。
「よくわからないけど違うみたいですね」
小鳥は苦笑すると、余計なお世話かと思いつつもオーナーに尋ねる。
「息子さんが引きこもり……というか、働かなくなった理由はあるんですか?」
「理由といいますか、きっかけはバイト先でいじめられたことだと、本人は言っています」
「いじめ……ですか」
小鳥が呟くように言うと、オーナーは躊躇う様子はなく、淡々と語り始める。
「協調性のない子なので、職場の人と上手く連携が取れなかったようです」
「コミュニケーションが重視される所だったのですか?」
「そうでもありません。働いていれば普通のことを求められただけです。連絡事項や引き継ぎを次の人にわかるようにホワイトボードに書くようになっていたのですが、息子は面倒くさがって書かなかったんです。注意されても記入しなかったようです」
「それは一緒に働く人にしてみたら困りますね」
(いじめても良い理由にはならないけれど、注意されてもやらないのは良くないよね。息子さんはどうして言うことをきかなかったんだろう)
小鳥が口に出さなかった疑問の答えをオーナーは話し始める。
「人に注意されると反抗してやりたくなくなるんだそうです。そうしている間に息子に何を言っても無駄だということになり、必要な会話しかしてもらえなくなったんです。息子はそれをいじめだと訴えて仕事を辞め、それからは引きこもりです」
肩を落としたオーナーに、小鳥がなんと声をかけたら良いのか迷っていた時、猫又たちが店の中に入ってきたため、そこで話が途切れたのだった。




