42 親友と鬼 ①
いきしたちと別れて、小鳥と龍騎は少し離れた場所にある『あやかし』の駐車場に向かって歩き出していた。並んで歩いていると、龍騎が口を開く。
「今日はいつもと雰囲気が違うんだな」
「へ、変でしょうか」
「いや、その、とても似合ってます」
敬語になった龍騎のおかげで、小鳥の緊張が少しだけ和らぐ。
「ありがとうございます。龍騎さんは今日は一段と素敵です」
「ありがとう。自分だけじゃ自信がないから、彼女持ちの友達に相談して選んだんだ」
「そうだったんですね」
自分のために龍騎も服を新調してくれたのだと思うと、胸が温かくなった小鳥だった。今日の予定は少しドライブをして、道中で良さそうな店があれば食事をするということになっている。
「一応、走ろうと思う道を考えてきたんだ」
「ありがとうございます」
駐車場に停めてあったのは白のワゴンタイプの車高の高い国産車だった。小鳥は車には詳しくないので車種はわからないが、エンブレムを見て国産メーカーであることはわかった。
「この車はお祖父様のコレクションの一つなんですか?」
「いや。これは遠出することに使うことがおおいな。普段使う車はセダンタイプ。コレクションはスポーツカータイプ」
「うう。次元が違う」
「この車は高級車ってわけじゃないから緊張しなくていいって」
龍騎に助手席の扉を開けてもらった小鳥は、緊張しながら乗り込んだのだった。
二人でデートといっても小鬼たちが付いてきていることに気がついているので、普段通りに会話は弾み、時間はあっという間に過ぎた。店に入って食事をするつもりだったが、隠れている小鬼たちをおびき寄せるため、コンビニで軽食を買って車の中で食べながら話す。
「これ、美味しいです。小鬼たちがいたら分けてあげたかったなぁ」
「コンビニのチキン系も店ごとによって味が違うんだな。ここのは食べたことなかったんだが、これはこれで美味しい」
シェアできるものはシェアしながら食べていると、我慢できなくなった小鬼たちが「ピーッ!」と鳴いて、小鳥におこぼれをねだった。防犯カメラに不思議な映像が映っても良くないということで、場所を移動しようとした時、龍騎の表情が厳しいものに変わった。
「どうかしたんですか?」
「鬼だ」
「えっ!?」
龍騎の視線の先にいたのは、ネクタイを緩く締めた会社帰りのサラリーマンといった風体の若者だった。見た目は中肉中背で茶髪の爽やかな青年にしか見えないが、小鳥にも彼の周りに黒いオーラが漂っていることに気がついた。
「どうしたら良いんでしょう」
「何かしない限り、こっちも動きづらい。かといって見かけた以上、放っておくわけにもいかないし」
鬼らしき青年はコンビニの中に入っていく。
「とりあえず、出てくるまでは見ておくか。付け回すわけにはいかないから、あとは小鬼たちに任せよう」
「ピーッ!」
任せてと言わんばかりに小鬼が鳴いた時、青年は若い女性と一緒に外に出てきた。そして、その若い女性の顔を見た瞬間、龍騎は眉根を寄せ、小鳥は眉尻を下げて口を両手で押さえた。
「あの人、もしかして美鈴の彼氏なの?」
青年と一緒にコンビニから出てきたのは、小鳥たちの同期であり、小鳥にとっては親友でもある美鈴だった。




