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あやかしのお助け屋の助手を始めました  作者: 風見ゆうみ


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41   座敷童の悩み事 ③

「ぼくがいえをでようとしているのは、ほんとうのことだよ。だけど、だいじょうぶ。まさおといっしょにでていくからさ」

「……まさお?」


 小鳥が聞き返すと、オーナーが一礼する。


「大変申し遅れました。わたくし、まさおと申します」

「とと、とんでもないことでございます! こちらこそ、名前も知らずにオーナーと親しく呼んでしまって申し訳ございません!」


 小鳥が立ち上がって頭を下げると、オーナーは柔らかな笑みを浮かべる。


「かまいませんよ。逆にまさおと呼ばれても違和感がありますしね」

「いえ、ちゃんと名字で呼びます」

「私がオーナーであることは間違いありませんからお気になさらず。どうぞお座りください」

「……ありがとうございます」


 小鳥は大人しく席に戻り、目の前に置かれた温かなお茶で心を落ち着けていうと、オーナが話し始める。


「息子には妖怪が見えませんし、妖怪たちも息子に姿を見せようとはしません。らおは私があの家にいるから留まってくれているのですが、わこがいなくなってからは家にいてもつまらないそうです」


(座敷わらしは住んでいる人の持ち物などを隠して反応を楽しんだりしていると聞いたことがある。わこちゃんも実際そうで、はさみを隠してはお母さんやおばあちゃんが探しているのを楽しんでいるみたいだし、そういう悪戯ができなければ楽しくないわよね)


「らおくんは悪戯ができなくてつまらないのね」

「うん。あいつのものをかくしたら、まさおにあたるだけだから」

「オーナーに当たったって意味がないのにね」


 小鳥もたまに母に八つ当たりしてしまう時があるが、物が見つからないという理由で当たったことはない。


(もういい年で自分で働くこともできるのに家に閉じこもって、オーナーに養ってもらっているのに、何も悪くないオーナーに当たるなんて、どんな考えをしたら、そんなことができるのかわからない)


 口には出さずに怒っていると、オーナーが苦笑して話し始める。


「長く甘やかしてしまった私が悪いのです。甘やかしたからこそ、最後まで面倒を見てやらなければと思っていましたが、最近になって私が死んだら、この子はどうなるのだろうと考えるようになってきました」

「障害のある人や介護が必要な方と同居している老齢の方は、そんな悩みを持つようになるって聞いたことがあります」

「そう思うと、私がまだ息子を助けてやれるうちに、独り立ちできるようにしてやらなければならないと思い始めたんです」

「……そうですね。息子さんは自分で何とかしようと思えばできると思います。社会経験があるかどうかはわかりませんが、選り好みしなければ未経験でも働ける場所はあるはずですし」


 小鳥が神妙な面持ちで頷くと、らおが言う。


「おいだすのはちからてきにむりだから、まさおはじぶんがいえをでていくっていうんだ。それなら、ぼくだっていまのいえにいるひつようはないでしょう? まさおがすむいえにいく」

「それは良いかもしれないね。でも、住む場所は決まっているのですか?」


 小鳥はらおに頷いたあと、オーナーを見て尋ねた。


「今、不動産屋にまわって物件を見ているところです。ネットで探すと良いですよと言われるのですが、どうも、スマートフォンが上手く使えないんですよ」

「言ってくれたら手伝いますよ! なんなら今から使い方教えましょうか?」


 小鳥が申し出たところで、来客を知らせるベルの音が鳴った。入って来たのはいきしと龍騎だった。いきしは小鳥と龍騎のデートに付いていく予定はないが、パフェが食べたくて龍騎に連れてきてもらったようだった。


「チビたちから聞いたけど、物件なんて探さなくていいわよ」


 いきしはオーナーにそう言うと、小鳥の横に座って続ける。


「龍騎の家は金持ちなんだから、マンションの一つや二つ持ってるわよ。無料が嫌なら格安で一部屋借りれば?」


(そうだった。龍騎さんの家ってお金持ちだった)


 納得している小鳥とは違い、オーナーは焦った顔で首を横に振る。


「いえいえ、そういうわけにはいきません」

「悪いけど、その話は明日改めてでもいいかな」


 そう言って、龍騎は小鳥に目を向けたのだった。


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