38 背中を押して ➂
たまから詳しく教えてもらったところ、ビートは元野良猫だった。現在は飼い主がおり、とても可愛がられているそうだが、野良時代が忘れられず、今もボスとして地域猫を守っているとのことだった。
「にゃー」
ビートが小鳥を見上げて鳴いたので、何を言っているかわからない小鳥は、とりあえず挨拶をする。
「こんにちは、小鳥です。たまとみけとは仲良くさせてもらってます」
ビートには小鳥の言葉は伝わらなかったが、たまが通訳してくれた。たまも元気そうだし二匹の邪魔をしてはいけないと、小鳥が別れを告げようとすると、たまに呼び止められる。
「小鳥にちょっと話があるにゃん」
「何かな」
龍騎たちがいる場所よりも少し離れた所に移動すると、たまが小声で話しかける。
「小鬼から聞いたにゃん。小鳥が不安になる気持ちはわかるにゃん。だから。周りの言葉なんて気にすることないにゃん。小鳥には他の人の言葉に惑わされず小鳥の生きたいように生きてほしいにゃん」
「……ありがとう」
(きっとたまも私と同じような気持ちになったことがあるのね)
たまの優しさを感じた小鳥はほっこりした気分で、龍騎たちの所に戻った。
「なんかさっきよりもスッキリした顔になってるけど、もしかして今まではたまが心配だったから元気がなかったのか?」
「……それもあった……と言いたいですけど、大部分は自分の悩みでした」
「その悩み事はたまと話して解決したのか?」
「はい。人のアドバイスを聞くのもいいですけど、私は私なりに生きていいんだって教えてもらいました」
「そんなの当たり前だろ」
眉根を寄せる龍騎の横でいきしが焦る。
「別にあたしは小鳥に強制したいわけじゃないのよ。迷惑だったのなら謝るわ」
「いいえ、迷惑とかではなくて、私の中の問題でしたから気にしないでください。色々な考え方があるんだなって勉強になりました」
(恋を自覚することがあっても、絶対に告白しないといけないわけじゃないし、ただ好きでいることだって悪くない。好きだとわかって振り向いてほしいと思うなら、迷惑にならないように頑張ればいいだけだわ)
「ならいいけど、絶対に人に合わせる必要はないからな」
「はい!」
小鳥が元気良く頷くと、龍騎は優しく微笑んだ。その笑顔に胸を高鳴らせた小鳥は、勇気を出して口を開く。
「では、デートプランを立てましょう!」
「お、おう!」
小鳥の勢いに圧されてはいるが、龍騎は普段よりも大きな声で返事をした。並んで歩く二人の少し後ろを歩きながら、いきしは『この子たちに幸せな未来が訪れますように』と口には出さずに祈った。




