34 猫又の恋 ➂
たまの様子が気になった小鳥は彼女に話しかける。
「たま、犯人が特定できるような特徴とかを襲われそうになった猫たちから聞いていない?」
「たまが見たわけじゃないから、はっきりとはわからないにゃん。そうにゃ! たまが見張ればいいにゃん! そうすれば、みんなを守れるにゃん!」
そう言うと、たまは楽しみにしていたパフェには見向きもせずに外へ出ていてしまった。さっきまでたまがいた場所を見つめて、小鳥は呟く。
「余計なことを言っちゃったのかな」
「確実に捕まえるには待ち伏せがいいんじゃない? 何も起こらなくても起こらないほうが良いわけだし、たまだって安心でしょう」
「そう言われればそうですね」
いきしの言葉に小鳥は頷きはしたものの、やはりたまが心配だった。
「小鳥が言わなくてもそのうち、自分で気がついて出ていっていたと思うから気にしなくていい」
「ありがとうございます」
「小鳥は優しいにゃん」
慰めてくれた龍騎に小鳥が礼を言うと、みけがやって来て小鳥の膝の上に乗ると続ける。
「心配しなくてもたまは大丈夫にゃん。普通の人間にやられたりなんかしないにゃん」
「それはわかってるんだけど、たまとみけの温度差が違いすぎて、それも心配なんだよね」
「そりゃ、みけもはらわたが煮えくり返ってるのは確かにゃん。でも、怒っているだけでは意味がないにゃん。たまがいない所で言うのもにゃんだけど、たまは恋するにゃんこだから仕方がないにゃん。止めても無駄にゃん」
(ビートっていう猫のことは聞かなかったことにすると約束したから、知らないフリをしないとね)
「よくわからないけど、見張りに行ったたまや他の猫が無事ならそれで良いよ」
「たまがいる限り大丈夫にゃん。ただ、心配なのはびーとに恋猫ができた場合にゃん」
「こ、こいねこ?」
「人は恋人と言うにゃん? 猫だから恋猫にゃん」
「そういうことね。えーと、名前はびーと、だっけ? びーとには仲の良い猫ちゃんがいるの?」
「今のところはいないにゃん」
みけはこれ以上話すとたまに怒られると思ったのか、突然話題を変える。
「お腹へったにゃん。パフェ食べたいにゃん」
「みけとたまの分は別に残しておいたから、みけの分を食べようか」
「ありがとにゃん!」
上機嫌でパフェを食べ始めたみけを小鳥が見つめていると、いきしが口を開く。
「恋猫ができたほうが、びーととかいう猫のためにもなるわよ」
「どういうことですか?」
「妖怪と普通の猫が結ばれたって悲しいことのほうが多いわよ。普通の猫には寿命があるんだから、必ず別れが来る。元々は家猫だったたまだってそれはわかっているはずよ」
「……そうですね」
人間よりもはるかに長生きする妖怪と普通の猫が恋をしても悪いことではない。たまとビートが上手くいった場合、その時は二匹ともが幸せだろう。しかし、ビートが先に死んでしまうのは当然のことだ。普通の猫なら数年先で後を追うことになるが、たまの場合は違う。長い間、悲しみと共に生きていかなければならない。
(大切な誰かを亡くしたあと、時間が経てば少しずつ悲しみは薄れていくかもしれない。それでも忘れることはないし、悲しみがなくなるわけでもないものね)
妖怪には妖怪で辛いことがあるのだと、小鳥はしみじみ思ったのだった。




