32 猫又の恋 ①
次の日の仕事終わり、今日は龍騎がいきしを連れてきていることを小鬼たちから教えてもらった小鳥は、ポチと一緒に喫茶『あやかし』に向かった。いきしには龍騎から礼は伝えてもらってはいるが、自分の口からも伝えたかったからだ。
(こんなことを思うのは良くないかもしれないけど、あの時、いきしさんが言ってくれたこと嬉しかったんだよね)
土蜘蛛のことを嫌っているのに、小鳥に接触するくらいなら自分の所に来いと言った、いきしの気持ちが嬉しかった。
(助手見習いのバイト代も入ったし、今日はいきしさんにジャンボパフェをプレゼントしよう)
いきしが喜ぶ姿を思い浮かべながら、店内に入ると、オーナーが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「……ただいまです!」
店内に入って『おかえりなさい』と言われたのは初めてだったので戸惑った。だが、旅館などで常連客にする挨拶の一つとして聞いたことがあったことを思い出し、小鳥は笑顔で挨拶を返した。
カウンターには猫又たちが座っており、前足で小鳥を手招きした。小鳥はカウンター席に座り、いきしが来たらジャンボパフェを作ってほしいとオーナーにお願いすると、猫又たちは目を輝かせる。
「たまたちも食べたいにゃん」
「いきしさんが良いって言ったらね」
「いきしはケチだから食べさせてくれないにゃん」
「そうにゃ。みけたちも食べたいにゃん!」
「くぅん」
送り犬が『僕も』と言わんばかりに足に手をかけてきたので、小鳥は微笑む。
「了解! いきしさんが駄目って言ったら、たまたちには別のパフェを頼んであげるね」
「やったにゃん!」
「小鳥、大好きにゃーん」
「わんっ!」
猫と犬の妖怪だけでなく、小鬼たちにも擦り寄られている小鳥をオーナーは優しい目で見守っていたが、何か思い出したのか口を開いた。
「そういえば、小鳥さん、猫会議の話はお聞きになったんですか?」
「あ……、そうでした。まだです!」
以前、猫又たちが猫会議に出席していると聞いて、どんな話をしたのか聞こうと思っていたことを忘れていた。
「猫会議ってどんな話をしてるの?」
「集まっているのは野良猫が多いにゃん。だから、餌場の話や嫌な人間の特徴などを伝え合ってるにゃん」
「餌場はごはんがある場所のことよね? 嫌な人間の特徴っていうのは?」
「野良猫をいじめる奴らがいるにゃん。そいつの外見や、よくいる場所とかを教え合うにゃん」
「保護しようとしている人じゃなくて?」
地域によっては野良猫を地域猫として、共存する道を歩んでいる。数が増えないように去勢したり避妊したりするために一度捕まえなければならない。そのことかと小鳥は思ったが違っていた。
「違うにゃん。蹴ったりするにゃん。生きている猫たちのことだから、妖怪のたまたちは我慢してるにゃん。でも、嫌なことをする奴がエスカレートするようなら、たまたちがお仕置きするにゃん」
爪を出して見せるたまに、小鳥は尋ねる。
「お仕置きって何をするの?」
「小鳥には教えられないにゃん」
なぜか嬉しそうなたまを見て、外見は可愛いのに、やっぱり妖怪なんだと再確認した小鳥にみけが話しかける。
「たまはボス猫のびーとが好きにゃん」
「ビート?」
「やめるにゃん! 別に好きじゃないにゃん!」
小鳥が聞き返すと、たまがみけにとびかかった。
「喧嘩しないでよ」
引っかかれて痛そうにしているみけを撫でながら、たまにお願いする。
「聞かなかったことにするから、みけを許してあげてくれない?」
「……小鳥がそう言うなら仕方がないにゃん」
「ありがとう。みけはちゃんと謝って」
「ごめんにゃ」
しゅんとするみけを見たたまが「しょうがないにゃん」と言った時、龍騎といきしが店内に入ってきた。それと同時に数匹の猫が店内に入り込み、猫又たちに向かって、何かを訴えるように鳴き始めたのだった。




