31 鬼の話 ②
龍騎からはすぐに『いきしが土蜘蛛から直接話を聞いているから大丈夫だ。連絡くれてありがとう』と返ってきた。
(そういえば、いきしさんは私を助けてくれたあと、土蜘蛛と話をしていたんだった)
スマートフォンを額に当てて、小鳥は大きなため息を吐く。
(浮かれすぎた。もっと気を引き締めなくちゃ)
自分を戒めてから返事をしようとすると、龍騎からメッセージが届く。
『どうだった? 俺と出かけること、やっぱり反対だった?』
龍騎に伝えていなかったことを思い出した小鳥は、慌てて返事を打とうとした。すると、それに気がついた小鬼が小鳥からスマートフォンを奪い取り、素早くメッセージアプリから電話をかけた。
「ちょっと! 何してるの!?」
切ろうとしたが、龍騎が電話を出るよりも少し遅かった。
「どうした? 何かあったのか?」
龍騎の焦った声が聞こえてきたので、小鳥は諦めて通話をスピーカーモードにして話す。
「ごめんなさい。小鬼が勝手に電話をかけちゃったんです」
「そういうことか。好き勝手してるな。今度叱っとくよ」
「ピーッ!」
叱られたくないと言わんばかりに、小鬼たちがいやいやと体を横に振って小鳥を見つめる。
(今回は1回目だし、私は許してあげようかな)
「止められなかった私が悪いので、今回は大丈夫です。こんなことがまた起こったら、その時は叱ってもらえますか」
「わかった」
小鬼は小鳥のことを良い人間だと思っているし大好きで、ついついかまってしまう。龍騎については信用できる人間ではあるが、どこか怖い存在だった。今回は叱られなくて済むと安堵している小鬼たちの様子を見て微笑んでから、小鳥は龍騎に尋ねる。
「お時間が大丈夫ならお聞きしたいんですけど、鬼というものは元は人間だったりするんですか?」
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「自分が鬼になる前に止めてやってるんだって土蜘蛛が言っていたんです」
「そうだな。俺が知っている範囲でしか話せないけど、妖怪みたいに一部の人間にしか見えないってことはなくて、普通に誰にでも見える」
「……そうなんですね」
小鳥が考える鬼は、節分の時のお面のように顔は人とはまた違うもので、恐ろしいものだと思っていた。
(見た目が人と同じなら、一緒に働いたりしていても気づかないんだ)
そう思うと急に怖くなった気がした小鳥が黙り込むと、龍騎がいつもよりも柔らかな声で言う。
「俺には鬼になってしまった人間がわかるんだ。会社の中にはいないから心配しなくていい」
「そうなんですね。あの、どんな風にわかるんですか?」
「わかる理由は家系としか言えない。親父には見えなかったけど、母さんには鬼のオーラが見えたんだ」
「鬼のオーラ?」
「ああ。母さんは体の周りに黒いオーラが見えるって言ってた。俺の場合は頭に角が生えているのが見えるだけで、オーラってのはわからない。だから、帽子をかぶられていたらアウト」
「カツラとかはどうなのでしょう?」
いまいち鬼というものが妖怪とどう違うのかわかっていない小鳥が尋ねると、龍騎が答える。
「小鬼たちのような便利な力は持ってないみたいだ。だから、カツラをかぶろうとしても角が邪魔だろうな」
小鳥が不安になっていることに気がついている龍騎は、安心させるように優しい声で続ける。
「俺たちで言う鬼は妖怪とは違うんだ。何かへの憎しみが募って人間が鬼に変化すると言われている。だから、戸籍とかもあって普通に人と一緒に暮らせてるんだよ。だけど、ちな……、こ、小鳥は人に恨まれるような性格じゃないし心配しなくていいと思う」
「ふ、ふぁいっ! ありがとうございますっ!」
突然の『小鳥』呼びに、動揺した小鳥の声が裏返った。
「とにかく、鬼のことは気にしなくていい。小鳥には引き続き妖怪たちのことを頼みたい」
「承知しました!」
その後、鬼のこととは関係のない話をしてから、小鳥は龍騎との通話を終えた。しばらくの間はふわふわした気持ちだったが、龍騎の言葉を思い出して気になったことがあった。
(小鳥にはって言ってたよね。……ということは、いきしさんのこともあるし、龍騎さんは鬼と戦ったりするのかな)
急に心配になった小鳥は明日、改めて龍騎に確認することにして、今日のところはは幸せな気持ちで眠りについたのだった。




