26 あやかしだって追いかけたい ②
感動しているさなと、張り切る小鳥を見た龍騎は眉根を寄せる。
「千夏さんがそこまでしなくていいって。最悪、俺が一緒に行けばいいし」
「いえ。私はお助け屋の助手見習いです。今回のさなさんのようなお願いなら私でもできそうですから、ぜひやってみたいです。……というか、今回の依頼は私のほうが適任のような気がしますので!」
「そうですよ~。龍騎さんは男性アーティストのうちわを持って、女の子の大群の中に入れるんですか~」
「それは……」
ちょう子に指摘されて困った様子の龍騎を見た小鳥が微笑むと、龍騎は眉尻を下げて尋ねる。
「千夏さんが楽しそうだから良いけど、もし、嫌いなアーティストだったらどうするんだよ」
「そ、そう言われてみればそうですね」
芸能人にあまり好き嫌いはない小鳥だが、合わないものは合わない。さなにどんな人が好きなのか確認してみると、小鳥もよく知っている『ファイビィ』という男性グループだった。
「気にはなっていたので、一緒に行きましょう! 調べてまた連絡しますね!」
「ありがとう、小鳥ちゃん! 龍騎と違って本当に良い子~!」
さなは感激した様子で、小鳥を抱きしめて言った。
(他のあやかしに比べて、かなり距離感の近い人だなぁ)
心の中でそう思ったあと、小鳥は笑顔で応える。
「どういたしまして」
「嬉しい! ああ、やっとみんなと応援できる! 席が用意されるんだよ! ファンサしてもらえるかなあ!」
「ファンサ?」
不思議そうにしている龍騎に、ファンサービスのことだと小鳥は説明し『ファイビィ』のファンクラブの年会費は一括払いでチケットは電子チケットだが、会報などがあるので住所などを登録しなければならないことを伝えた。話をしている間にパフェが出来上がり、小鳥はらおとポチ、そして、いつの間にか並んでいた小鬼たちのために小皿をもらい、ちょう子たちと協力して少しずつ食べさせてやったのだった。
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さなと出会ってから、約十日後の週末は決戦だった。小鳥は朝から龍騎の家を訪ね、龍騎の祖父母や運転手、お手伝いまで集まり、チケット争奪のために必死に電話をかけた。ファイビィのチケットはファンクラブ優先だが、申し込みはすでに締め切られていた。公演日が近づいてくると一般チケットの販売が始まる場合もあり、ちょうどその時期だったのだ。小鳥たち以外にも多くの人が一斉に電話をかけるため繋がらないことが多いが、繋がればチケットを取れる可能性が高い。友人のチケットを取る手伝いをしたことがある小鳥は、ここは人数勝負だと考え、誰かの電話が繋がれば小鳥が対応することに決まった。
一時間も経たない頃、一生懸命電話している人間に限って繋がらず、一番困惑していた龍騎が奇跡的につながり、小鳥は無事にチケットを取ることができ、さなと一緒にコンサートに参加することになった。同行者確認の住所が必要になった時は、龍騎の家の住所を書くことについての承諾ももらった。
「小鳥ちゃん! 本当にありがとう!」
無事にチケットが取れ、みんなで宴を開いていた時、さなが近づいてきて白い封筒を差し出して来た。小鳥は不思議に思いながらもそれを受け取る。
「何でしょうか」
「チケット代!」
「ええっ!? お金、どうしたんですか?」
「龍騎に頼んで履歴書不要の短期バイトを紹介してもらったの。元々、少しずつ貯めていたものもあったから、チケット代、これで足りると思う!」
「えっと、じゃあ確認しますね」
封筒を開けて金額を見てみると2枚分のチケット代が入っていた。
「あ、あの、さなさん。金額が多いです! お返ししますね」
「小鳥ちゃんの分だよ! 小鳥ちゃんに連れて行ってもらうのに、お金払ってもらうのは悪いもん!」
「大丈夫です、さなさん! 行く限りは私も一緒に楽しみますから! 存分に楽しみたいので、自分の分のチケット代は私に出させてください!」
(正直に言うと最近のチケット代は高いし、交通費、グッズ代を考えたら辛い。でも、さなさんだってグッズ買いたいだろうし、このチケット代でグッズを買ってもらおう。二人で楽しめるのが一番!)
「小鳥ちゃん……」
さなは感激した様子で小鳥を見つめたあと、彼女に抱き着く。
「グッズ代、どうやって稼ごうか考えてたの。本当に本当にありがとう!」
「どういたしまして!」
小鳥は笑顔でさなの背中を優しく撫でた。
さなからの依頼のため、小鳥がお金を出したとしても龍騎からその分のお金が渡されるのだが、小鳥はそんなことは頭になかった。ただ、嬉しそうなさなを見て温かい気持ちになっていた。




