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あやかしのお助け屋の助手を始めました  作者: 風見ゆうみ


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22   会長現る ②

「君が千夏さんか。営業部の神津くんと前々から噂を立てられていると聞いたよ。迷惑をかけてすまないね」

「とんでもないことでございます。噂を立てられていることは知らなかったんですが、もしそうだとしたら、逆に私が迷惑をかけてしまっている気がします」


(食事に行っていたという話以外にも噂されてたなんて! 本人には自分の噂って聞こえてきにくいものだと言うけど、私や神津さんが知らない間に、社内で色々と噂をされていたなんて!)


「問題はそのことじゃないんだよ。仕事をする場で勤務時間中に私生活の話が出回り、そのせいであなたの職場環境を悪くしてしまっていると聞いた」

「そうですね。特に勤務時間中にプライベートな話は控えるべきだと思います」


(息抜きに軽くお互いのことを話すならまだしも、他人の話を面白おかしく話し続けるのは違うわよね)


「その通りだ。雑談を一切するなとは言わない。ただ、長く仕事の手を止めるようなことはしないでほしいと思っている」


 そこまで言うと、会長は温和な笑みを小ボスに向ける。


「あなたのお母様のことは長年勤めてもらっているからよく知っているよ。あなたもお母様ほどではないが、長く勤めてくれているよね」

「は、はい!」

「休憩時間であったとしても、根拠のない噂を面白おかしく大勢で話すのはどうかと思うんだが、君はどうだね?」


(休憩時間以外でも、くだらない話をしていますよ!)


 告げ口をしたくなった小鳥だったが、それはそれで会社に居づらくなるのでやめた。せっかく就職できて家族も喜んでくれたのに、一年も経たない内に辞めたくなかった。


「そうですね。私もそう思います!」


 小ボスは何度も頷くと、小鳥に体を向けて笑顔で話しかける。


「千夏さん。私はあなたの味方よ。何か困ったことがあれば遠慮なく言ってね!」

「は、はい。ありがとうございます」


(いきなり態度が急変した、今の状態も困っているといえば困ってるんだけど、こういう人は自分の良いようにしか考えないんだよね)


 昔、小鳥の母がママ友から『この壺を買えば幸せになれる』としつこく勧誘された時があった。妖怪が見える母には、その壺に何のご利益がないことに気づいていたこともあり、買うことを断った。すると『あなたの幸せのためなのに!』と怒り始めたことを小鳥は思い出していた。


 その後、会長は小鳥に詫びたあと、龍騎を探すために食堂に向かっていった。会長が現れたことで、小鳥に対して何か言おうとしていた女子社員たちも黙らざるを得なくなった。


 次の日には朝礼で職場恋愛は禁止ではないが、勤務時間内は仕事に集中すること。誰かを不快にさせるような話や行動を勤務時間中にはしないことが通知された。そのこともあり、小鳥に対しての女性社員の反応は静かになっていった。小ボスも会長に睨まれたくないため、小鳥に辛く当たることもなくなり、彼女の職場環境はかなり改善されたのだった。



******


 職場環境が改善され、会社に行く足取りが以前よりも軽くなった小鳥だったが、新たな問題が起きた。それは龍騎の婚約者のふりをするという話に関わることだった。龍騎から連絡がいってはいたものの、妖怪たちから小鳥の話を聞いた龍騎の祖父が、小鳥に会ってお詫びをしたいと言い始めたのだ。

 そのことを喫茶『あやかし』で龍騎から聞かされた小鳥は、何度も首を横に振った。


「け、結構です! お詫びしてもらわなければいけないようなことはしてませんから!」

「そう言うだろうって伝えたんだけど、一度、家に連れて来いって言うんだ。本当に嫌なら嫌って言ってるって伝えるから」

「本当に嫌って言ったら失礼じゃないですか!?」

「そう思うなら行ったらいいじゃない。あたしも付いていってあげるわ」


 にっこりと微笑むいきしに促された小鳥は、あやかしのお助け屋の助手見習いとして、パトロンである龍騎の祖父に一度挨拶しておくことも悪くないと思うことにした。

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