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あやかしのお助け屋の助手を始めました  作者: 風見ゆうみ


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19/70

19   夜は長い

 妖怪相手に普通の人間が適うはずがない。急に姿を現したいきしに驚いた痴漢だったが、彼女が怖がっている素振りをみせると、顔を俯けながらも近づき、しっかりと手で閉じていたコートを開けようとした。

 その時、蜘蛛の妖怪が姿を現し、男に話しかけた。


「そんなもん見たくねぇんだが、食べても良いんなら食べてやるよ」

「ひっ!」


 男は悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、妖怪からは逃れられない。数匹の小鬼が協力して、男の足下に大きな石を置いていたため、その石に躓いた男は派手にすっ転んだ。


「良いベンチだわぁ。もうちょっと高さが欲しいけど」


 すかさずいきしが近づいていき、笑いながら男の上に座るのを見た龍騎は、ポケットに入れていたスマートフォンで110番通報したのだった。



******


 痴漢は警察に引き渡され、その際に小鳥や龍騎も近くの警察署に移動させられ事情聴取をされた。いきしは身分証明などないので、その時には刀の姿に戻り、おみつと一緒に小鳥たちが戻るのを待っていた。

 捕まえた男は、おみつがいる公園だけではなく他の場所でも出没していたことがわかり、お手柄だと絶賛された。


 取り調べが終わった頃には夜も遅くなり、終電を逃した小鳥はタクシーで帰らざるを得なくなった。


「タクシー代出すよ。これくらいで足りるか?」


 そう言って、龍騎が財布から一万円札を取り出すと、小鳥は慌てて首を横に振る。


「お金はもらえません!」

「なんでだよ」

「だって、妖怪からお金はもらえないじゃないですか! そうなると、神津さんに報酬はありません。それに、今回の件も私は何もしていません。それなのにタクシー代を出してもらうのは申し訳ないです」

「気にすんな。経費で落とすだけだ」

「……経費?」

「ああ。この家業は元々はじいちゃんが始めたことなんだ。公正証書遺言を作ってるから、じいちゃんが亡くなっても、多くの遺産は俺にくるから。といっても、妖怪や妖怪を助けるために使った経費分として使えって言われているけどな」

「小鳥に使う経費や、渡す報酬も経費になるから、別に小鳥はお金のことは気にしなくて良いのよ」


 龍騎の言葉をいきしが笑いながら補足した。


(神津さんの家ってかなりお金持ちっぽいし、タクシー代くらいどうってことないんだろうけど、私の金銭感覚は神津さんとは違うからなぁ)


 下手に贅沢を覚えたくはない。かといって、夜中に何駅先も歩くことは体力的に辛い。物騒だという心配をしなくて済むのは、小鬼たちがいつも一緒に帰ってくれるので一人じゃないからだ。


「大丈夫です。自分で出します!」


(節約のために最寄り駅から家まで歩こう。ちょっと頼りない気もするけれど、小鬼たちは大勢いるから危険な目に遭いそうになったら助けてくれるわよね)


 小鳥がそんなことを考えていると、龍騎が小さく息を吐く。


「言いたいことはわかった。とにかくタクシーを捕まえるぞ」


 駅近くでないとタクシーが捕まらないため、いきしを含めた三人で最寄り駅のタクシー乗り場までやって来た。すでに終電を逃した人の列ができていて、その列に並ぼうとしていると近くにいた小鬼たちが「ピーッ! ピーッ!」と何かを知らせるかのように鳴き始めた。


「どうした?」


 龍騎が尋ねたと同時、駅の改札を出て、小鳥たちに向かって歩いてきた人物がいた。


「神津じゃん! ……あれ? 横にいるのって千夏さん?」


 呑んだ帰りなのか、顔を赤らめた状態で龍騎たちに声をかけてきたのは、会社で龍騎に仕事を教えてくれている先輩だった。


(うわ。どうしよう。でも、二人きりじゃないし大丈夫かな)


 小鳥はいきしを一瞥したあと別部署であるとはいえ相手は先輩なので、小鳥は笑顔で挨拶をする。


「こんばんは。お疲れ様です」

「お疲れーって、なになに? 二人ってどういう関係? それに隣にいる美人のお姉さまはどちらさま?」

「今まで飲んでたんですか?」


 いきしのことを伝えて良いのかわからなかった小鳥が話題を逸らすと、酔っていることもあり、先輩は上機嫌で話し始める。


「そうなんだよ。毎日仕事が辛くてさぁ。呑んでないとやってられないって!」

「営業職って大変そうですもんねぇ」


 小鳥が愛想笑いで対応しているその真横で、龍騎が小鬼たちにぼそりと呟く。


「言うのおせぇよ」

「ピー……」


 しょぼんとしてしまった小鬼たちを見て罪悪感を覚えた龍騎だったが、あとで謝ることに決め、小鳥に任せてしまっている先輩の相手をすることにした。


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