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あやかしのお助け屋の助手を始めました  作者: 風見ゆうみ


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18   ストーカー妖怪の目的

 巨大な蜘蛛の体に可愛らしい人間の男の子の顔がのっているように見えて、小鳥は子供が蜘蛛に食べられたのではないかと思ってしまった。


(うう。気持ち悪い。おみつさんに合わせて顔だけ良くしようとしているんだろうけど、これは頑張り方を間違えてる)


「大丈夫か?」


 妖怪の姿を見て黙り込んでしまった小鳥を龍騎が気遣う。


「あ、えっと、心配していただきありがとうございます。大丈夫です。あんな中途半端な状態を見たことがなくて驚いてしまっただけです。早く慣れるように頑張ります」


 今まで小鳥が見てきた妖怪で、気持ち悪いと思う外見のものはいた。でも、このような状態を見るのは初めてだったから、驚きが隠しきれなかったのだ。


「ああいうタイプは珍しいから慣れなくても大丈夫よ」


 いきしは小鳥の頭を撫でたあと、問題の妖怪に向かって歩き出す。それを見た龍騎が小鳥に話しかける。


「おみつさんと一緒にいてくれるか。彼女、怯えているみたいだから」

「承知いたしました」


 大丈夫だと言っても、やはり気持ち悪いものに近づきたくはない。小鳥は龍騎の申し出に快く頷いた。怯えているおみつを膝の上にのせてブランコに座り、小鳥は龍騎たちの様子を見守る。


「あれぇ! 龍騎さんじゃないっすか! 婚約者ができたって聞きましたよ! おめでとうっす!」


 なれなれしい口調で話す妖怪に龍騎は眉根を寄せる。


「ありがとう。というか誰だよ、お前」

「ああ。そうか、人間の顔を付けているからわからないんすねぇ!」


 そう言って、妖怪は顔を人間のものではなく本来の蜘蛛の顔に戻した。


「悪い。どこかで会ったのかもしれないが、俺は蜘蛛の顔を見分けられるほど、蜘蛛が好きなわけじゃない」

「普通はそんなもんすかねぇ。まあ、いいです。ところで、どうしてお二人はこんなところにいるんすか?」


(やけにフレンドリーな妖怪ね。ごまでもすってるのかしら。しかも自分のせいでいきしさんたちが来たって思っていないみたい)


「お前こそ、こんなところで何をしてるんだよ」


 震えているおみつの背中を撫でながら、小鳥が考えていると妖怪は答える。


「ここ最近、この公園で痴漢が増えてるんすよ。だから、パトロールしてるっす」


(そういえば、入り口に痴漢注意って書かれていたわね。でも、どうして、この妖怪がパトロールしてるの?)


 小鳥が疑問に思ったように、龍騎も同じことを思ったようで蜘蛛の妖怪に尋ねる。


「どうしてお前がパトロールするんだよ」

「いや、ここにいるあやかしの女の子がめちゃくちゃ可愛いんす。守ってあげなくちゃと思って」

「見せようと思わない限り、普通の人間にあやかしは見えねぇだろ」

「あ」


 本気でそのことを忘れていたらしく、妖怪は叫ぶ。


「も、もしかして、龍騎さんたちがここに来たのは俺のせいっすか!」

「そうだよ」

「そんなあ。俺は無実っす。彼女を守りたいだけなんすよ!」


 おみつの耳に蜘蛛の妖怪の声は聞こえているので、おみつは小鳥にしがみつきながら尋ねる。


「本当に何もしないんですか?」

「待ってください。聞いてみますね!」


 おみつを残して聞きに行く気にはなれず、龍騎たちにもう少し近づいてもらってから、小鳥は蜘蛛の妖怪に話しかける。


「おみつさんはあなたに何かされると思って怖がっているんです。あなたは良かれと思ってやったことかもしれませんけど、おみつさんにしてみれば恐怖でしかないんですよ」

「そ、そんなあ」


 蜘蛛の妖怪が情けない声を上げた時、いきしが龍騎とおみつを抱いている小鳥の腕を掴んで、低木の陰に連れて行く。


「一体どうしたんですか?」


 低木の陰にしゃがみ、おみつを抱きしめた状態で小鳥が尋ねると、いきしは小鳥の質問には答えずに、蜘蛛の妖怪に向かって叫ぶ。


「名誉挽回するチャンスよ。殺しは駄目だけど、痛い目に遭わせてやりなさい」

「……あ、あの野郎が来たんすね! わかりやした。やってやるっす!」


 蜘蛛の妖怪が目を向けた方向に小鳥も目を向けると、ロングコートに素足という格好の三十代前後に見える男が公園内に入って来るのがわかった。夏場ならまだしもズボンを履いていないため、小鳥は呆れた顔になって、その男を見つめた。


「あ、あれ、痴漢です。若くて大人しそうな女性ばかり狙って汚いものを見せてます」


 おみつは両手で顔を覆って言った。


「小鳥が行くほうが良い気もするけれど、見たくもないものを見せられても可哀想よね。となると、ダメージのない、あたしが行ってくるわ」


 いきしはそう言って、隠れていた場所から公園の入り口に向かって歩き出したのだった。


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