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あやかしのお助け屋の助手を始めました  作者: 風見ゆうみ


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11   お助け屋と助手見習い ②

 パニックから立ち直った小鳥は、まずは龍騎と連絡先を交換することから始まり、仕事の説明については、内容によってその都度打ち合わせをすることになった。


 時間も遅くなってきたので、龍騎と小鳥は今日のところは帰宅することにした。


「触れることはないにしても、話をするくらいは普通になってくれると助かるんだが」

「私、本当に男性と関わることがなくって……。申し訳ないです」

「高校から女子校だっけか」


 最寄り駅だと会社の人に出会う可能性があるので、龍騎と小鳥は一駅先に向かって歩いていた。


「はい。中学生の頃に嫌なことがありまして」


 小鳥の脳裏に男子生徒から『こいつ、小さい頃にバケモンが見えるなんて嘘ついてたんだ。キモい』と言われたシーンが浮かんだ。

 その発言をした相手の顔をはっきりと覚えているわけではないが、ショックを受けたことだけははっきりと覚えている。


「その年代の頃って人への思いやりが欠けてる奴が多いよな」


 龍騎は詳しい話は聞かずに頷いた。


(神津さんも言われたことがあったのかな)


 小鳥が無言で龍騎を見つめると、彼は苦笑しただけだった。


(私が言われるくらいだもの。神津さんみたいに目立つ人ならやっかみで余計に言われていたかもしれない)


「大人になって反省してくれていればいいんですけど、そうじゃないんなら絶対に罰が当たると思います!」


 しんみりしてしまった空気を変えるために小鳥が両手に拳を作って元気よく言うと、龍騎は今度は微笑する。


「ありがとな」


(まぶしい! まぶしいわ! でも、これに慣れれば男性への免疫がつくのでは!? 神津さんに慣れたら、ほとんどの人に対応できそう)


 あっという間に駅に着き、鞄から定期を取り出したところで、龍騎が手を挙げる。


「じゃあまた明日」

「神津さんは電車に乗らないんですか?」

「俺、徒歩で通える範囲なんだよ」

「え? この駅の近くなんですか?」

「気にすんな。それよりも誰かに見られたらよくないんだろ? 気をつけて帰れよ」

「あ、はい! ありがとうございました!」


 万が一、誰かに見られては困る。そう思った小鳥は慌てて改札の中に入った。ホームに続くエスカレーターに乗った時に振り返ると、まだ龍騎は見守ってくれていた。


(もしかして、逆方向だったりするのかな。神津さんにとっては当たり前なんだろうけど、こんなことをされたら好きになっちゃう子も多いんじゃないかなあ)


 小鳥はホームに降り立つと電車を待つ人の列に並びながら、早速、龍騎にお礼のメッセージを送ることにした。


 

******



 小鳥の初仕事はその週の土曜日だった。といっても、依頼人はちょう子だったのでリラックスしての初仕事だった。ちょう子がよく出現する飲み屋街に龍騎と一緒に出掛け、指定された居酒屋の店の前でちょう子と落ち合った。事前に予約をしていたため、個室に通してもらい、三人分のドリンクを注文し、龍騎に食べ物を選んでもらっている間に小鳥はちょう子に話しかける。


「ちょう子さんのお悩みというのは、先日話してくれた男性のことですか?」

「いいえ。そうじゃないんです~」

「えーっと、じゃあ、どんなお悩みなのですか?」


 お助け屋といってもかなり幅があるらしく、悩みを聞いてもらえるだけですっきりしてもらえるだけの時や、解決に乗り出されなければいけない時もある。今回は、話を聞くだけで良いのかもしれないと小鳥が思っていると、ちょう子は重い表情で話し始める。


「活動する場所を変えようかと思いまして」

「……そうなんですね」


(やっぱり、例の彼が原因なのでは? でも、違うって言っていたし、どう聞いたら良いのかわからないわ!)


 小鳥が焦っていると、彼女の肩や頭にのっていた小鬼たちが「ピ?」と鳴いた。小鳥には何の意味かわからないが、ちょう子には伝わったようで苦笑する。


「慎也くんのことがまったく関係ないと言うと嘘になるんですけど、ここ最近の飲み屋街は一段とマナーの悪い人たちばかりで、嫌になってしまっているんです~」

「ピーッ! ピッ!」


 小鬼たちがそうだそうだと言わんばかりに飛び跳ねるのを横目に見ながら、小鳥は尋ねる。


「昔と違ってきているということでしょうか?」

「ええ。それが一概に悪いこととは言えないことはわかっています~。でも、懲らしめてやろうという気持ちよりも、……してやりたいという気持ちが沸き上がって来るようになりまして」


 ちょう子が口に出さなかった言葉がとても物騒なものであることは、小鳥にも理解できた。


「おばあちゃんがニュースを見て、昔と変わったとよく言ってますけど、ちょう子さんが感じていることと同じなのかもしれません。注目されたくて、わざと迷惑行為をする人もいるみたいですし」


 妖怪であるちょう子が心を痛めていると知ると、人間である小鳥は何だか申し訳ない気持ちになった。


「ちょう子さんが見たくないものを見る必要はないと思います。ですが、やっちゃってもいい人には、思い切り悪戯して怖がらせても良いような気がします」

「どういうことだ?」


 今まで黙って話を聞いていた龍騎がメニューから小鳥に目を移して尋ねた。小鳥は「ふっと思いついたことなんで、こんなやり方もあるんだなという感じで聞いてほしいんですけど」と前置きしてから話し始める。


「ちょう子さんは人間を惑わせる妖怪ですよね」


 小鳥がネットで仕入れた知識では、灯りを目印にして歩いてきた人間が、追い付いたと思った所で灯りが消えて、後ろに現れるなどの伝承があった。ちょう子の場合は酔っ払いをからかって遊んでいたようだ。


「そうですけど、それが何か?」

「慎也さんを傷つけた人間が許せないと怒っていましたよね。そんな感じで良い人を助けるような行動をとってみてはどうでしょうか」

「えーっと、どういうことでしょう?」


 向かいに座るちょう子が目を輝かせて尋ねた時、飲み物が運ばれてきたので小鬼たちが騒ぎ出したため話が一時中断されることとなった。

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