90、隠し部屋
昼食をとって休憩した俺達は、また午後の活動を始めていた。今は九層まで下りて来ていて、痺れ蝶は追加で二匹倒すことに成功している。これで痺れ蝶の鱗粉採取の依頼は完璧なはずだ。
しかしまだもう一つの依頼、幻光華の採取依頼を達成していない。幻光華が育つ条件に当てはまる場所を念入りに見て回っているんだけど、まだ発見できていないのだ。
「あれ、この部屋って地図に載ってない……?」
小休憩ということで水分補給をしつつ冒険者ギルドで買った地図を見ていたら、マップとの差異に気づいた。いや、マップとの差異だらけではあるんだけど、それでも今までは大まかな地形は全て記されていたのだ。
だけど俺のマップに載っている隠し部屋らしき場所が、この地図には載っていない。
俺は周りに冒険者がいないことを確認して、皆にも見えるようにマップを広げた。
「どうしたんだ?」
「ちょっとここ見て。ここに半地下みたいな隠し部屋があるみたいなんだけど、地図には載ってないんだ」
「本当だね。もしかして……今まで誰も見つけてない場所とか?」
「それ凄いな! わくわくするな!」
その可能性は高いだろうな。ただ隠し部屋の情報提供をしたら冒険者ギルドから情報提供料をもらえるけど、それよりも隠して独占している方が利益があるならそうしてる人はいるかもしれないけど。
「とりあえず行ってみようか」
「そうしましょう! 楽しみですね!」
ミルが尻尾を振って嬉しそうだ。そんなミルの可愛さに俺達は全員やられて、その場にしゃがみ込んで交互にミルを抱きしめた。
本当にミルはアイドルだな。ミルがいさえすれば、俺達はずっと洞窟型のダンジョンに潜ってても明るい気分でいられるだろう。
それからはスキップでもしそうなミルを先頭に、マップを頼りに隠し部屋まで向かった。すると隠し部屋があると示されているのは……何の変哲もない木の根元だった。
「パッと見ただけだと部屋への入り口なんてないよね?」
「そうだけど……なんだろう。木の幹にスイッチがあるとか?」
「とりあえず、斧で突いてみるか?」
「そうしようか。でも罠があるから気をつけて。隠し部屋までの階段のところに、矢が飛んでくる罠が表示されてるんだ」
俺のその言葉にウィリーは神妙な面持ちで頷き、恐る恐る斧で木の幹を数ヵ所突いた。しかし特に何も起きない。それから幹じゃなくて木の根元とか枝とか、いろんな場所を探ってみても特に何も変化はない。
「……全く分からないな」
「もしかして、この木にスイッチがあるんじゃないのかな。例えば隣の木とか」
「確かにその可能性はあるかもね。後は少し掘ってみるとか?」
「それなら僕が!」
ミルはミレイアの掘ってみるという言葉に反応し、嬉しそうに耳と尻尾をピンと立てて木の根元に向かった。そして前脚で器用に穴を掘り始める。
こういう動作をしてると、本当に犬だな。俺がミルを作った時に想像したのは犬で、この世界に日本にいたような犬はいないから、ミルが特異に見られるのは仕方がないのだろう。
「皆さん、何かあります!」
「本当?」
ミルに呼ばれて木の根元に向かうと、そこには石のような硬い素材の四角柱が埋まっていた。その四角柱の上部には手で掴めるような丸い取っ手が付いているので、引き上げるのだろうか。
「皆、引き上げてみるから少し下がってて。ミレイア、罠で矢が飛んでくるかもしれないから結界をお願いしても良い?」
「了解」
ミレイアの結界が俺の周りを囲んだのを確認してから、一度深呼吸をして四角柱を思いっきり引き上げた。するとガコッと大きな音を立てて四角柱が引き上げられ、それに伴って木の根元に人が一人通れるほどの穴が現れた。まだ罠は発動してないみたいだ。
「この穴に入ったら罠が発動するのかも」
「結構小さい穴じゃねぇか? 中は階段なんだよな?」
「うん。マップではそうなってるよ」
「じゃあ私が最初に入るよ。結界は自分に纏わせるのが一番やりやすいし、それで罠を発動させてから皆も入って来て」
俺達はミレイアのその意見を採用することにして、まずはミレイアが穴の中に入った。ミレイアが中に入って数秒後に矢が放たれた音と結界にぶつかった音が聞こえ、すぐにミレイアの声が聞こえてくる。
「もう大丈夫みたい! 皆も来て良いよー。中は結構広いかも」
ミレイアの声に従って中に入ると、階段は俺達が横に広がれるほどに広かった。中は洞窟フロアのように少しだけ壁が光っていて、光源は必要なさそうだ。
「奥に続いてるな」
「うん。しばらく階段を下りると部屋が……あれ?」
「どうしたの?」
「さっきまでは部屋の中に何も表示が無かったのに、今は魔物が十匹ぐらいと宝箱が表示されてる」
「マジか! 初めての宝箱だな!」
なんでここに入るまでは表示されてなかったんだろう。考えられる一番可能性が高い理由としては、あの四角柱を引いて中に入ると宝箱と魔物が出現する仕組みになってるとかかな。後は……隠し部屋は中に入らないとマップでも様子が分からないとか。
まあどちらにせよ、隠し部屋の中に入らないと表示されないのは同じか。隠し部屋は魔物がいなくても入ったら出現する可能性もある、そう覚えておこう。
「慎重に進もう。十匹の魔物はかなり多いから」
「確かにそうだな。ゆっくり進むぞ」
それからウィリーとミルを先頭に警戒しつつ階段を下りると、すぐに目的の部屋が見えてきた。部屋の中にいるのは……何だあれ。デカい蟻?
「あれってキラーアントじゃない?」
「え、あの街を滅ぼしたっていう伝説の!?」
キラーアントの話は俺も本で読んだ。地球にいたアリと全く同じで地中に巣を作るから、人間は巣があることに気付けないんだ。そのうちに巣の中で大量繁殖して、何千匹のキラーアントが街を襲って壊滅させたっていう事件がある。
だから今は一匹でもキラーアントを見つけたら監視して巣を突き止めて、すぐに壊滅させるのが決まりだ。
ダンジョンの外にもいる魔物だから、そこまで個の力が強いわけじゃないんだろうけど、数の暴力は怖い。これは冒険者ギルドに報告した方が良いかもしれないな……




