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87、森林フロア

 初めてダンジョンに潜った次の日。俺達は昨日と同様に、朝早くから冒険者ギルドに来ていた。


「今日はどの依頼にする?」

「とりあえず五層までは最短距離で進んで、今日は六層から探索するから……この辺の森林フロアでこなせる依頼にしようか」


 ここアーネストの街のダンジョンは、六層から十層までは森林フロアなのだ。とは言ってもまだ鬱蒼と木々が生い茂った森というわけではなく、低木も多い草原と森の間ぐらいの環境だそうだけど。


「あっ、これとかどう? 痺れ蝶の鱗粉の採取だって」

「良いかも。じゃあ一つはこれにしよう。あと一つぐらい……」

「これはどうだ? 結構報酬が高いぞ」


 ウィリーが指差した依頼は、幻光華の採取という依頼だった。幻光華って確か稀にしか見つからないって本に書いてあったよな……でも依頼達成期日は一週間後か。俺達ならミルもいるから、いける可能性はある。ここは挑戦するかな。


「俺は良いと思う。ミレイアとミルは?」

「私は賛成かな。たまには難易度が高い依頼にも挑戦しないとね」

『僕も賛成です! もし見つからなくても僕の鼻があれば、お店で売っている幻光華の香りを嗅がせてもらえれば見つけられます!』

「じゃあこの二つにしよう」


 そうして依頼を決めた俺達は、依頼の受注手続きを済ませてギルドを出た。そして昨日と同じ順序を踏んでダンジョンに入る。


「もうダンジョンにも慣れたな」

「まだ二日目だけど昨日よりは慣れたよね。でも油断は禁物だよ?」

「分かってるって。ちゃんと警戒は怠らないから大丈夫だ」


 ダンジョンの一層には、昨日よりもたくさんの冒険者がひしめき合っていた。こんなに冒険者がいたら、ビッグバードはダンジョンから生み出されない限り姿を消しそうだな。


「五層までは戦わずに行くんだよな」

「うん。できる限りだけど」

「じゃあ、どんどん階段に向かおうか」

「おうっ!」


 それからは俺のマップを駆使したことで、六層に続く階段まで三十分ほどで辿り着くことができた。昨日の帰りもそうだったけど、洞窟フロアはどんなに頑張っても三十分は抜けるのにかかるみたいだ。まあ、三十分ってかなり早いと思うけど。


「この先が六層なんだな」

「そうだよ。ここからは未知の領域だし、気合を入れ直そう」

「そうだね。あらためて油断は禁物だよ」

「わんっ!」

 

 俺達は階段を前にして、皆で顔を見合わせて頷き合った。そして少し緊張しながら階段を下りると……目の前に広がったのは、どこまでも続いているかのような森と青い空だ。


「情報としては知ってたけど、いざ空が現れると驚くよ」

「本当だね……地下に潜ってるのに空があるとか混乱する」

「なんか、ダンジョンって凄いな!」

『本物の空みたいですね……雲も浮かんでます』


 ダンジョンコアは神力を行使できるんだからこのぐらいはできるだろうけど、いざ目の当たりにすると本当に驚く。食料があるならここに住めるな。


「それにこれは森っていうのかな? 森というよりも、木が多い草原?」

「確かにそっちの方がしっくりくるかも」


 少なくともナルシーナの街の周辺にはなかった環境だ。初めての場所だし気をつけないと。明るくてそこかしこに花も咲いてるし気が緩みそうになるけど、ここはダンジョンの中で魔物がいるんだから。


「さっそく依頼を達成していくか!」

「そうだね。痺れ蝶と幻光華を見つけないと」

「痺れ蝶は木が密集してる暗い場所にいることが多くて、幻光華は反対で日当たりが良い場所に稀に咲いてるって」


 俺は皆に見張りを頼んでマップに気をつけつつ、本を広げて依頼の魔物と植物の特徴を調べた。


「ちなみに痺れ蝶は俺達が両手を広げたぐらいの大きさだけど、闇魔法のステルスを使えるから近づかれたことに気づかないらしいよ。気付かずに近づかれて鱗粉を浴びちゃうと、しばらく体が痺れて動きづらくなるって」

「マジか、結構危険なんだな」


 痺れの程度は弱いから痺れ蝶自体が危険というよりかは、体が痺れてる時に他の魔物に襲われたら危ないって感じだろう。


「採取はどうやってするの?」

「羽を傷つけないように討伐して、羽をそのまま持ち帰るか、鱗粉だけを何かの容器に入れて持ち帰れば良いって」


 アイテムボックスを持ってなければ鱗粉を容器に入れる一択だけど、アイテムボックスがあるなら羽ごと持ち帰るのでも良いのかもしれない。


「幻光華は紫色の小さな花がいくつも咲いてる手のひらサイズの植物で、採取は根元から切り取っちゃって良いらしいよ」

「そうなんだ。どっちから狙うことにする? 採取が大変なのは痺れ蝶だけど、見つけるのが大変なのは幻光華だよね。私達にはトーゴのマップがあるから、魔物ならすぐに見つけられるだろうし」

「それなら痺れ蝶からにしようぜ。簡単な方から達成した方が、難しい方に集中できそうだしな」


 ウィリーのその提案に誰も反論しなかったので、俺達は痺れ蝶から見つけることになった。まずは俺がマップを展開して、魔物の位置を確認する。


「どう? 魔物はたくさんいる?」

「一キロの範囲内に五つも反応があるよ」

「じゃあそれを端から倒していくしかないな」

「そうなるかな」

「あれ、そういえばダンジョン内でも範囲は一キロだったんだね」


 俺はミレイアにそう言われて、初めてその事実に気づいた。ダンジョン内での生体反応を示すマップの範囲を、後で確認しようと思ってたのに忘れていた。


「ダンジョン内でも一キロみたい。ちなみにこのフロアから結構広くなって、端から端まで三キロ以上はあるよ」

「マジか。そんなに広い空間が地下にあるとか驚きだよな……」


 本当に不思議だよな。まあ地下にあるというよりも、ダンジョンは異空間にあるって感じだろうけど。


「このマップに植物系や虫型の魔物が映るのかどうかはまだ確認できてないから、何匹も倒して痺れ蝶に出会わなかったら、また方針を変えようか。一番近くの魔物は……あっちだよ」

「じゃあ行くか!」

「わんっ!」


 ウィリーとミルが張り切って先頭を進み、俺達は六層に本格的に足を踏み入れた。

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