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86、ダンジョンからの帰還

 すぐ隣にある冒険者ギルドに向かうと、ギルドの中は冒険者でごった返していた。やっぱりこの時間は一番混み合うみたいだ。


「やっぱり凄いな」

「本当だね……でもちょっと慣れてきたかも」

「分かる。もう動きづらいなーぐらいにしか思わなくなったよ」

「わんっ」


 皆でそんな話をしながら仕事受付の列に並び、十分ぐらいで俺達の順番が来た。受付はもちろんモニカさんだ。やっぱり顔見知りの受付が良いということで、モニカさんがいるときにはそこを選んでいる。


「仕事受付です。依頼達成ですか?」

「はい。こちらの依頼です」

「ビッグバードの肉の納品ですね。こちらのトレーに依頼の品をお願いいたします」


 モニカさんは依頼票を一目見るとすぐにトレーを準備して、俺達が肉を載せている間に依頼達成記録への記入を済ませたみたいだ。モニカさんも凄く仕事ができる人だな。


「ありがとうございます。依頼の品、確かに受け取りました。報酬をお持ちしますので少々お待ちください」

「分かりました」


 それから数十秒後には報酬が支払われ、俺達は受付を後にした。かなり混んでる時間だからか全く無駄がない手続きだ。世間話をしたい時や情報を得たい時は、絶対に空いてる時間じゃなきゃダメだな。


「トーゴ、次は買取受付に行くよね?」

「うん。今日討伐したレッドカウの素材をいくつか買い取ってもらおうと思って。あとは布肉の買取金額も聞いてみたいなって」

「確かに気になるな!」


 買取受付も仕事受付と同様に混んでいたので並んで順番を待ち、同じく十分ほどで俺達の番が来た。買取受付は重いものを運ぶからか男性が多いみたいで、俺達の並んだ受付も男性だ。


「買取受付です。こちらのトレーに買取を依頼したい品を置いてください」


 ナルシーナの街では魔石は宿で売ってたから買取に出さなかったんだけど、ここでは使い道はないし売ってしまおう。あとは……やっぱり皮や毛皮、それから角、爪かな。肉は食料になるからとっておきたい。


「これでお願いします」

「かしこまりました」


 一般的な人のアイテムボックス容量を考えて素材を出すと、少し驚かれはしたものの普通に受け取ってもらえた。


「それからこれなんですけど、ビッグレッドカウの宝箱から出た布肉です。これはいくらになるんでしょうか?」

「おおっ、布肉が出たのですね。それはかなりの幸運ですよ。そちらは買取価格、金貨一枚となっております」

「え、金貨一枚ですか!?」


 一塊のステーキ肉が出てくるだけなのにそんなに高いのか。マジで驚いた。


「何でそんなに高いんだ?」

「保存食として最適だからです。焼かない限りはいつまでも保存できますし、食べる時には焼きたてのステーキ肉が食べられます。ダンジョンの奥に挑む時など、高いお金を出しても欲しいという冒険者はたくさんいます。それから珍しいものが好きな貴族にも買われていきます」


 そうだったのか……確かにそう言われると、保存という観点ではめちゃくちゃ優秀なんだな、布肉。


「どうする、売っちゃう?」

「いや、俺は食べてみたい!」

『僕もです!』

「私は二人の意見に従うよ」


 ミレイアが食い気味に売ることに反対したウィリーとミルの意見を尊重してくれたので、布肉は取っておくことに決まった。特にお金に困ってるわけでもないからな。


「ではこちらの品物だけ査定いたします。パーティー名でお呼びしますので少々お待ちください」

「分かりました。よろしくお願いします」


 受付から離れて併設の食堂に向かうと、少しだけ人混みが緩和された。意外と食事をしてる人は少ないみたいだ。


「宿で食事が出るから空いてるのかな」

「確かにそうかもね。もう少し遅い時間になると、お酒を飲む人達で賑わうのかもよ」


 そうか、この食堂って夜は居酒屋になるのか。お酒って美味しいのかな……少し気にはなるんだけど、飲んでみようとまでは思えない。


「二人ともお酒は飲んだことないんだっけ?」

「私はないよ」

「俺もないな。だって酒って高いよな? 高い金出して飲み物を買うんなら、ステーキとか串焼きを買った方が良くないか?」

「ははっ、確かに」


 ウィリーは全くブレないな。でも確かにお酒って飲み物だし、空腹を満たすものではないだろう。ウィリーはガッツリ食べたい人だからお酒にはハマらないのかも。


「トーゴは飲んでみたいのか?」

「うーん、ちょっと気になるぐらいかな。でももう少し大人になるまではいいや」

「大人になるまでって、トーゴはもう成人だよね?」


 そうなんだけど……俺にとってはやっぱり十五歳で成人というのには慣れない。成人と言ったら二十歳だ。


「そうだけどもうちょっと稼げるようになったらというか、大人の余裕が生まれたら? みたいな感じ」

「確かに大人の余裕はないな。じゃあ数年後ぐらいに皆で飲んでみようぜ」

「そういう約束も面白いかもね」


 そこまで話をしたところで、受付から俺達のパーティー名が呼ばれた。


「光の桜華の皆さん、こちらまでお越しください」

「はい。今行きます!」


 混み合っているギルド内で目立つように声を張り上げて、受付の横にある受け渡し専用の窓口に向かった。するとさっきの男性とは別の人が、お金と買取金額の詳細が書かれた紙を渡してくれる。


「これで問題がなかったらお受け取りください。金額が合っているかはこの場でお確かめください。後から間違っていたというクレームは受け付けておりません」

「分かりました」


 詳細を見てみると、ナルシーナの街で素材を売るときよりも全体的に一割ほど価格が上がってる感じだった。まだ浅い階でこれだけ稼げるのなら、これからが楽しみだ。

 全員で中身が合っているかを確かめて、報酬を受け取って冒険者ギルドを出た。


「結構な金額じゃなかったか?」


 ギルドから出ると、ウィリーが興奮の面持ちでそう声を発する。それにミレイアとミルも頷いて同意を示した。


「やっぱりダンジョンは凄いね」

「この調子ならもっと金が貯まりそうだよな。そしたら食事にかけられる金額が増えるぜ!」

『高級料理も食べられるようになりますよ!』


 ミルの念話を二人に伝えると、ウィリーが瞳を輝かせてミルの頭を撫でた。


「ミル、良いこと言うな! 今度の休みにでも高い肉を買ってみるか」

「わんっ!」

 

 そうして俺達は心地良い疲れと、始めてのダンジョン攻略が上手くいった達成感を味わいながら、宿に向かって足速に歩みを進めた。

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