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84、お昼ご飯とレッドカウ

 ダンジョンに入ってから数時間後。俺達は五層に辿り着いていた。ここまでは宝箱もなく魔物も俺達にとっては弱かったので、かなりのペースで進むことができたのだ。


「ここが洞窟フロア最後なんだよな!」

「うん。今までフロアボスはいなかったし、ここにいるのかもね」

「おおっ、フロアボス倒してみたいな!」

「このダンジョンの洞窟フロアのフロアボスはビッグレッドカウらしいし、レッドカウは基本的に五層にいるみたいだから、ここにフロアボスがいる可能性は高いよ」


 端から端まで捜索してフロアボスを探そうかな。フロアボスを倒した時にもらえるという、ボーナスの宝箱に凄く興味があるのだ。


「レッドカウはめっちゃ美味いんだよな! できるだけ討伐して肉を持ち帰ろうぜ!」

「わんっ!」


 ウィリーが拳を掲げて発した言葉に、ミルが嬉しそうに同意を示す。本当に二人とも食いしん坊だよな……


「レッドカウは高く売れるらしいし頑張ろうか。でもその前にお昼ご飯にする? ちょうどお昼を少し過ぎた時間だけど」

「たくさん動いたしお腹空いたよね」

「お昼、もちろん食べるぜ!」

『僕もです! 美味しそうな魔物をずっと倒していたので、お腹が空きました!』


 魔物を倒してお腹が空くって……まあちょっとだけ分かるけど。俺もこの世界に完全に染まってきたな。


「じゃあお昼ご飯を食べられる場所を探そう。ダンジョンの本によると、洞窟フロアは行き止まりの場所で休憩するのが定石なんだって。行き止まりなら一方向だけを見張れば良いから」

「そうなのか。確かに左右どっちも見張ってるのは大変だよな」

「じゃあ行き止まりの場所に向かおうか。トーゴに案内してもらうので良い? 自分達で探す?」


 ミレイアは俺達に向かってそう問いかけた。実はここに来るまではマップに頼り過ぎないようにと、マップを封印して自分達で歩いて階段を探し回ったのだ。一応宝箱があるかないかだけは各フロアで一度だけ確認したけど、それ以外でマップは使っていない。


「うーん、もうかなり腹減ったから、マップを使うのでも良いか?」

「わんっ!」


 ウィリーが苦笑しつつそう告げた言葉にミルが即座に反応し、俺とミレイアは苦笑を浮かべた。


「お腹が空いたなら仕方ないか。じゃあマップで一番良い場所に向かおう」

「おう!」

「了解。案内するよ」


 俺のマップ能力はこれから先で使えなくなることなんてないんだし、マップがない場合のダンジョンについてはもう十分に体験できたから、ここからは普通に使っても大丈夫だろう。

 ただ二人が俺とはぐれる場合も想定に入れて、たまにはマップなしでダンジョンを進むというのもやるべきかな。


 それから十分ほど歩みを進めて、運良く魔物とは遭遇せずに目的の場所に辿り着くことができた。俺達は通路と繋がる方を全員で見張りながら、横一列に座って昼食を食べることにする。


「何を食べたい? 色々アイテムボックスに溜まってるから、なんでもあるけど。あっ、他の冒険者に見られても問題ないやつでお願い」


 アイテムボックスは闇属性持ちなら使えるとはいえ、ここで鍋にたっぷりのカレーを出して食べてたり、熱々のパスタや煮込み料理などを食べていたらさすがに目立つ。


「それなら……俺はサンドウィッチが良いな」

「了解。俺もサンドウィッチにするかな」


 アイテムボックスの中を探って今の俺の気分でサンドウィッチの種類を選び、ウィリーには四つ、俺には二つのサンドウィッチを取り出した。


「おおっ、美味そうだな!」

「足りなかったらまた言って。ミレイアは何が良い?」

「私はパンが良いかな。ベーグルと甘いパンでお願い」

「ベーグルは食事系の方で良い?」

「うん。よろしくね」


 ミレイアの要望に応えて、ハムと野菜が挟んであるベーグルサンドと、ふわふわのコッペパンに砂糖がまぶしてある揚げパンのようなものを取り出した。


「ありがとう! この匂いだけで元気でるよ」

「最後はミルだけど何が良い?」

『僕はお肉が食べたいです! 串焼きはダメでしょうか?』

『串焼きか……まあ大丈夫かな。肉を串から外すからちょっと待ってて』

『ありがとうございます!』


 俺はさすがにいつもの台やお皿を出すのは自重して、サンドウィッチなどを包むのによく使われる葉を地面に広げた。そしてその上に、串焼きの肉を何本も串から外して盛っていく。


『良い匂いですね!』

『本当だよ。一つもらっても良い?』

『もちろんです!』


 ミルの了承を得て串焼きの肉を一つ口に入れると、口の中にジュワッと肉の旨みが広がった。動いた後の肉は最高だな。


『これぐらいで良いかな。はいどうぞ』

『ありがとうございます!』


 そうして俺は皆に昼食を渡し、自分もサンドウィッチにかぶりついた。おおっ、このサンドウィッチも美味いな。本当に食事が美味しい世界に設定しておいて良かった。硬い黒パンに塩漬け肉しかない世界とかだったら、マジで耐えられなかったと思う。


「この後はレッドカウの討伐だよな?」

「うん、そうしようか」

「それでビッグレッドカウも探すんだよね。ボーナスの宝箱楽しみだなぁ」

『僕が開けたいです!』

「ははっ、ミルが開けたいってさ」


 俺がミルの声を二人に伝えると、二人は優しい笑みを浮かべてミルの頭を撫でた。


「仕方ないな。ミルに譲ってやるよ」

「もちろんミルちゃんが開けるので良いよ! ミルちゃんやっぱり可愛いねぇ〜」

「ミル、良かったじゃん」

「わんっ!」


 あっ……魔物が来るかも。頭の中に広げていたマップに映る魔物が、ちょうど俺達がいる行き止まりの脇道に入ってきたのだ。


「皆、魔物が来たよ。一匹だけだけど」

「わはったせ!」


 ウィリーは残りのサンドウィッチを口に詰めながらそう言った。ウィリー、残りは魔物を倒してから食べるのでも良いんだよ。


「ミル、行くぞ!」


 サンドウィッチをなんとか飲み込んだウィリーは、ミルに声をかけて二人で通路の先に駆けていった。もうそこに魔物の姿が見えていたのだ。

 魔物はレッドカウで、カウよりもフォレストカウよりも体が大きいみたいだ。これで火魔法を使うんだから、他のカウよりもかなり強いよな。


「ウィリー、火魔法に気をつけて」

「分かってるぜ!」

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