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79、屋台巡り

 ギルドを出ると日差しが強く、暑いぐらいの気温だった。最近は暑い日も増えていて、外に長時間いるのは辛い季節だ。ダンジョン内は外の気温とは全く異なるらしいから、ダンジョンに挑むには良い時期なんだろうな。


「暑いね〜」

「この時期は嫌だよな。ダンジョンの中は涼しいんだろ?」

「涼しいって決まってるわけじゃないみたいだよ。低層階の洞窟フロアは肌寒いぐらいだけど、森林フロアは蒸し暑いみたいだし。それにここのダンジョンにはないけど、砂漠フロアはとにかく気温が高かったり、雪が降り積もるフロアとかもあるらしいよ」


 地中型のダンジョンはずっと洞窟ってこともあるけど、その階ごとに全く環境が異なることもあるらしいのだ。地下なのに森があったり砂漠があったり、本当に不思議だよな。

 まあダンジョンコアに与えた神力を行使できる権限を考えると、そのぐらいのことは可能だろうなって思うけど。


「そうだったな。ここのダンジョンは洞窟と草原と森林、それから荒野だったか?」

「そうみたい。マップで確認してもそれ以外はないよ」

「厳しい環境のフロアがあるのは、五大ダンジョンがほとんどだからね」


 そうなんだよな……五大ダンジョンは魔物の強さも難易度の上昇に寄与しているけど、その環境もなのだ。色々と装備を準備しないと厳しいだろう。


「五大ダンジョンは厳しいんだな。なんか、ワクワクするぜ!」


 ウィリーは瞳を輝かせてそう言った。そう思ってくれる仲間がいて幸せだよな……


「五大ダンジョンに行けるように、まずはここのダンジョンクリアを目指そうか」

「おう! あっ、あそこの屋台美味そうじゃないか?」

『いえ、その隣の方が美味しい香りがします!』


 屋台が視界に入った途端に、ウィリーの意識は完全に食に向かったらしい。ミルもウィリーと一緒だ。


「ウィリー、ミルがその隣の方が良いってよ」

「あの串焼き屋か?」

「そうみたい」

「じゃあまずはあそこで買うぞ! ミル、行くか!」

「わんっ!」


 屋台に向かって駆け出したウィリーに続いて、ミルも嬉しそうに後に続く。俺とミレイアもそんな二人を追いかけた。


「いらっしゃい! うちの肉はダンジョンの低層階にいるビッグバードを使ってるんだ。すげぇ美味いぞ」

「美味そうだな!」

「おう、分かってるじゃねぇか。タレと塩の二種類があるぜ」


 ビッグバードは鶏肉みたいな見た目だった。ナルシーナの街にも鶏肉のような食感の肉はあったけど、それよりもかなり肉厚に見える。とりあえず美味しそうってことは確かだ。


「皆はどのぐらい食べる?」

「私はタレと塩を一本ずつで」

「俺もミレイアと同じで」

『僕は三本ずつがいいです!』

「ミルには三本ずつお願い」


 ミルからの念話の内容も伝えると、ウィリーは満面の笑みでミルの頭をガシガシ撫でて、俺もミルと同じ本数にすると口にした。ミルはそんなウィリーの言葉が嬉しそうだ。


「結局全部で何本だ?」

「それぞれ八本ずつだね」

「八本だな。ちょっと待ってな!」


 ミレイアが本数を伝えると、屋台の店主であるおじさんはニカっと気持ちの良い笑みを浮かべてみせた。こういう店主だとまた来たくなるんだよな……やっぱり客商売って人柄が大事だ。


「うわぁ、めっちゃ良い匂いがするな。やばい、お腹が空きすぎて倒れる」

「ははっ、俺の串焼きは美味いぞ」

「もう匂いからして分かるぜ!」

「わんっ! わうんっ!」


 ウィリーの言葉に同意するようにミルが吠えると、おじさんは屋台から顔を出してミルを覗き込んだ。


「随分と頭のいい従魔なんだな。言葉を理解してるのか?」

「ああ、ミルは凄いんだぜ。まあ俺の従魔じゃなくてトーゴのだけどな」

「そうなのか? 他の仲間にもこんなに懐いてるとは、凄いやつだな。この街には魔物使いも割と多いが、主人以外には懐かないのが多いんだ。まあたまに人懐っこいのもいるけどな」


 この街には魔物使いが多いのか。街中を歩く時には観察してみよう。一般的な魔物使いと従魔の雰囲気を知りたいし。


「ほらっ、まずはタレが焼きあがったぞ」

「おおっ! 美味そうだな!」

「八本で銅貨八枚だ。塩も合わせると銀貨一枚と銅貨六枚だな」


 俺が鞄から財布を取り出して銀貨二枚をおじさんに渡し、その代わりに皆が串焼きを受け取った。

 ちなみに俺はアイテムボックスを使えるけど、鞄を持っていることもある。実際はいらないんだけど、その方が目立たないのだ。アイテムボックスの容量は魔力量に応じてなのでそこまで大きくない人も多く、ほとんどの人は少しでも収納スペースに余裕を持たせられるようにと鞄を持つ。


 最初は鞄なんていらないと思ってたんだけど、後々その事実に気づいて今では鞄を持つことも多くなった。さらにアイテムボックスはかなり有用なスキルだから、使えることがバレるとそこかしこで勧誘されるのだ。街中ではその煩わしさから解放されるというメリットもある。


 ただやっぱりアイテムボックスが便利すぎるから、一度鞄をアイテムボックスに収納してしまうと、そのまま忘れて持ってないってことも多々あるんだけど……そこはもう仕方がないかなと諦めモードだ。アイテムボックスが便利すぎるのがいけない。


「はいこれ、トーゴの」

「ありがと」


 ミレイアから一本串焼きを受け取ると、暴力的なまでの良い香りが鼻をくすぐった。俺はその香りに誘われて、さっそく串焼きにかぶりつく。


「え、ヤバい。これめっちゃ美味い」

「本当だな! おっちゃん凄いな!」

「ははっ、自慢のタレだからな」


 自慢というだけある。肉もジューシーで肉厚で美味しいんだけど、とにかくこのタレが最高に美味い。


「このタレっておじさんが作ってるの?」

「そうだぜ。何を使ってるかは秘密だけどな」


 まあそうだよな……仕方ないけど知りたかった。このタレは売ってたら買い占めるほどの味だ。日本で食べてた焼き鳥のタレよりも、もう少し癖のある味なんだけど……その癖が絶妙に美味しい。


「塩も焼けたぜ」

「ありがと! また絶対来るからな」

「おうっ、待ってるぜ」


 そうして俺達は串焼きを全部受け取り、おじさんの屋台を後にした。俺達の後ろには三人ほど並んでいたので、この屋台はかなり人気だったみたいだ。まあこの味なら納得だな。


「どこかで立ち止まって食べない? 人が多いし」

「ああ、ミルもその方が食べやすいだろうしな」

「あっ、あそこの端は?」


 屋台と屋台の間に、ちょうど何もないデッドスペースがあるみたいだ。


「ちょうど良いな。じゃあミル、早く行こうぜ!」

「わんっ!」


 串焼きを早く食べたいのか駆け出したウィリーに続いて、ミルも尻尾をこれでもかと振りながら後に続く。この二人は本当に兄弟みたいだ。仲が良くてほっこりするな。

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