69、ミレイアの紹介とリュイサちゃん
午後の訓練も終えて達成感と共に街に向かっていると、そろそろ門に着くというところでマテオ達に遭遇した。こうして外でばったり会うのは初めてだ。
「ようトーゴ、今日は依頼か?」
「うん。魔物の討伐依頼を二つ受けたんだ」
「お、お、お前、その可愛い子はもしかして……!?」
マテオに話しかけられてそれに返答すると、パブロが驚き戦慄きそう叫んだ。
「そういえばまだ紹介してなかったっけ? パーティーメンバーのミレイアだよ。ミレイア、この人達が一緒に依頼に行った夜の星なんだ」
「そうなんだ。初めましてミレイアです。よろしくお願いします」
ミレイアは礼儀正しく挨拶をして三人に微笑んだ。その顔を見てパブロは固まる。もしかしてパブロって、こういうふんわり可愛い感じの子が好きなのかな?
「俺はマテオだ。よろしくな」
「俺はサージ、よろしく」
「マテオにサージだね。……えっと、もう一人の方は?」
「ああ、こいつはパブロだ。おい、パブロ! パブロ?」
ミレイアのことを穴が開くほど見つめていたパブロは、マテオの呼びかけにやっと現実に戻ってきた。
「な、な、なんでこんなに可愛い女の子がトーゴのパーティーにいるんだ! ミレイアちゃんだったか? トーゴに騙されてねぇか?」
「えっと……騙されてないよ? 自分からトーゴのパーティーに入ることを決めたから」
「そ、そうなのか。――こんなに華奢で背が低めでふわふわで可愛い女の子は冒険者に普通はいないはずなのに、なんでトーゴはこんな短期間で仲良くなってるんだ? ここはどうやって出会ったかを聞いて今後の参考に……」
パブロが誰にも聞こえない程度の声量で何かをぶつぶつと呟いている。ずっと振られ続けているパブロにはさすがに刺激が強かったかと声をかけようとした瞬間、パブロが顔を上げた。
「ミレイアちゃんは、どうやってトーゴと知り合ったんだ?」
そして真剣な表情でそう聞いた。俺とミレイアの出会いを参考にしようとしてるってこと……? さすがにあれは参考にならない気がする。
「えっと……私が朝早くに家の外に出て新鮮な空気を吸ってたの。そしたらトーゴがたまたま通りかかって、いろいろ話して仲良くなった、のかな?」
ミレイアが同意を求めるように俺に向かって首を傾げたので、俺はしっかりと頷く。
「うん。大体そんな感じかな」
でも俺とミレイアが仲良くなったのは、完全にバリアのスキルがあったからだけど。あれがなければちょっと話して終わりだったはずだ。
「トーゴ、朝の何時ぐらいに散歩したんだ?」
「うーん、日が昇ってすぐぐらいの時間だよ」
「よし分かった、じゃあ俺はこれから早起きして早朝の散歩をするぞ! それで女の子と知り合って仲良くなるんだ!」
パブロはやる気に満ち溢れたような表情で拳を握りしめた。それで女の子と仲良くなれるのかは置いておいて、早起きして散歩は健康に良いから悪いことではないだろう。
「頑張って」
「おうっ!」
もしかしたら早朝から花の手入れをしている花屋の女性とか、朝早くからパンを焼いているパン屋の女の子とか、意外と知り合えるかもしれないし。
マテオとサージも苦笑して肩をすくめつつ、パブロを止めてないので良いのだろう。
そうして皆で話しつつ街の中に入り冒険者ギルドに向かい、ギルドで依頼達成の報告とそれ以外の魔物素材の買取りをしてもらって宿に戻った。
これからは毎日頑張って、どんどん強くなるぞ。そう気合を入れて眠りについた。
それから一週間後の今日。一週間休みなく街の外に行き依頼をこなしたので、今日は皆で決めて一日休みとした。やっぱり根詰めてやりすぎても良いことないからな。
「トーゴは今日何するんだ?」
今は宿の食堂で朝ご飯を食べているところ。少し眠そうなウィリーにそう聞かれた。
「俺は前に家庭教師をしていた子の所に行こうかと思ってるんだ。たまに時間があると顔を出してるんだよ」
俺のその返答が意外だったのか、ウィリーの瞳が驚きに見開かれる。冒険者が家庭教師ってあんまり聞かないからな。
「トーゴは家庭教師なんてやってたのか。やっぱり頭良いんだな〜」
「そんなことないよ」
「いやトーゴはすげぇよ、いつも俺に色々と教えてくれてるだろ? すげぇ分かりやすいもん」
「そう? それなら良かったよ」
ウィリーには夕食後の時間に少しずつ敬語や計算、読み書きなんかを教えているのだ。
「なあ、その教え子? のところに俺も一緒に行って良いか? ミレイアはこの街に家族もいるし休みがあればやることもあるんだろうけど、俺はこの街のことほとんど知らないし何やれば良いか分かんねぇんだ」
確かにそうか。実際は俺も休みに何をやれば良いのか分からないんだよな……リュイサちゃんのところに行くぐらいしか思いつかない。
「じゃあ一緒に行こうか。リュイサちゃんも喜ぶと思うし」
「良いのか!? ありがとな」
そうして俺はウィリーとミルと共に宿屋を出て、リュイサちゃんのところに向かった。リュイサちゃんの家の宿屋に入ると、そこはいつものように豪華で、しかし落ち着いた雰囲気を放っていた。
カウンターにいる初老の男性が心得たように少し下がり、すぐにリュイサちゃんを呼んできてくれる。
「お兄ちゃん、また来てくれたんだ!」
「うん。リュイサちゃん久しぶり。今日は他の予定とかなかった?」
「うん! 今日は家庭教師の先生も来ないから暇だなって思ってたの。お隣のおばあちゃんとお話ししようかと思ったんだけど、お兄ちゃんが来てくれたからお兄ちゃんとお話しする!」
リュイサちゃんはいつでも元気いっぱいだ。リュイサちゃんと会うと俺も頑張ろうと思えるんだよな。
「ミルちゃんもいる〜。久しぶり、やっぱり可愛いねぇ」
リュイサちゃんはミルの首元にギュッと抱きついてそう言ったところで、やっとウィリーの存在に気づいたらしい。不思議そうな顔で首を傾げた。
「お兄ちゃん、その人は?」
「この人はウィリー、俺のパーティーメンバーなんだ」
俺のその言葉にリュイサちゃんは顔を輝かせた。冒険者に憧れてたからな。
「お兄ちゃんの仲間ってこと!? カッコいいね!」
リュイサちゃんに両手を握られてキラキラした瞳で見上げられたウィリーは、完全に勢いに飲まれてるようだ。というかこの宿屋の中に入った時から、その豪華さに腰がひけている。
ウィリーはあの村出身だから仕方ないか。これから段々と慣れていくだろう。
「ウィ、ウィリーだ、よろしくな」
「私はリュイサ、よろしくね! じゃあこっちに座ってお話ししよ!」
リュイサちゃんに連れられてソファーに座ると、カウンターにいた初老の男性が果物とお茶を出してくれた。
「ありがとうございます。とても良い香りですね」
「お褒めいただき光栄でございます。おかわりなど必要でしたらお申し付けください」
「お心遣い感謝いたします」
俺と初老の男性とのそんなやりとりに、ウィリーはより一層体を固くする。
「ウィリー、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「だ、だってよ、なんか雰囲気が落ちつかねぇよ。それに何かを壊したらと思うと下手に動けない……」
そう言ってカチコチに固まるウィリーが面白くて、思わず笑いがこぼれてしまう。リュイサちゃんも不思議そうに首を傾げている。
「まあ段々と慣れていくよ。まずはお茶を飲もうか、美味しいよ」
「このお茶すっごく美味しいからおすすめだよ!」
俺とリュイサちゃんにお茶を勧められ、ウィリーは少しだけ震える手で陶器のコップを持った。そしてガチャガチャと音を立てながら一気に飲み干しコップを置く。
「こ、これは、俺の力だとすぐに壊しそうで怖いな」
「確かにウィリーは力が強いから怖いのか。でも普段は普通に抑えられるんでしょ?」
「ああ、でも緊張してたりすると体に力が入るっていうか、制御が難しくなるんだ」
「そんなものなんだ。じゃあ緊張しないように慣れないと。お金も貯まったし陶器のコップも一つ買おうか」
俺とウィリーがそんな話をしていると、リュイサちゃんは瞳を輝かせてウィリーを見つめる。
「ウィリーお兄ちゃんはそんなに力が強いの?」
「そうなんだよ。俺よりも強いよ」
「そうなの!? 凄いね!」
「そ、そうか?」
ウィリーは素直な賞賛に照れているらしい。少しだけ顔を赤くして手で頭をかいている。
それからはウィリーも段々と緊張がほぐれ、俺達はリュイサちゃんと楽しい時間を過ごした。




