68、三人での連携
街の外に出たらさすがにウィリーも少し緊張したのか、さっきまでの高いテンションは鳴りを潜めていた。三人でぽつぽつとたまに会話をしながら、街道から逸れて草原に入る。
そしてしばらく進み誰も周りにいなくなったところで、俺はミルに話しかけた。
「ミル、もう話しても大丈夫だよ」
「分かりました。ありがとうございます!」
「さっそく依頼を達成しちゃおう。目標は午前中に依頼達成で、午後は訓練かな」
「はーい」
「分かったぜ!」
「一番近くの魔物は……」
今いる場所から四百メートルぐらい東側に二体いるな。まずはそこに行ってみよう。魔物の場所を皆に伝えて、まずは作戦会議だ。
「俺達の戦う型みたいなものだけど、基本的にはウィリーが前衛で魔物にダメージを与えつつ、後ろに魔物が来ないようにする。そしてミレイアは魔物の攻撃を上手くバリアで防ぎつつ弓での攻撃。俺は魔法で攻撃しつつ、魔法が効かない場合は剣で遊撃。それで良いかな?」
「うん。ミルちゃんは?」
「ミルはとりあえず見学かな。ミルは強すぎて参加すると訓練にならないんだ。だからもう少し俺達が強くなって魔物が強くなったら、ミルにも参加してもらうよ。基本的にはミルも遊撃になると思う」
ミルが参加するようになるのは、少なくともダンジョンに行くようになってからだな。この辺の魔物だと爪でグサッとやったら終わりだから。
「ミルは可愛いのに強いとか、マジで凄いな!」
「へへっ、僕は強いのです」
「すげぇよ!」
ウィリーに褒められ顔を激しく撫でられて、ミルはとても嬉しそうだ。ドヤ顔ミルが可愛い。
「じゃあ早速行こうか」
「うん!」
「おうっ!」
三人で気合を入れて魔物に近づいていくと……魔物はカウだった。依頼の魔物じゃなかったな。でも戦う練習にはなるし良いか。
「まずはミレイアが弓で先制攻撃、その後にウィリーが飛び出して二撃目ね」
「分かった」
「じゃあいくよ……」
カウの後側から放ったミレイアの先制攻撃は、カウの右足付け根部分に命中した。それによって一頭のカウは上手く立てなくなったのかバランスを崩して転んでいる。そこにウィリーがすかさず近づいていき、カウに向かって斧を振り下ろした。
うわぁ……斧の重さにウィリーの力が加わると凶悪すぎる。一撃で完全にカウは絶命した。しかしその間にもう一頭いたカウがウィリーに突進して来ている。俺はそのカウに向かってアイススピアを放った。
よしっ……って、えぇ。ちゃんとカウには当たったけど浅くしか刺さらなかったみたいだ。まだまだカウは止まらずに突進している。
ウィリーは斧で迎え撃つことにしたようで、カウに向かって斧を構えた。そして斧を振り下ろした瞬間、カウとウィリーの間にバリアが出現してドシンッ、ガキンッと凄い音がして辺りは静寂に包まれた。
俺は呆然としているウィリーとミレイアをとりあえず置いて、バリアに突進したカウにとどめを刺した。
「ご、ごめん! 攻撃を邪魔するつもりはなくて……」
ミレイアがウィリーのところに駆け寄ってそう謝っている。バリアはカウの突進を止めたけど、ウィリーの攻撃も止めたのだ。
やっぱり連携の練習をしないとこういうミスが起きるんだな。
「いや、大丈夫だ。俺もバリアが味方の攻撃も通さないことを知らなかったから」
「私も全然考えてなかった……」
「バリアって意外と使い所が難しいのかも」
さっきのなら一番の理想は、バリアに突撃したカウをウィリーがバリアを避けて攻撃することだろう。そういう連携がスムーズにできるようになるまで何度も戦うしかないかな。
「とりあえずミレイアはもう少し早めにバリアを出せたら良かったかも。それならウィリーも気付けてバリアを避けて攻撃できただろうから」
「そうだね。次からはもう少し早くに出せるように頑張るよ」
「おう!」
「でもギリギリでもバリアを出現させないと危ないって時もあるし……結構難しいな」
かなりの戦闘経験を積み重ねないとスムーズな連携はできなさそうだ。
「とりあえず失敗しても良いからどんどん魔物と戦ってみよう。それで戦った後にこうすれば良かったってことを話し合って、次はそれを実践してみる。その繰り返しでどう?」
「うん! それで慣れていけば上手くいきそう」
「そうだな。じゃあどんどんいこうぜ!」
――それから俺達は午前中いっぱい魔物と戦い続けた。依頼の魔物もいたのでちゃんと倒してアイテムボックスに解体してもらい、納品する部位も手に入れた。
「そろそろお昼にしようか」
「そうだね。流石に疲れたよ〜」
「さっきの依頼の魔物、ハーデンシープだったか? あいつと戦ったら疲れたぜ」
ハーデンシープはかなりでかい羊なんだけど、体をギュッと丸めて周りの毛を硬化できるみたいで、倒すのに手間取ったのだ。
「この草原では一番厄介かも。でもミレイアのバリアがあれば、倒すことはできそうかな」
「そうだな! ミレイアのバリアで一瞬でも倒れてくれるから倒しやすかった」
「ふふっ、役に立てて良かったよ」
「ミレイアさん、カッコ良かったです!」
「本当!? ミルちゃんありがと〜!」
そんな会話をしつつ大きめの木の下に向かい、そこに腰を下ろした。そしてそれぞれにカレーとパンを渡す。カレーはまだ熱々だ。
「うわぁ、良い匂い。これはお腹が空くね」
「早速食べようぜ! 神に祝福を、糧に感謝を」
「神に祝福を、糧に感謝を」
皆で食前の祈りをしてカレーを食べる。うん、やっぱり最高に美味しい。前に食堂で食べたカレーよりもここのやつの方が甘めかもしれない。野菜も色々と入ってるし、アレンジされてるんだな。
「なんだこれ、うめぇ!」
「カレーって美味しいよね」
「本当に美味しい。パンとも最高に合うし。ミルはどう?」
「やっぱりこれはとても美味しいです! トーゴ様、パンをちぎってカレーにつけてくれませんか?」
「了解」
ミル用のパンをちぎってカレーをたっぷりと付け、ミルの口元まで運ぶ。
「はい、あ〜ん」
ミルは嬉しそうに大口開けてパンを口にした。そして満足そうにもぐもぐしている。うぅ……可愛すぎる。餌付けする人の気持ちがめちゃくちゃ分かる。
「トーゴずるい! 私もミルちゃんにあげたいのに。はいミルちゃん、どうぞ」
「ありがとうございます!」
「俺も俺も、食べて良いぞ」
俺とミルのやりとりを見ていた二人が、我先にとミルにカレー付きのパンを食べさせている。
自分のやつをあげてるから、そんなにミルにあげたら自分のがなくなると思うけど……、まあミルは嬉しそうだし二人は幸せそうだから良いか。
そうしてお昼休憩で体力気力を回復させ、俺達はまた午後に魔物と戦い訓練に勤しんだ。




