67、光の桜華の初依頼
「ここがトーゴが泊まってる宿なんだ」
「うん。そういえば今まで案内したことはなかったか。多分ずっとここにいると思うから、何か用事がある時はここに伝言して欲しい」
「分かった」
三人で宿に入り俺の部屋に集まる。俺とウィリーがベッドに座りミレイアは椅子、ミルは床に座った。
「それで大切な話ってなんだ?」
ウィリーが不思議そうに首を傾げた。早めに俺の能力について話しておこうと思って、一緒に来てもらったんだ。
「実は俺の能力とミレイアの能力、さらにミルの能力について話があるんだ。周りに声が聞こえないように、絶対に大声は出さないで欲しい」
「そんなになのか……?」
「うん。多分驚くと思う」
「分かった。じゃあ俺は黙っとく」
「ありがとう」
俺はウィリーが頷いてくれたのを確認して、この前ミレイアに話したように全ての能力の説明をした。そしてミレイアのバリアとミルの能力も全て話した。
話を聞いた後のウィリーは…………キラキラと瞳を輝かせていた。
「す、すげぇな。俺そんなすげぇパーティーに入れるのか。もしかして俺たちのパーティーって、冒険者の中でも上を目指せるのか!?」
ウィリーにとっては驚きよりも喜びが勝ったみたいだ。やっぱり俺は人を見る目だけはあるかも。
「この能力については公にはしたくないから、このパーティー内だけの秘密にして欲しい」
「分かった! パーティー内の秘密、なんかそういうの良いな!」
俺はウィリーの様子に思わず苦笑してしまう。ちょっと緊張して打ち明けた俺はなんだったんだ。
「ミル、お前も喋れたんだな」
「はい。ウィリーさん、よろしくお願いします」
「そんなかしこまって話さなくても良いぞ?」
「ですが僕はこれで慣れていますので……そのうち崩れていくかもしれません」
「そっか、まあ自由で良いけどな。それよりも可愛いな」
ウィリーはミルにぎゅっと抱きついた。もうミルは皆のアイドルだな。
「じゃあ一応聞くけど、この話を聞いても仲間でいてくれる?」
「勿論だ! 逆にこの話を聞いてたら意地でも仲間にしてもらうぞ。これからの冒険が楽しみだなぁ。まずは何をするんだ!?」
「ウィリー、ちょっと落ち着こうか」
「あ、そうだったな。ごめん」
「大丈夫だよ。じゃあこの後の光の桜華の目標についても話すよ」
それから今度は五大ダンジョンと死の大陸の話をすると、ウィリーのテンションは最大にまでぶち上がった。もう今から訓練に行こうってぐらいうずうずしている。
「俺、トーゴとミレイアの仲間になれて良かった。早くもっと強くなりてぇな! 明日はどんな依頼を受けるんだ? 討伐依頼か!?」
「はいはい、落ち着いて。明日の依頼は朝一で冒険者ギルドに行って決めよう。でもこれからはどんどん魔物を倒して強くなりたいから、基本的には討伐依頼かな」
「やったぜ!」
「明日ちゃんと力を発揮するために、間違っても部屋で夜遅くまで筋トレとかしちゃダメだからね」
俺のその言葉に、ウィリーの動きが一瞬止まった。絶対に筋トレやろうとしてたな。
「ウィリー、休むことも強くなるには大切だから。無闇に訓練してれば良いわけじゃないよ」
「お、おう。分かってるぜ。今日はちゃんと休むよ」
「ふふっ、ウィリー完全に挙動不審だよ。ちゃんとトーゴの言うこと聞かないとダメだよ?」
「わ、分かってるよ。俺はもう大人だから大丈夫だ!」
……ちゃんと夜には筋トレしてないか確認することにしよう。絶対に寝られないからとか言って筋トレやってる気がする。
「まあとりあえず信じるよ。じゃあ今日は疲れただろうし解散にしようか」
「そうだね。明日から本格的に依頼を受けるんだし、今日は休もうか」
「おう、明日が楽しみだな!」
それから俺とウィリーはミレイアを見送って、少し各自の部屋で休んだ後に夕食を一緒に食べた。夕食の時にはさっき説明を忘れていた、パーティーでのお金の管理についても話をした。ウィリーは俺達が決めた管理方法に異論はないようだ。
そして早めに自分の部屋に戻り、すぐ眠りについた。
そして次の日の朝。ミルと共に朝食を食べるために食堂に向かうと、既に朝食を食べていたウィリーがいた。朝からすっごくテンション高めで。
「トーゴおはよう! ミルもおはよう! 早速今日から依頼だよな。起きてからどんな依頼を受けるのか気になって気になってさ、落ち着かないんだ!」
「ふわぁ……ウィリー、朝からそんなにテンション高かったら途中で疲れちゃうよ」
「大丈夫だ。俺って体力には自信あるから!」
「そっか〜」
俺は朝が結構苦手なので、ウィリーのテンションについていけない。とりあえず適当に流しつつ、朝食を食べながら目を覚ました。
そしてウィリーと二人で宿を出てミレイアを迎えに行き、三人で冒険者ギルドに向かった。
「うわっ、なんだこの人の数」
「朝はいつもこんな感じなんだよ。でも遅くなればなるほど良い依頼がなくなるから、この人だかりに突っ込んでいくしかないんだ。よしっ、行くよ」
俺はウィリーとミレイアと手を繋ぎ逸れないようにして、ムキムキな男達の巣窟へ入り込んだ。そして筋肉の隙間を縫ってなんとか依頼が見えるところまで辿り着く。
「ふぅ……やっとついた」
「ト、トーゴ、俺潰されてる……」
「ちょっとだけ我慢だよ」
「依頼たくさんあるね! どれにする?」
討伐依頼をいくつか受けてそれをクリアして冒険者ランクを上げつつ、持ち帰った魔物の素材でお金も稼ぐのが一番だろう。
「ホーンラビットの討伐と肉の納品依頼と、ハーデンシープの討伐と毛の納品依頼。この二つはどう?」
ハーデンシープはこの前ちょうど教えてもらったし、ホーンラビットは何度も倒している。
「私は良いと思うよ。どっちも草原にいるよね?」
「うん。ハーデンシープはもしかしたら森の中かもしれないけど。でも森の浅いところにいるはず」
「なら良いんじゃないかな。それにしよ! ウィリーも良い?」
「俺はよく分からないからなんでも良いぞ!」
魔物図鑑みたいなものと植物図鑑も出来れば買いたいよな……俺もこの辺でよく出る魔物をギルドで教えてもらったり、マテオ達に教えてもらったりしただけだから、全く知らない魔物の方が多い。
とりあえず目下の目標は、冒険者ギルドランクを上げることとお金を貯めること、三人での連携に慣れること。後は各種必要な本を買うことかな。
魔物と植物図鑑に魔法の呪文が載ってる本は最低限欲しい。後は二人に欲しいものを聞いてみてだな。あっそうだ、あと持ち歩ける時計も欲しかったんだ。
「今日はこの二つにしようか」
「うん!」
俺達は二つの依頼票を手に持ち、また筋肉達の間をなんとか通り抜け受付を済ませた。そして門前広場まで歩いて向かう。いつものようにたくさんの屋台が並んでるな。
「お昼ご飯を買っていくんだけど何が良い? 今日は特別にウィリーが決めて良いよ」
「良いのか!?」
「うん。アイテムボックスがあるからなんでも良いよ」
「じゃあ選んでくる!」
ウィリーは朝から高いテンションそのままに、屋台に向けて走っていった。そして一つの屋台の前で立ち止まる。あの屋台は初めてみたかも。
「トーゴ、これ食べてみたい!」
「いらっしゃい! カレーだよ。うちのはホーンラビットの肉がとろけるぐらい煮込まれてて絶品さ」
おおっ、カレーの屋台だ。着々とカレーが広まってるな。この香りを嗅いだらもう買うしかない。
「今日はこれにしようか。おばちゃんこの器に四人分お願い」
「はいよ。ありがとね!」
アイテムボックスから木の器を取り出しておばちゃんに渡した。この街ではスープやカレーなど、器が必要なものは基本的に持参なのだ。なのでしっかりとスプーンなども持っている。
「ウィリーはカレーを食べたことないの?」
「ないぜ。なんか良い匂いだな〜って思ったら食べたことない料理だったんだ。ちょっと色は微妙だけど、匂いは旨そうだからな」
「うん、これすっごく美味しいよ。多分ハマると思う。パンをつけたらもっと美味しいから、パンも買っていこうか」
「じゃあ私が買ってこようか? 三つ隣に売ってる屋台があったから」
「お願いしても良い?」
「もちろん」
そうして三人でお昼ご飯もしっかりと調達し、街の外に出た。初めての三人での依頼だし気を引き締めていこう。




