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65、ウィリーの登録

「ではトーゴさんでしたか、こちらに出していただけますか?」

「分かりました。危ないので少しだけ下がっていてください」


 俺は全員が離れたことを確認して、倉庫の中にある広々とした空間にミルテユの木を取り出した。横向きで静かに取り出したのでミルテユも傷ついてないだろう。


「これがミルテユですか……」

「はい。皮を剥いて中の果肉を取り出すと、その匂いに釣られて魔物が寄ってきます。食べると美味しいのですが、食べた者も同じ匂いを発して魔物を引き寄せるようになります」

「食べてもダメとは、かなり危険ですね。知らずに食べてしまった者が街の外に出れば、魔物に襲われるということですか」

「そうなりますね」


 副ギルドマスターはミルテユをかなり危険なものと認識したようで、さっきまでよりも険しい表情を浮かべている。


「これはいつからその村にあったのか分かりますか?」

「約十年前だそうです。しかし周りを確認してみたところ、この数本以外にはありませんでした。どこからか種が運ばれてきたのか、突然変異を起こしたのかは分かりませんが……」

「そうですか……その辺の調査も必要ですね。皆さん、報告してくださってありがとうございました。この件は冒険者ギルドで引き継がせていただきます」


 副ギルドマスターはそう言った後、王都の冒険者ギルドと連絡を取らなければ、他国のギルドとも連絡を取ることも必要か、とぶつぶつ呟きながらミルテユを眺めている。

 冒険者ギルドのマスターって大変なんだな。……お疲れ様です。


「では皆様、カウンターの方で報酬の受け渡しを行いますのでもう一度そちらまでお願いいたします」


 リタさんの案内に従って俺達は再度カウンターに戻った。そして報酬をもらって依頼達成となる。


「おおっ、やっぱり今回の報酬はいいぜ! やっぱりいい依頼だったなぁ」

「そうだな。だが大変なことも多かった」

「確かにな〜。そういや報告したことの報酬はもらえるのか?」

「後で確定したら貰えるらしいな」

「やったぜ」


 パブロとマテオがそんな会話をしつつ報酬を鞄に仕舞っている。俺ももらった報酬をしっかりとアイテムボックスに仕舞った。また懐が暖かくなったよ。お金を稼ぐことと貯金が趣味になりそうだ。


 じゃあ依頼も達成になったしミルテユの報告もしたし、ウィリーの冒険者登録を済ませちゃおう。


「俺達はウィリーの冒険者登録をするけど、マテオ達はどうする?」

「そうだな、俺達は帰るか?」

「おう、今日は依頼達成祝いで飲むんだ!」

「俺は剣の手入れをする」

「てことだから、俺達は宿に帰るな」


 マテオが苦笑しつつそう告げた。パブロとサージの対比がまた面白いな。


「分かった。じゃあまた」

「おう、ウィリーもまたな」

「ああ!」

「パブロは飲みすぎないようにしなよ〜」

「分かってるぜ、今日は前から狙ってた居酒屋に行くんだ!」


 それ絶対飲みすぎるやつだな、そしてその居酒屋の女の子に振られるんだな。……まあ頑張れ。



 そうしてマテオ達三人とは別れて、俺はウィリーともう一度受付に戻ってきた。


「リタさん、仲間の冒険者登録をしたいんですけど」

「かしこまりました。トーゴさんのパーティーメンバーになるのですか?」

「そうです」

「ではパーティーへの加入手続きもしておきますね。まずはこちらの紙に記入をお願いします」


 三度目の冒険者登録用紙だ。もう完全に見慣れた。


「ウィリーって字は書けるんだっけ?」

「俺は書けないぞ」

「じゃあ今回は俺が書いておくよ。これから読み書きと敬語は覚えようか」

「必要なのか?」

「必要不可欠では無いけど、カッコいい冒険者になるには必要かな」

「じゃあ覚えるぜ! 父さんや兄ちゃんが使ってたから少しは分かるからな」

「これから少しずつ教えるよ」


 そうして俺がウィリーの代わりに用紙を埋めて、ウィリーの冒険者登録とパーティーへの登録を済ませた。そして戦闘と解体の初心者講習にも、もちろん申し込んだ。


「こちらがウィリーさんの冒険者ギルドカードです。それからこちらが新しいパーティーカードです」

「ありがとうございます」

「おお、カッコいいな!」

「首から掛けられるように紐を買いに行こう。リタさん、ありがとうございました。またよろしくお願いします」

「はい。また冒険者ギルドをお願いいたします」


 ウィリーと共に冒険者ギルドから外に出ると、既に空は暗くなり始めていた。綺麗な夕焼け空だ。


「紐を買いに行ってから宿に帰ろうか」

「そうだな。ちゃんとお金も持ってるから買えるぞ」

「お金を持ってきたの?」

「母ちゃんが持たしてくれたんだ。これだけあるんだけど足りるか?」


 ウィリーが鞄を開いて中身を俺に見せてくれる。


「結構あるな……紐を買って宿に十日は泊まれるよ。その間に仕事をすれば大丈夫そうだ」


 あんなに貧しそうだったのに旅立つ息子にこんなにお金を持たせるなんて……本当に良い両親だな。


「そうなのか!? それなら良かった。じゃあ早速店に行こうぜ」

「うん。俺が知ってる店で良い?」

「俺はこの街のことは知らないから良いぞ」

「了解」


 ウィリーと共にゆっくり歩いて街並みを案内しつつ、ミレイアの紐を買ったお店に向かった。中に入るとこの前と同じおばちゃんがいる。


「こんにちはー」

「いらっしゃい。あれ、あんたはこの前女の子と来てたんじゃなかったかい?」

「はい。もう一人パーティーメンバーが増えたのでまた紐が欲しくて」

「そうなのかい。前と同じ紐だね」


 おばちゃんは棚から紐を持ってきてウィリーに手渡してくれた。


「これだよ。ちょっと高いけど頑丈だからおすすめさ。冒険者は基本的にこれを選ぶんだ」

「そうなのか? じゃあ俺もこれにするぜ」

「毎度あり。カードをちょっと貸してくれたら紐を通すけど、どうする?」

「無料なのか?」

「そうさ」

「じゃあお願いする。綺麗に頼むよ」

「任せときな」


 ウィリーはおばちゃんと一瞬で打ち解けて、カードに紐を通してもらうことに決めたようだ。

 それから数分で前と同じように綺麗に穴を開けて紐を通してくれた。やっぱりおばちゃんは手際が良い。

 そしてお金を払ってお店を後にする。


「なんか良いな。これがあるだけでカッコ良くなった気がする」


 ウィリーは首から下げたカードを嬉しそうに眺めながらそう言った。やっぱり体が大きくて大人っぽくてもこういう所は子供だな。弟ができたみたいでちょっと嬉しい。


「無くさないように気をつけて。悪用されたら嫌だし、再発行にもお金かかるし」

「ああ、絶対無くさないように気をつける」

「よしっ、じゃあ宿に行こうか。俺と同じ宿で良い?」

「俺はどこでも良いぞ」

「それなら便利だし同じとこにしよう」


 それからはかなり暗くなってきたので足速に宿まで戻り、ウィリーの部屋も確保して夕食を楽しんだ。そして依頼の疲れもあったからか、ベッドに入り早々に眠りに落ちた。

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