63、村人への説明と新たなパーティーメンバー
次の日の朝。俺達は村の中心にある広場へと向かっていた。昨日のうちに村人へは今日の予定を伝えていたので、広場にはほとんどの村人が集まっている。あまり大きな村ではないので全員が集まれるみたいだ。
広場にある木で作られた舞台の上に上がるのは、まずホルヘさんだ。
「皆、今日は朝早くから集まってもらい感謝する。十年前からこの村を苦しめて来た問題、魔物について原因が判明したのでここで説明したいと思う。では皆さんこちらへ」
俺達はホルヘさんのその声に従って舞台上に上がった。村人達はホルヘさんのその言葉にどう反応したら良いのか困っているようだ。中にはやっと娘を追い出す覚悟ができたのかと言ってるやつもいる。
あいつこそ村から追い出してやりたいな……
「魔物討伐の依頼を受けた冒険者パーティー、夜の星のリーダーであるマテオだ。今回はホルヘさんからこの村の話を聞き、俺達が独自でその原因を探った。そしてその原因を特定することができたので、ここで発表する。原因はこれだ」
マテオは懐からミルテユを一つ取り出した。それを見た住民の反応は様々だ。嘘だ、デタラメだと騒ぐ者。驚愕の表情を浮かべる者。まだ疑いの目を向けている者。
「俺達は魔物がこの村を襲うようになった時期とこの果物がこの村で採られるようになった時期が一致していることに気づき、昨日調査を行った。その結果、このミルテユは皮を剥いた中身が魔物を惹きつけることが分かった。さらに中身を食べた人間も、数時間魔物を惹きつける匂いを発することが分かった」
「俺が昨日ちゃんと食って検証したから確実だぜ」
パブロが話に信憑性を持たせるように、ちゃんと自分で試したことをアピールする。
「そんなの偶然じゃないのか!? 魔物が寄ってくるのはそこにいる女が原因だろ!」
「そ、そうだ。そいつが生まれてからなんだ! それに森に行くと魔物が寄って来てたし」
原因がレイレではないってことを認められない人がまだいるみたいだ。今までそれを主張し続けてレイレを虐げて来たのだから、すぐには認められないのだろう。
後ろをチラッと振り向くと、レイレは少し震えて俯いているようだった。まだ十二歳の女の子に大人が言う言葉じゃないよな……
「まず第一に、魔物が襲ってくるようになったのはレイレが生まれた二年後からだ。さらにレイレは村長の娘だ。ミルテユもこの村で一番食べていた。だからこそレイレに魔物が寄って来ているように見えることもあったのだろう」
「そ、そんなのデタラメだ! まずお前達村の人間じゃないだろ。関係ないんだから口を挟むな!」
「こういう問題は第三者こそ公平に物事を見極められるんだ。そこまで信じられないのならば貴様がミルテユを食べて森に入ってみれば良い。すぐに魔物が寄って来て逃げ回ることになるだろうな。今までは村人同士魔物に対して助け合って来たのだろうが、果たして自業自得で魔物に追われているおまえを助けてくれる者がいるのだろうか。試してみるのも面白いか?」
おおっ、黒い、ブラックマテオだ。俺もこんなふうにカッコ良くなりたい。
さっきまで威勢が良かった男は自分で試してみる度胸はないらしい。大体こういう時に文句言うのって、口だけのやつなんだよな。
「何だ、やらないのか? まあ良い。そういうことだからミルテユは全て俺達が回収した。責任持って冒険者ギルドまで届けよう。もしかしたらこれから調査が入るかもしれないが、その時はありのままを話せば大丈夫だろう。それからもしまたミルテユを見つけたら、絶対に食べようとはせずにすぐ冒険者ギルドに知らせるのをお勧めする。では俺からの話は終わりだ」
マテオはそこまで話すと、すぐに舞台から降りて行ってしまった。俺達も慌ててその後を追う。
「マテオ、レイレちゃんを虐げて来た奴らはお咎めなしだと思う?」
「いや、特に酷い奴らは村から追い出すとホルヘさんが言っていたぞ」
「そうなんだ。それなら少しは安心かな」
「そうだな」
舞台から降りてレイレとウィリーのところに向かうと、レイレはお母さんの腕の中でまた涙を流していて、ウィリーはそんなお姉ちゃんを気にしつつマテオのことをキラキラとした瞳で見つめていた。
「マテオ、さっきの話カッコ良かったな! 俺も冒険者になったらあんなふうになれるか!?」
「そうだな……段々とカッコよさは身につくと思うぞ」
「本当か!?」
ウィリーはマテオのその言葉にさらに瞳を輝かせた。でもウィリー、マテオはあんなふうに話せるようになるとは言ってないよ。カッコ良くなれると言っただけだ。
この辺の言葉遊びはウィリーにはまだ早いみたいだ。多分パブロとサージもあんなふうには話せないだろうし、俺も確実に無理だろう。やっぱりマテオは凄い。マテオってどこかでちゃんとした教育を受けたんだろうな……
「トーゴ! 俺もトーゴの仲間になったらカッコ良くなれるか!?」
「うーん、カッコ良くはなれると思うよ」
だってウィリーは確実にマッチョになるだろうし、顔も結構整ってるし、ムキムキイケメンになるだろう。
羨ましいな……俺は平凡顔でマッチョにすらなれないんだけど。まあ良いけどさ、それも個性だ!
それから村人達を解散させ俺達は村長宅に戻ってきた。そしてすぐに出発の準備を始める。今の時間に獣車で出れば、今日中にはナルシーナの街に戻れるのだ。
その準備の最中、ウィリーがホルヘさんに向けて意を決したように話しかけた。
「父ちゃん」
「何だウィリー、今は忙しいんだが後ではダメなのか?」
「ダメなんだ」
「じゃあ手短にな」
ホルヘさんは獣車の準備をしつつウィリーに返答する。
「あのさ、俺……冒険者になりたいんだ!」
ウィリーがその言葉を発した途端、ホルヘさんは弾かれたように顔を上げた。
「それで、トーゴが仲間にならないかって言ってくれて……だから俺、村から出ることにする。トーゴと一緒に行く!」
「冒険者になりたかったのか。確かに力は強いが……」
「うん。ずっと冒険者に憧れてたんだ」
「……そうか。それなら父さんはお前を止めることはできない。お前の人生だ、好きに生きなさい」
ホルヘさんは少しだけ涙声になりながら、そう言ってまた準備に戻った。
「ウィリー、本当なの?」
「うん。母さん、兄ちゃん、姉ちゃん、俺行ってくる。絶対強くなって、皆を守れるようになってまた戻ってくるよ」
「……そう。しっかりご飯は食べるのよ。体には気をつけてね。そして、いつでも嫌になったら帰って来なさい」
「ウィリー、頑張れよ」
「ウィリー今まで本当にありがとう。もうお姉ちゃんは大丈夫だから心配しないでね」
「うん、うん……みんな……、ま、まだね……」
ウィリーは突然悲しくなったのか泣きながらそう告げた。すると三人がウィリーのことをぎゅと抱きしめる。俺はその様子を見て思わずもらい泣きしそうになってしまった。
『ミル、抱きついて良い?』
『もちろんです!』
『ありがとう』
俺は何だか人肌恋しくなりミルに抱きついた。ミルはいつも通りに暖かくてもふもふでとても安心した。
それから準備は終わり俺達は村を後にした。御者を務めてくれているのはベルニさんだ。行きと違うのはウィリーが乗っていること。ウィリーは最後まで泣きながら家族に手を振っていた。
「ウィリー、本当に俺と一緒に冒険者をやるので良いの?」
俺は最初の見張り番ではなかったので、その時間を使ってウィリーと話すことにする。
「ああ! というか、トーゴこそ本当に良いのか?」
「それはもちろん大歓迎だよ」
「良かった。じゃあよろしくな」
ウィリーはほっとしたように顔を緩め、俺に手を差し出した。俺はその手をしっかりと握り返し笑みを返す。
「よろしく」
「ミルもよろしくな!」
「わんっ」
ミルはウィリーが仲間になって嬉しいみたいだ。さっきからご機嫌で尻尾を振っている。
街に着いたらウィリーをホセの宿屋に連れて行って、明日はミレイアと顔合わせかな。俺の能力についてもまた説明しないと。こんなに短期間で同じ説明をすることになるなんて思わなかった。
あとは近いうちに冒険者登録をしてもらって、武器も決めないと。色々と大変になるけど……三人で依頼を受けるのは楽しみだな。
そうして俺はまた増えた仲間に心が温かくなるのを感じながら、ナルシーナの街まで獣車に揺られた。




