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61、ミルテユの効果

 もしかしたら食べた方が効果が出始めるのは遅いのかもしれない。でもこのマップの中では結構遠いところにいる魔物だから……、食べた方が遠くに匂いが届くのかな?


「皆、あっちから来ると思う」


 俺はそんなことを考えつつ、皆に魔物が来る方向を伝えた。


「了解だ。俺とパブロ、サージは魔物を迎え撃とう。トーゴは魔物の種類や数によっては遊撃を頼む」

「分かった。皆が楽に戦えるように頑張るよ」

「頼んだ」

「多分もうすぐ来るよ」


 そうして現れたのは……カウが二頭だ。かなり興奮しているのか、警戒もせずに俺達の方に突進して来る。これなら三人でも容易に倒せそうだな。


「サージ!」

「分かった」


 マテオが剣を使い上手くカウの突進を躱し、カウが体勢を崩したところにサージが追撃を与えた。そうして一頭を倒すとすぐにもう一頭へ。パブロは上手く攻撃を躱しながら反撃しているけれど、まだ致命傷は与えられてないみたいだ。


「パブロ、カウの突進を弾いて体勢を崩させろ」

「りょーかいっ!」


 パブロが返答と共に剣に力を入れてカウの体勢を崩すと、その隙にマテオがとどめを刺した。

 三人の連携が凄い。本当に息が合ってるって感じだ。俺も仲間とこんなふうに息の合った戦いができるように頑張ろう。


「怪我はないか?」

「大丈夫だぜ」

「俺も問題ない」

「それなら良かった。それにしても本当にミルテユの実は魔物を引き寄せる効果があるみたいだな。戦ってる最中でさえパブロに意識を向けてたから、一頭目は特に簡単に倒せた」

「そうなのか。それにしてもこれは怖い実だよな……」


 あの勢いでレイレちゃんにも魔物が迫ってたのだとしたら、自分が呪われてるんじゃないかとか考えるのも不思議じゃない。相当怖かっただろうな……。他の村人も少なからずこうして襲われた経験があるんじゃないだろうか。今まで酷い被害が出てないのが奇跡かも。

 この木はとりあえず、根本から抜いて回収した方が良いかな。


「これは冒険者ギルドに報告だな。……よしっ、まずはパブロの魔物を惹きつける効果がどれほどまで保つのかについて検証して、それと同時にミルテユの木も抜いてしまおう。それからグレーウルフもいるはずだから倒さないとだな」

「そうだな。じゃあ依頼の畑の辺りを俺が歩くかぁ。そうすればすぐにグレーウルフも寄って来るだろうし」

「確かにそれが一番早いな。ベルニさん、今後の予定はそれで良いでしょうか? ミルテユは木ごと抜いてしまいますが」

「もちろん構いません。本当に、本当にありがとうございます」


 ベルニさんは涙ぐんでいるみたいだ。これでレイレちゃんの疑いは根拠のない嘘だったことがわかるし、それは嬉しいに決まってるだろう。早くレイレちゃん達に教えてあげたいな。

 そして村の人間にもちゃんと説明しないといけない。部外者の俺達がちゃんと伝えよう。


「原因が分かって良かったです。ではまずはこの木を抜いてしまいましょう」

「だけどこれ抜けるか? 確かに若くてまだ小さい木だけどよ、根まで抜かないとまた生えて来るかもしれないよな?」

「確かにそうだな……くわでもあると掘り出しやすいんだけど。ベルニさん、村で借りられませんか?」

「もちろんお貸しいたします。ただ私の家まで一度戻らなければいけませんが」

「ではサージと一緒に取りに行ってもらえますか? その間にこの辺りの安全を確保しておきますので。サージ頼んだ」

「了解した」


 そうして二人が村に一度戻っている間に、俺達はミルテユの周りをぐるっと歩きながら襲って来る魔物を端から倒していった。そうしておかないと、木を掘り出している間に魔物が襲ってきて全く作業が進まないことが予想されるからだ。


『ミルはミルテユの匂いに何も感じない?』

『はい。僕は普通に良い匂いだなとしか思いません』

『そっか。やっぱり魔物と眷属は違うのかな』

『多分そうだと思います。それにしても原因が分かって良かったですね。これでウィリーは仲間になってくれるでしょうか?』

『そうだね……まだ分からないけど、仲間になってくれたら嬉しいな』

『はい! 仲間はたくさんいた方が楽しいですよね』


 それからしばらく魔物を倒していると、ついにミルテユの周りにいた魔物は倒し切った。かなりの量になったのでマテオ達は嬉しそうだ。


「トーゴのアイテムボックスと氷魔法のおかげで全部持ち帰れるから、こりゃあ帰ったらかなりの金額になるな!」

「トーゴ、本当に四等分で良いのか?」

「もちろん。皆で受けてる依頼だから当然だよ」

「トーゴ、ありがとなぁ! お前の魔法は本当にすげぇよ。アイテムボックスはありえないほどの容量だしよ」

「俺は魔力量が多いから」


 やっぱりアイテムボックスがあるだけで一気に稼げる金額が跳ね上がるんだ。俺の神様チートには感謝しないとだな。


「戻ったぞ」


 魔物を倒し切ってミルテユの木の近くで待っていると、二人が戻ってきた。


「ベルニさん、サージありがとう」

「問題ない。一人一つ借りてこられた」

「それなら早くできそうだな。じゃあ手分けして木を掘り出そう。極力根も全て掘り出してくれ」

「分かったぜ!」


 ベルニさんからくわを受け取り、ミルテユの木の根元を掘っていく。くわの扱いはイゴルさんのところで教わったので問題はない。


「トーゴは使い慣れているな。マテオとパブロは全然ダメだ」

「だってよ。これ初めて使ったぜ」

「俺も初めてだ。サージは村で使っていたのか?」

「ああ、俺の実家は農家だからな」

「そういやそうだったな。トーゴも村で使ったことがあるのか?」

「うん。それもあるけど一番は、畑を手伝う依頼を受けてたからかな」


 思い出しただけで懐かしくてまたあの畑に行きたくなるな……あの家族は凄く温かくて居心地が良かった。でも居心地が良過ぎてたまに寂しくなるのだ。


「そういえばトーゴはそんな依頼を受けていたな」

「うん。最初は全く鍛えてなくて危なくない依頼をやってたから」

「最初から考えるとトーゴはかなり鍛えたよな。この短期間でここまで変わるのは珍しいぞ」

「本当? 見ただけで分かる?」

「ああ、体つきが全然違う。トーゴはそこまで筋肉がつくような体質じゃないみたいだが、それでもがっしりとしたな。というよりも今までがひょろっとし過ぎていた」


 俺の体を日本人の時のまま作ったのが失敗だったんだよな。日本の中で少し痩せてる方だった俺の体型は、この世界では、特に冒険者の世界では風が吹けば飛んでいきそうって言われるほどだった。もうさすがにそれを言われることはなくなったけど。


「これからはもっと鍛えるから」

「トーゴがどこまで行けるのか楽しみだな」

「トーゴが大物になったら、昔助けてくれた兄ちゃんって俺のことを紹介しろよな」


 パブロが笑いながらそう言ってくる。


「紹介するよ。そしたらパブロにも恋人ができるかもしれないし」

「なっ……その時までには可愛い嫁さんがいるはずだ!」

「いや、それは難しいんじゃない?」


 そんな話をしつつ、皆で手分けしてミルテユの木を掘り出した。途中で三回ほど魔物が襲って来たけれど、そこまで強くない魔物だったので素早く対処できた。


「よしっ、じゃあこれをトーゴのアイテムボックスに入れておいてくれるか?」

「勿論」

「ではベルニさん、ミルテユは冒険者ギルドに持っていきます。俺達が責任持って報告するので心配しないでください」

「はい。よろしくお願いします」

「じゃあ後はグレーウルフの討伐だな」

「ああ、被害があった畑まで戻ろう」


 そうして俺達はミルテユの木があった場所から、グレーウルフの被害があった畑まで移動した。

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