60、畑と周辺の森を調査
リビングに戻ると、マテオ達はさっきまでと同じように机に座っていた。ホルヘさん達も同じように木箱に座っている。やっぱり何もない部屋だな……
「トーゴ戻ったか」
「うん。待たせてごめん」
「大丈夫だ。今日はもう休むだけだからな。とりあえず明日の朝から魔物がよく現れる畑の確認をして、ミルテユの木を見に行くぞ。そしてその実が本当に魔物を引き寄せているのか確かめる」
「分かった。じゃあとりあえず今日は体力を温存しておくよ」
「ああ、そうしてくれ」
マテオとそんな話をしながら椅子に座ると、ベルニさんに話しかけられた。
「トーゴさん、グレーウルフを売ってもらう件なのですが……」
「ああっ、すみません忘れていました」
「いえ、大丈夫です。それで売っていただけるのでしょうか? 父とも話をして出来れば一頭丸々売っていただきたいのですが」
「かしこまりました。マテオ売っても良い?」
「問題ない」
「分かった。では一頭お売りいたします」
「ありがとうございます!」
それからグレーウルフの値段について話し合って決めて、お金を受け取ったところで皆で庭に向かった。そしてそこにグレーウルフを一頭取り出す。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「これは……素晴らしい保存状態です! とても美味しい肉が取れそうですね。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ購入ありがとうございます」
「では私達はこれからグレーウルフを解体して、各家に売って回りますので皆さんは家の中で休まれてください」
「分かりました。ではお言葉に甘えて」
そうしてその後は明日の仕事について話し合い、ミルテユについてどうやって調査するのかについても決めて、早めに夕食をご馳走になり就寝した。
夕食はグレーウルフの煮込み料理だったけど、グレーウルフの肉は予想以上に美味しかった。少し硬めの肉だけど旨味が強くて、煮込むと柔らかくなるみたいだ。
――そして次の日。
俺たちはベルニさんの案内で、まずは魔物がよく現れる畑に来ていた。畑の惨状はかなりひどいもので、そこかしこで作物が齧られていたり踏み潰されていたりしている。
「これは……かなり酷いな」
「はい。この畑の持ち主からも早く問題に対処してくれと言われていまして、討伐をお願いいたします」
「分かりました。こちらはお任せください」
マップを見てみると、ここから数百メートル離れた森の中に魔物の点が七つ固まっている場所がある。もしかしたらこれがこの畑を襲ってるグレーウルフの群れかもしれないな。依頼では五頭ってことだったけど、誤差はあるだろう。
「ミルテユの木はどこにあるのですか?」
「森に少し入ったところにございます。こちらです」
ベルニさんが案内してくれたのは、魔物が七頭いる場所とはまた違う方向だった。森に入って少し歩いたところに数本だけ木がある。背の高さは俺よりも少し大きい程度の、まだ若い木だ。
「これがミルテユの木か……」
木には昨日レイレ達からもらった実と同じものが生っている。でも周りには魔物が集まってることもないみたいだし、やっぱりミルテユが問題じゃないのかな……
「魔物はいねぇな」
「少し周りを調べてみよう」
「そうだな……ちょっと調査してみるか」
マップで魔物がいないことは分かるけれど、それを言うわけにもいかないのでマテオ達と木の周辺を調査する。
「魔物はいないな」
数十分調査をしてサージがポツリと呟いた。マップでも確認していたけれど、こちらに寄って来るような魔物は存在しなかった。
「やっぱりこの実が原因じゃねぇのかな?」
「まだ決めつけるのは早いだろう。食べるとダメなのかもしれないし、皮を剥かなければ魔物を惹きつけないのかもしれない」
「じゃあマテオ、一つだけ皮を剥いて実を取り出して魔物が寄ってくるか確認してみる?」
どの程度の魔物が寄って来るのか定かではないから怖いけど、村の人達がいつも食べていてそこまで甚大な被害は出ていないのだから大丈夫だろう。
本当にミルテユが原因ならば、それを囮にして逃げることもできるはずだし。
「確かにそうだな……じゃあさっき見つけた少し開けた場所で実験してみよう。まずは一つだけ皮を剥いて放置だな」
「了解。じゃあ、あそこまで移動しようか」
さっきミルテユの周辺を調査していたときに見つけた開けた場所に向かい、その中心にナイフで皮を剥いたミルテユを放置する。そして俺達は物陰に潜んで魔物が来るのを待つことにした。
するとそれから数分後、マップに見えていた黒い点が俺達の方に移動して来るのが分かる。これは当たりかもしれない……
「マテオ、あっちから何か来るかも」
俺はなんとなく索敵ができるようになったという設定にしたので、それをフル活用して魔物が来る方向を伝える。するとマテオは最初の時に索敵が当たったからか、それを信じて力強く頷いてくれた。
「魔物の種類と数によっては倒してしまうことにする。だが無理だと思ったらこのまま隠れてやり過ごすぞ」
「了解だ」
「分かったぜ」
それから数十秒後、ミルテユの元へかなりのスピードで駆けてきたのはホーンラビットだった。それが三匹だ。マップでは他に近づいてきている魔物はいない。やっぱり風向きなども影響するんだろうか。
「ホーンラビット三匹だ。俺達が二匹、トーゴとミルが一匹で問題ないか?」
「俺は大丈夫だよ」
「じゃあ行こう」
俺達はこそこそと話し合いをして、ミルテユに夢中になっているホーンラビットに死角から近づき攻撃をした。いつもなら絶対反応されるのに一切反応されなかったってことは、ミルテユに夢中になってる時は警戒心が薄れるのかもしれない。
ホーンラビットは俺とマテオ、パブロの一撃で三匹とも息絶えた。
「呆気なかったな」
「ミルテユって魔物を惹きつけるだけじゃなくて、警戒心を薄れさせる効果もあるのかな? 酩酊状態にさせるとか」
「確かにその可能性はあるな。とりあえず、予想通りミルテユに魔物が惹きつけられるようだ。あとはミルテユを食べた者にも惹きつけられるのか検証しよう」
マテオのその言葉に全員が顔を見合わせる。
「誰が食べる……?」
「まあここは、やっぱりリーダーじゃねぇか?」
「いや、俺は指示を出すからパブロが良いだろう」
「俺!? いや、俺はあんまり果物好きじゃないしよ。サージは好きだろ?」
「俺が好きなのは果物を使って作られたスイーツだ。果物をそのまま食べるのは好きではない」
皆はミルテユを食べるのが嫌みたいだ。まあ確かに、魔物が自分に惹かれてくるなんて最悪だよな。
「俺が食べようか?」
「いや、それはダメだ! トーゴに食べさせるなんて出来ねぇよ」
「そうだ。トーゴはまだ子供だ」
三人に食い気味に反対された。確かに三人からしたら子供なのかもしれないけど、俺はもう十五歳で身体的にも子供じゃないし、精神的にはもっと歳上なのに。
「ああ、トーゴはダメだ。俺達三人のうち誰かだな」
「やはり逃げ足の速いやつが良い」
「じゃあパブロにするか」
「それが良いな」
「なんでだよ!?」
「適材適所というやつだ。まあ嫌ならコインで決めても良いが」
この世界でもコインで決めるとかあるんだな。ということは、じゃんけんはないのだろうか。
「しょうがねぇな、やってやるよ! お前達、俺を絶対に守れよ!」
「当たり前だろ」
「分かっている」
そうして少し揉めたけれどパブロがミルテユを食べてみることになり、三つ食べた後はパブロの周りをしっかりと固めつつ魔物が現れるのを待った。
……それから数十分経ったけど、マップに映っている黒の点には変化がない。もしかしたら食べると効果はないのかな? でもそれだとなんでレイレは魔物に襲われたんだろうか。そう疑問に思っていると、突然数体の魔物が動き出した。確実にこちらへ向かっている動きだ。




