59、ウィリーの能力
「ま、魔物!?」
「ミルは俺の従魔だよ。首輪がついてるでしょ?」
「……本当だ。一瞬首輪が見えなくて、ごめん」
「気にしないで。そうだ、ミルも中に入っても良い?」
「うん! 凄く可愛いね」
ミルは見た目からしてあまり魔物に見えないからか、レイレちゃんは怖がることなく了承してくれた。
『ミル、ゆっくり部屋の中に入ってきてくれる? 怖がらせないようにゆっくりとね』
『分かっています』
ミルが部屋の中に入ると、ウィリーの目からも警戒心が抜けて行くのが分かった。ミルって本当に可愛くて、どう見ても魔物に見えないんだよな。これでもかなり強いんだけど。
「改めて従魔のミル。触っても大丈夫だよ」
「本当か!」
「うん。優しく撫でてあげて」
「分かった」
「わ、私も」
ウィリーとレイレちゃんはミルの元に駆け寄り、恐る恐るミルに触れる。そしてその手触りの虜になったのか、どんどん撫でる手に遠慮がなくなっていく。
「可愛いねぇ」
「……俺も従魔欲しい」
そうしてミルと触れ合いつつ二人と交流を深めていると、マテオに声をかけられた。
「トーゴ、俺達は先にリビングに戻るが、トーゴはもう少しここにいるか?」
「うん、もう少し二人と話してるよ」
「分かった。じゃあリビングで待ってるからな」
「ありがとう」
俺はマテオ達と別れて二人の部屋に完全に入り込んだ。部屋のドアを閉めてももう怖がられないみたいだ。良かったな。
「トーゴは何歳なんだ?」
「俺は十五歳。二人は?」
「私は十二歳」
「俺は十一歳だ」
ウィリーは十一歳なのか。それならこの体の大きさもまだ分からなくもない……のかな? いや、十一歳にしても流石に大きすぎる気がする。何を食べたらこんなに成長するんだろう……既に俺と同じぐらいの身長だよ。
このあと成長したらどこまで伸びるんだろうか。確実に俺よりは大きくなると思う。俺の身長ももう少し大きくしておけば良かった……
「トーゴは冒険者なんだよな? どうやったら冒険者になれるんだ?」
俺がそんなことを考えて勝手に落ち込んでいると、ウィリーはキラキラした瞳で俺にそう問いかけた。こういう表情は子供らしい。
「冒険者ギルドに行って登録すれば誰でもなれるよ? あっ、でも十歳からじゃないと登録できないけど」
「じゃあ俺も登録できるのか」
「ウィリーは冒険者になりたいの?」
「いや、まあ、ちょっと興味があるっていうか……」
「そうなんだ」
「ウィリーは本当に強いの! 冒険者になったら絶対に活躍できるんだよ。だからウィリー、私のことは気にしないで村を出ても良いんだからね」
「でもそれじゃあ、姉ちゃんが……」
ウィリーは冒険者になりたいんだけど、レイレちゃんを置いてはいけないって感じみたいだ。本当にウィリーは良い子なんだな……
「私はお父さんもお母さんもお兄ちゃんも、皆がいるから大丈夫だよ」
「でも皆は弱いし……」
「……まあそうだけど。魔物が来たら冒険者に頼めば良いんだよ。ウィリーが冒険者になったら、ウィリーが依頼を受けてくれても良いし」
「うーん、でも……」
「ウィリーはそんなに強いの?」
俺は二人が信じて疑っていないウィリーの強さが気になり、思わずそう声をかけた。
「ウィリーは本当に力持ちなの。どんなに重いものも振り回せちゃうから強いんだよ」
「そんなに……?」
確かに十一歳にしては体は大きいだろうけど、そこまで重いものを持てるとは思えない。筋肉も普通にしかついてないし。
「トーゴ、信じてないでしょ!」
「じゃあ力比べしようぜ。姉ちゃんが審判な」
「了解!」
ウィリーはそう言って、机の上に肘をついて俺に手を出す。腕相撲がこの国にもあるみたいだ。俺はウィリーの向かい側に移動して、ウィリーの手を握った。
体は大きくても十一歳だ。流石に負けることはないだろうし、怪我をさせない程度に頑張ろう。
「じゃあ行くよ。始めっ!」
ガツンッ! いったぁ……え、まって、何が起こったの? 今一瞬で負けたんだけど。
「トーゴ、本気出してなかっただろ?」
「えっと……」
「もう一回だ。もう一回やろうぜ」
そうしてもう一回、今度は最初から本気で力を入れて腕相撲をした。しかし一瞬耐えただけで呆気なく負ける。マジでありえない強さなんだけど。
「何でそんなに強いの!?」
俺もあんなに頑張って鍛錬したはずなのに!
「ふふっ、ウィリーは強いでしょ?」
「強いなんて次元じゃないよ! 何でこんなに!? 何か特別に鍛えたとか?」
「いや、昔から力だけはあるんだ。確かに鍛えてはいるけど、普通の人と変わらない鍛練しかしてないぜ」
それでこんなに強いなんて絶対おかしい……絶対スキルだよ。
『ミル、何のスキルかな?』
『多分ですが、怪力ではないですか?』
『ああ! 確かにそんなスキルあった! でもあれってこんな見た目でも発揮されるんだ……』
『ちょっと予想外でしたね……』
怪力かぁ。このスキルはとにかく常人ではありえない力を発揮するんだ。ハンマーとか斧とか、重い打撃武器を持ったらかなり強いんじゃないだろうか? それに大きな盾も持てるだろう。
「ウィリー、魔物が村を襲う原因を突き止めてレイレちゃんの潔白を証明できたら、冒険者になって俺のパーティーに入らない?」
俺はウィリーにも仲間になって欲しくて、思わずそう提案した。強い前衛が欲しかったのだ。俺は魔法も使えるから完全に前衛ってわけじゃないし。
「トーゴの……ってことは、俺が五人目のメンバー?」
「あっ、違う違う。さっきの三人とは臨時パーティーなんだ。俺のパーティーは俺ともう一人女の子がいるだけで、今は二人なんだよ。そっちのパーティーに入らないかなと思って」
「何でそこまでしてくれるんだ……?」
「ウィリーが強いから。仲間になってくれたら心強いと思ったんだ」
俺がそこまで話すと、ウィリーは困惑した様子ながらもかなり惹かれているみたいだ。
「ウィリー、凄く良い話だよ! トーゴさん絶対に良い人だし、ミルちゃんも可愛いし、絶対受けた方が良いよ!」
「そうだけど……」
「悩むのは仕方がないよ。それに俺達も原因を突き止められるのか分からないし。だからこの依頼が終わるまでに考えてくれたら嬉しいかな」
「……分かった。じゃあ考えとく」
「うん。ありがとう」
そうしてウィリーの了承を得たところでその話は終わりにして、その後はミルと戯れたり好きな食事の話をしたり、楽しい時間を一緒に過ごした。
「じゃあ俺は仲間のところに戻るよ。魔物は絶対に倒すから心配しないで」
「うん。ありがとう」
「……なぁトーゴ、俺も魔物を倒すの手伝えないか?」
「うーん……確かにウィリーは強いけど、魔物と戦ったことはほとんどないんだよね?」
「ああ、母ちゃんと父ちゃんがまだ危ないからって」
「それなら今回はやめておいた方が良いと思う。もっと安全な時に弱い魔物から慣れた方が良いよ」
「……そっか」
「まだ若いんだし、焦る必要はないよ」
俺がそう声をかけると、二人に微妙そうな顔をされた。なんでそんな顔をされるんだ……?
「なんかトーゴ大人みたいなこと言ってるけど、トーゴも子供だぞ?」
「うん。私達とそんなに歳変わらないよね……」
確かに今は十五歳だった。神界に転生した時は十八歳でそれから結構な月日が流れたから、感覚では二十歳ぐらいのイメージなのだ。気をつけないとだな。
「二人よりは歳上だから」
「でもトーゴ、俺より背が低くないか?」
「そ、そんなことないよ!」
「いや……そんなことある気がするけど?」
部屋から出るために立ち上がっていた俺の前にウィリーが立ち上がり、目線を比べて来た。すると……ちょっとだけ、本当に少しだけ俺の方が高いはずだ。
「俺の方がちょっとだけ高いよ」
「そうかな……? まあそうだとしてもすぐに俺が勝つな。最近どんどん背が伸びてるんだ」
うわぁ……やっぱりそうなんだ。俺は思わず遠い目をしてしまう。まあ良いんだけどさ。別に背が高いのが良いわけじゃないし、気にしないんだ。
「はぁ、じゃあ俺はとりあえず行くよ」
「またね」
「トーゴまたな。姉ちゃんのこと、よろしくな」
「うん、任せて」
そうして俺は二人がいた部屋を出て、リビングに戻った。




