56、道中の魔物
獣車から降りて、マテオとパブロと共にグレーウルフに近づいた。グレーウルフは魔法は使ってこないけれど、噛みつきと爪での攻撃をしてくる。結構素早い動きとそれに伴う爪での攻撃が厄介だ。
「トーゴ、俺とマテオが二頭引き受けるから、トーゴには一頭お願いしても良いか?」
「もちろん。二人で二頭は問題ない?」
「ああ、二頭ぐらいなら二人でもいける」
「分かった。じゃあ一頭は任せて。早く終わったら助けに行くよ」
「おう!」
そう話し合いをして俺達はグレーウルフに対峙した。臨時のパーティーの場合、無理に連携するよりもそれぞれで戦ったほうが良かったりするのだ。
『じゃあミル、行こうか』
『はい!』
俺は端にいるグレーウルフ一頭を他の二頭から少し離すために、ウォーターボールで攻撃をした。するとウォーターボールは狙い通りグレーウルフの頭に当たる。
そして計画通り、標的を俺に決めたようだ。
『ミル、どっちが倒す?』
『僕が倒しても良いですか!』
『了解。でもその前にアイススピアを一度だけ放ってみても良い? もし当たっちゃったらごめん』
『分かりました』
俺はミルに了承をとって、こちらに向かってきているグレーウルフに手のひらを向けて狙いを定めた。そして近づいてきたところで魔法を放つ。
「アイススピア!」
アイススピアはかなりの速度でグレーウルフに向かって行った。今回こそ当たるっ! そう思ったけれど直前でグレーウルフに避けられて、アイススピアは非情にも地面に突き刺さった。
また避けられた……やっぱりまだまだ命中率が低いな。避けられることも考えて打たないとダメだ。最近はこうして魔法の命中率を上げるために頑張ってはいるのだけど、まだまだ外すことの方が多い。
『ミルお願い』
『はい!』
俺が外したのを確認したところでミルはグレーウルフに向かって駆け出し、すれ違いざまに爪で一撃、グレーウルフを切り裂いた。
『倒しました!』
『はーい。ありがとう』
本当にミルは強いな。俺はミルが倒したグレーウルフを素早くアイテムボックスに仕舞い、マテオ達の方を見る。するとまだ戦っているようだった。
上手く二頭のグレーウルフの攻撃を避けながら、二人で連携して少しずつ攻撃をしていく。しかしまだ致命傷となる攻撃は与えられてないみたい。
あっ……! 焦れたグレーウルフがパブロに向かって飛びかかった。しかしその時を待っていたのか、パブロは冷静にグレーウルフの首元を狙い剣を振り下ろす。それで一頭倒せたら後は早い。すぐにもう一頭のグレーウルフも倒せたようだ。
ふぅ、ちょっとひやっとしたけど良かった。
「マテオ、パブロ、お疲れ様」
俺は二人が肩の力を抜いたのを確認して、二人に近づいた。
「おう、トーゴは大丈夫だったか?」
「うん。問題ないよ」
「それなら良かった。さて、このグレーウルフをどうするか」
「氷漬けにしてアイテムボックスに入れておく? それなら保つだろうし、村で売っても街に戻ってから売っても良いんじゃない?」
俺のその言葉にマテオとパブロは微妙そうな顔をした。
「やっぱり魔法ってすげぇな……」
「ははっ本当だな。だがトーゴは特殊だからな。こんなに幾つもの魔法を使える者は普通居ない」
「確かにそうだな。あーあ、俺達のパーティーに魔法が使えるやつが入ってくれねぇかな」
「……なんか、ごめん?」
「気にするな。俺達は俺達なりに頑張るさ。だが今回はお願いしても良いか? とりあえず内蔵だけ取り出して氷漬けにしてもらいたい」
「りょーかい。じゃあささっと解体しちゃおうか」
俺はそう話をしながら、アイテムボックスからグレーウルフを取り出した。解体を学んでて良かった。
それからとりあえず内蔵だけ取り出す解体をして、解体後のグレーウルフを氷漬けにしてアイテムボックスに仕舞った。そして内臓は街道から外れた草原の中に埋めた。グレーウルフの内蔵は使い道がないらしい。
「じゃあ獣車に戻るぞ」
「おう!」
獣車に戻ると、御者席でサージとベルニさんがまったりとした雰囲気で待っていた。俺達がグレーウルフを倒したところは見えていたようで、安心して待っていたらしい。
「ベルニさん、グレーウルフが三頭いたので全部倒しました。トーゴがアイスとアイテムボックスを使えるので、内蔵だけ出して氷漬けにして持ってきてあります」
「それは本当ですか!? では村に着いたら一頭売っていただけないでしょうか? グレーウルフの肉は美味しいので皆に人気があるのです」
「かしこまりました。では村に着いたら商談をしましょう」
「分かりました。では早めに村に行きましょう」
「はい。では見張りはお任せください」
それからまた俺達は、最初と同じ配置で見張りをしつつ獣車に揺られた。俺は見張りの番ではない時に、ベルニさんに気になったことを聞いてみる。
「ベルニさん、一つ聞いても良いですか?」
「何でしょう?」
「ナルシーナの街にはどのように来たのかと思いまして。護衛などを雇ったのですか?」
「いえ、定期的に村に来てくれる商家の獣車に便乗して、街まで送ってもらったのです。商家の獣車には護衛がいますからね」
「そういう方法を取るのですね」
確かに村だからって全てが自給自足なんてことはないよな。塩も手に入らないだろうし。村を回ってる商人とかもいるのかも。またこの世界の知識が増えたな。
「基本的に村から街に行くときはこの方法ですね。まあ村によっては違うと思いますが。私達の村は魔物が出やすくて街までの距離が遠いので、この方法を取っています。少し裕福な街では腕っ節が強い者を村全体で雇い、村の守りと獣車の護衛を頼むこともあるそうです」
やっぱり村の間でも格差があるのか。どこに住んでいても大変だな……
そうしてベルニさんとたまに話をしつつ、また獣車に揺られること数時間、ついに村に到着した。村の外観はかなり寂れた様子で……何というか、活気がない雰囲気だ。
一応木で作られた塀があるけれど魔物を防げるのか疑問の作りで、その塀の外にも畑が広がっているようだ。そこまで危険はないのかな? というか畑にあまり人の姿が見えないんだけど、もう仕事は終わったのだろうか。見渡す限りの範囲に数えられるほどの人しかいない。
そんなことを考えながら獣車に揺られていると、村の入り口である小さな門に辿り着いた。一応門も設置されているみたいだ。そしてそこには一人の門番がいた。村人の格好に槍を持っただけみたいだけど……
「おうベルニ、帰ってきたのか」
「ああ、冒険者の方を連れてきた」
「依頼を受けてくれる人がいたのか。それは良かったな。
まあ、頑張れよ」
門番さんはベルニさんに、気の毒そうな顔を向けつつそう言った。何でこんな表情をするのだろうか……
「俺の妹のためだ。頑張るよ」
「レイレちゃんは可哀想だよな……俺はあんな噂信じてないぜ。だが信じてる奴が大半になってきた」
「ああ、分かっている。今回魔物を倒して貰えばもう来ないはずだ。だから大丈夫だ」
ベルニさんは辛そうな表情で祈るようにそう言った。話の中身が見えない……レイレちゃんという妹さんに何かあるのだろうか?
「じゃあ行くな」
「おう。またな」
そうして獣車はまた進み、村の中に向かって行った。




