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54、ミレイアの初心者講習

 次の日の朝。今日は昨日立てた予定の通りにミレイアを家まで迎えに行き、一緒に冒険者ギルドにやってきた。

 ギルドの中に入るとサムエル教官が既に待ってくれている。たまにギルドで会うと挨拶はするけど、しっかりと話すのは久しぶりだ。ちょっと、いやかなり嬉しい。


「サムエル教官、久しぶり!」

「おう、トーゴはますます鍛えてるみたいだな。最初の時とは見違えたぞ」

「本当? ちゃんと教えられた訓練をやってるんだ。教官に認めてもらえると嬉しいよ」

「トーゴは強くなれる。これからもサボるんじゃないぞ」

「もちろん」

「それでそっちが予約したお嬢ちゃんか?」


 サムエル教官は俺の隣にいたミレイアに目を向ける。


「はい。よろしくお願いします!」

「堅苦しい喋り方は必要ない。トーゴのパーティーメンバーだからな、楽しみにしてるぞ」


 サムエル教官はそう言いながらニヤッと笑って、さっそく冒険者ギルドの裏庭に向かってしまった。俺達は慌てて後を追いかける。俺もあんな感じの渋い大人になりたいよなぁ。


 裏庭に着くと、俺の時と同じように武器がたくさん樽に入って置かれていた。


「トーゴとミルは見学だ、端の方にいろよ。お嬢ちゃんはミレイアって名前だったよな? ミレイアはこっちだ」

「分かった」


 サムエル教官とミレイアが武器の前で話すのを見ながら、俺はミルと共に裏庭の端で腰を下ろす。


『ミル、ミレイアは武器を扱う才能あるかな?』

『そうですね……この前見ていた限りでは、運動神経は悪くなさそうでしたが』

『俺もそう思ったんだ。もしかしたら早朝とかに外で運動してたのかも。俺と会った時も外にいたし』

『そうかもしれませんね。これからは一緒に訓練をするのも良いのでは?』

『確かにありかな……ミレイアの方が時間を短くしたりすれば出来そうかも』


 一人でする訓練も無になれて良いんだけど、結構飽きるから一緒にできたら楽しいだろう。今度誘ってみようかな。


「お嬢ちゃんはどんな武器が良いんだ。希望はあるか?」

「私はトーゴとパーティーを組んでて後衛の予定なの。だから遠距離の武器が良い。後はナイフとか、身を守れる軽くて持ち運びが楽な武器が欲しいかな」

「分かった。それならまずは遠距離の武器を端から試していくぞ。とは言っても遠距離だとそこまで種類はないが、弓とスリングショット、投げナイフあたりだな。どれが良い?」

「弓が良いかな、試してみても良い?」

「もちろんだ」


 それから数分で弓の扱い方の基礎を教えてもらったらしく、ミレイアが裏庭の端にある的に向かって弓を引いた。そして放たれた弓は…………的の真ん中に当たった。


 えっと……ビギナーズラック? 最初から当てられるとかそんなことあるの?


「ミレイア、経験者なのか?」


 サムエル教官が疑うような目でミレイアにそう問いかけた。するとミレイアは首を横に振って否定する。


「ううん。今日初めてやったよ。さっきので問題なかった?」

「問題ないどころか普通は的に当たるようになるまでしばらくかかるものだ……もう一度やってみろ」


 それから五回ミレイアが弓を放ったところ、的の端に当たったものもあるけど、全て的に当たった。これは相当才能があるんじゃないか?


「いくつか外れちゃった」


 ミレイアが少し悔しそうに戻ってきた。いや、あれは外れたって言わないだろう。だって今日初めて弓を持った初心者なんだから。


「ミレイア、お前は近年稀に見る逸材だ。絶対に弓を選ぶべきだ。普通は的に当てるのさえ難しいものなんだぞ」

「そうなんだ?」

「ああ、これは本当に凄いことだぞ。よしっ、弓を扱う上で必要になる筋力の付け方も教えよう」


 サムエル教官のテンションがかなり上がっている。それだけミレイアが凄いってことだよな。結界が使えて弓も一流なんて……絶対に勧誘が凄いことになる。俺のパーティーにいるのが当たり前だと思ってもらえるぐらい、俺も強くならないとダメだな。



 それから数時間かけて、これからの鍛え方や弓の扱い方をミレイアは学んだ。一応投げナイフやスリングショットも試していたけれど、こっちは一切的に当たらなかった。本当に弓に才能があったみたいだ。


「では今日教えたことは忘れないように定期的に復習すること。そしてトレーニングは毎日やること。分かったか?」

「うん! 今日からちゃんとやるね」


 鍛え方については俺も一緒に話を聞いたので、明日からの訓練メニューをミレイアと一緒にできるように考えようと思う。被ってるトレーニングは一緒にやって、それ以外は上手く時間調節をしてそれぞれでトレーニングすれば良いだろう。


「ミレイアは鍛えれば必ず弓士として大成できる。才能に驕らず、しっかりと努力をするんだ。才能を無駄にするのは勿体ないからな」


 サムエル教官のその言葉にはさまざまな思いが乗っているようだった。今まで下手に才能があるからこそ天狗になり、鍛えずに強くならなかった人や無理をして魔物にやられてしまった人、そんな人をたくさん見てきたんだろう。

 ミレイアがそんな道に進まないように、俺も一緒に努力しよう。


「分かってるよ。トーゴと一緒に頑張るから」

「ははっ、それなら安心だな。トーゴも才能はあるがそれ以上に努力のできるやつだ。あいつは強くなる」

「うん。トーゴは凄いよね」


 そこまで褒められると、ちょっと恥ずかしいな……


「あの、二人とも……ありがとう。でも恥ずかしいからその辺で」

「ふふっ、そうだね。じゃあサムエル教官、今日は本当にありがとう!」

「ああ、ちゃんと武器を買って練習を怠るなよ。弓の練習はここの裏庭を借りても良いが、やっぱり一番良いのは草原だろう。実践に近い形で練習した方が上達が早い。仲間がいるなら危険もないだろうしな」

「ちゃんと練習するよ」

「サムエル教官、じゃあまた」

「ああ、頑張れよ」


 そうして俺達は教官と別れ、冒険者ギルドを後にした。


 そして次に向かうは武器屋だ。俺の時は買っても扱えなかったからすぐに武器を買わなかったけど、ミレイアはできる限り早くに買って練習をしたほうが良い。


「こんにちはー」

「あれ、君は前に来た子じゃないか?」

「はい。今日は仲間の武器を買いに来ました」

「そうなんだ。こんにちは」

「こんにちは。今日は私の弓を買いに来ました」

「弓だね。こっちだよ」


 そうしてこの前の俺と同じように弓を全て試しに持ち、一番手に馴染んだやつを購入した。工房を聞いたら驚くことに、俺と同じホアキンさんの工房だった。

 今度一度行ってみようかな。ミレイアは矢を定期的に買わないといけないし。


「トーゴ、私の武器だよ!」


 ミレイアは弓を持ってかなりはしゃいでいる。最初に武器を買った時って嬉しいんだよな。俺も剣を買った時はかなり嬉しかった。


「やっぱり自分の武器って良いよね」

「うん! 早速明日から練習する?」

「明日……あっ、そうだ。ミレイアに話してなかったんだけど、俺明日から夜の星っていう知り合いのパーティーと一緒に依頼を受けにいくんだ。泊まりの依頼だから数日は戻らないかも」

「……そうなんだ」

「ミレイアとパーティーを組む前から予定してて、ごめん」


 ミレイアは早速明日から俺と練習しようと意気込んでたからか、ちょっと落ち込んでいる。


「前から決まってたなら仕方ないよ。気をつけて行ってきて」

「うん。俺が帰ってきたら一緒に練習しよう」

「それはもちろん。一人で外に出るのはまだ怖いし、数日は街の中で筋トレをやってるね。あと解体の初心者講習も受けておくよ」

「ありがとう。帰ってきたら筋トレも一緒にやろうか」

「そうだね。一緒にやったら筋トレも楽しめるかも」


 そうして話をしながらミレイアを家まで送り届けた。

 そして宿に帰る前に市場に寄り、明日からの依頼に必要なものを購入し早めに宿に戻った。

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