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53、魔物素材と依頼内容

 俺達は冒険者ギルドを出て、ミレイアの家へ向かいながら紐を売っているお店を探した。


「紐はどこで買えば良いのか分かる?」

「うーん、裁縫道具を売ってるお店に紐も売ってたりするけど、その紐だとすぐ切れちゃうかな?」

「そーなんだ。じゃあまずそこに行って聞いてみようか」

「うん!」


 そうして裁縫店に向かって店内に入ると、そこには所狭しと布や糸が置かれていた。針などもかなりの種類があるみたいだ。それにパッと見ただけではよく分からない素材もたくさんある。ちょっとワクワクするな。


「いらっしゃい。何かお探しかい?」


 店員のおばちゃんが奥から顔を出してくれた。


「冒険者ギルドカードを首から下げたいんだけど、そのための紐が欲しいの。ここで買えたりする? できる限り丈夫なのが良いんだけど」

「あんた冒険者だったのかい。そのなりで珍しいね〜。そういうお客さんはたくさん来るから置いてるよ。……ほらこれだよ。ハーデンシープの毛を加工して紐にしてあるんだ。かなり頑丈だけど肌触りも良くて、防具にも使われるほどだよ。高いけど紐ならそこまででもないしおすすめさ」


 見た目はグレーの綺麗な紐だった。防具にも使われるって相当だろう。


「ギルドカードが擦り切れて、その摩擦で切れちゃうことはないですか?」

「そんなことはあり得ないよ。ナイフで切ろうとしたって力がなきゃ無理だね。ナイフの質が悪けりゃナイフの方が負けるくらいだ」

「それは凄いですね……。ミレイア、それで良いんじゃない?」

「うん。これいくらなの?」

「銀貨三枚だよ」


 確かにただの紐で銀貨三枚は高いな……ミルの首輪が銀貨四枚だったから同じぐらいだ。でもこれからずっと使うものだし、ここはお金を出すべきだろう。ギルドカードを無くしたらそれが悪用されたりする可能性もあるし。


「じゃあそれください」

「え、これ凄く高いけど良いの? そっちの普通の紐なら銅貨二枚だよ?」

「ずっと使うものはケチらない方がいいよ。首から下げてるものの質が悪かったら、擦れて肌を痛めるかもしれないし」

「確かにそっか……じゃあ、お願いします」

「うん。これで」

「はい、ちょうどだね」


 おばちゃんがお金を受け取って紐を手渡してくれた。これであとは紐を通せば完璧だ。


「カードに紐を通す穴もついでに開けようか? いつもサービスでやってるから慣れてるんだよ」

「そーなんだ。じゃあお願いします」

「はいよ。ちょっとカード貸りるよ」


 そうしておばちゃんは、数分で綺麗に穴を開けて紐を通してくれた。


「これで良いかい?」

「うん! おばちゃんありがと」


 ミレイアはおばちゃんからギルドカードを受け取り、嬉しそうに首にかけた。


「トーゴ、似合ってる?」

「うん。冒険者って感じになったよ」

「ふふっ、なんか嬉しい!」


 満面の笑みでギルドカードを見せるようにくるくる回ってるミレイアが可愛い。この子は確実にモテるな。仲間として周りに気をつけよう。


「お嬢ちゃん良かったね。じゃあ何かあったらまた来なね」

「うん! おばちゃんありがとね!」


 そうしておばちゃんの店から外に出ると、ミレイアは外で待っていたミルに、早速首からかけたギルドカードを自慢している。

 店内は狭かったので、ミルは外で待っていたのだ。


「ミルちゃんお待たせ! ねえねえ、似合ってる? 冒険者に見える?」

『とても似合ってます! その紐綺麗ですね』

「似合ってるって。紐が綺麗だって」

「本当!? ありがとー」


 テンションの高いミレイアに抱きつかれて、ミルも嬉しそうだ。尻尾が動くのを抑え切れていない。


「じゃあそろそろ暗くなってきたし帰ろうか。家まで送るよ」

「一人でも大丈夫だよ?」

「でも同じ方向だから送るよ。暗くなってきて危ないし」

「そうかな? でもそっか、三人で歩いたほうが楽しいもんね!」


 そうじゃなくてミレイアの容姿だと危険だからなんだけど……。多分ミレイアは今まで家の外に出なかったから、その辺の危機意識が薄いんだな。これから教えていこう。



 そうしてミレイアを家に送り届けて、俺とミルは宿屋に戻ってきた。中に入るとちょうどタイミングよく食堂にマテオ達がいる。


「おう、トーゴ帰ってきたな」

「もしかして待っててくれた?」

「ああ、依頼の日程が決まったから早めに知らせるべきかと思ってな」

「ありがとう。どんな依頼になった?」

「ここから獣車で五時間ほどのところにある村からの依頼で、魔物が畑を荒らすらしくその討伐依頼だな。魔物の種類はグレーウルフが五頭。姿を見せるまでは村で待機、待機期間の住居と食事は村で用意してもらえるらしい。報酬は金貨二枚。しかも村から依頼を出しに来ていた村人がまだこの街にいるから、行きは村の獣車で村まで送ってくれるらしい。帰りは有料だが銀貨一枚で街まで獣車を出してくれるそうだ」


 村での魔物討伐か。なんか初めて冒険者らしい依頼でちょっとだけワクワクする。被害が出てるんだから喜んじゃいけないのだろうけど。


「すっげぇ良い依頼だろ? 普通は自分達で獣車を借りるか徒歩だからな。それに報酬も悪くない!」

「久しぶりに良い依頼が取れた」

「そうなんだ?」

「なんで疑問系なんだよ」

「俺はこういう依頼を受けたことがないからよく分かんなくて。普通は獣車を借りるの?」


 まだ遠くに行く依頼は受けたことがないのだ。今回マテオ達が一緒に受けようって言ってくれて良かった。


「普通は徒歩で一日で辿り着ける場所には歩いて行く。それ以上に遠い場所には獣車を借りるな。だが獣車は基本的に一日銀貨一枚だ。依頼がかなり長引くとマイナスになることもある。それに一角獣の餌も獣車に乗せないとだから結構狭いし、着いた村や街では餌を買わないといけない。水もだな。だから稼いでる高ランクパーティーだと自前の獣車を持ってることも多いな」


 そんな仕組みになってたのか。確かに借りるのはリスク高そうだな……俺も稼げるようになったら獣車を買おうかな。これから他の街に移動する際は、定期的に運行している乗合獣車を使えば良いと思ってたけど、自分の獣車があった方が便利だろうし。休憩も好きにできて時間に縛られないだろうから。また目標が増えたな。


「今回の依頼はかなりラッキーなんだ」


 獣車を借りなくても良いってだけで相当ありがたいことだろう。


「そーなんだよ! 今回の依頼はやる気でるぜ」

「明後日の朝に出発となったから、それまでに準備しておいてくれ。この宿を午前六時半に一緒に出る。そして門前の広場に依頼主と午前七時に集合だ」

「分かった。明後日の午前六時半ね。六時ぐらいに朝ご飯を食べにくれば良い?」

「それで良いだろう」

「りょーかい。今回は本当にありがとう」

「良いってことよ」


 隣に座っていたパブロが俺の肩に腕を回してくる。本当にパブロは距離感が近い。これを女性にも最初からやってるからモテないんじゃないかな? あっ、そうだ。ミレイアのことも皆に話しておこう。


「そういえば話は変わるんだけど、俺パーティーを作ったんだ。パーティー名は光の桜華」


 そう言いながらアイテムボックスからパーティーカードを取り出した。するとパブロがそれを横から掻っ攫う。そしてカードをじっと見つめて俺の方を睨んできた。


「トーゴ……このミレイアちゃんって誰だ!? まさか、まさか、俺より先に彼女が出来たのか! しかもその彼女とパーティーを組むとか……うぅ、トーゴの裏切り者ぉ」

「いや、ミレイアは彼女じゃないよ?」


 パブロの勢いに若干引きながらそう答えると、より睨まれる。なんでだ……


「てことはあれか? お互い好きだけどまだ友達で片思いのドキドキを味わいたいから付き合ってないとか、そういうやつか!? あぁん?」


 パブロがヤンキー化してるし。柄の悪い人の口調は世界が違っても一緒なんだな。


「パブロ落ち着け」

「いだっ」


 マテオがパブロの頭に手刀を落として落ち着かせた。そして俺の方に向き直る。


「トーゴ、パーティー結成おめでとう。仲間が見つかって良かったな。どんな子なんだ?」

「ちょっと特殊な能力を持ってる子なんだ。それで親近感湧いちゃって……」

「確かにトーゴも規格外だ。規格外は集まった方が上手くいく」

 

 サージにサラッと規格外だって言われた。まあ否定はしないけど……


「その子も一緒に臨時パーティー組んで依頼に行くか?」

「ううん。その子はまだ冒険者登録したばかりだからFランクなんだ。だから今回は俺だけが行くよ。パーティーに加入してても臨時パーティー参加はできるよね?」

「ああ、全く問題はない。では今回は予定通りトーゴとミルに俺たち三人だな」

「うん。よろしく」

「おう」


 そうして三人と話をして、そのまま夕食を食べて部屋に戻った。パブロの機嫌はその後普通に戻ったけど、ミレイアに一度会わせる約束はさせられた。

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