44、ミレイアの下へ
ランクアップしてから数日は、とにかくやる気が凄くて依頼を受けまくった。薬草採取と魔物の討伐依頼を二つの合計三つとか。一日でいくつもの依頼を並行して受けた。
それによってこの数日で、以前の一ヶ月以上に稼げている。報酬以外にも、アイテムボックスで魔物の全ての部位を持ち帰れるのが大きいのだ。その買取料金が馬鹿にならない。本当にアイテムボックスはありがたい。
それ以外にもこの数日で初心者講習も一つ受けた。ズバリ解体の講習だ。アイテムボックスで解体できるとはいえ、万が一誰かと一緒に解体しなければならない事態に陥ったら大変だし、一応知識として身に付けたのだ。
かなりキツかったけど、なんとか一人で解体できるようにはなった。でもできる限りやりたくないのが本音だ。
「トーゴ様、早く朝食を食べに行きましょう!」
今は宿で起きて身支度を整えているところ。ミルはかなりお腹が空いたようで、さっきからずっと急かされている。
「はいはい、ちょっと待って」
「今日は依頼を受けないのですよね?」
「そうだよ。最近頑張ってお金にも余裕があるし、今日はミレイアのところに行ってみようかと思って」
数日時間があったから、ミレイアも気持ちの整理がついただろう。
「結界のスキルを持つ子のところですね。パン屋なのですよね!」
「そうだよ。お昼にパンを買おうか」
「はい!」
ミルはお腹が空いてるからか食べ物のことばかりだ。さて、食堂に行こうかな。
「じゃあ行こうか」
「はい!」
そうして食堂に向かうと、ちょうどマテオ達も食堂に降りてきたところだった。
「おはよう」
「トーゴおはよう」
「ふわぁ〜、今日はトーゴいたんだな」
「うん。パブロは眠そうだけど大丈夫?」
三人とは時間が合わなくて、朝食で会えないことも結構あるのだ。泊まりがけの依頼に行ってることもあるみたいだし。
「昨日ちょっと飲みすぎちまった……」
「ほどほどにしなよ?」
「ははっ、トーゴに叱られてるぞ」
マテオがパブロを揶揄うようにそう言った。するとパブロはちょっとだけ不機嫌になる。
「パブロ、子供みたいだ」
サージが追い打ちをかけた。二人に責められて分が悪いと思ったのか、パブロはミルの前にしゃがみ込んでミルに抱きつく。
「お前は可愛いなぁ〜」
ミルはそんなパブロの顔をぺろぺろと舐めてあげている。うちの子が優しい……
厨房に行って朝食をもらい席に着くと、パブロも目が覚めてきたみたいだ。
「トーゴ、今日は仕事か?」
「ううん。今日はちょっと予定があって仕事はお休みなんだ。お金にも余裕ができたから。あっ、そうだ。俺ランクアップしたんだよ」
アイテムボックスからギルドカードを取り出して、三人に見せる。
「もうランクアップしたのか! すげぇなぁ」
「トーゴおめでとう」
「めでたいな」
「へへっ、ありがと。これでDランクの依頼も受けられるようになったし、一歩一人前に近づいたかな」
祝ってもらえるとやっぱり嬉しいな。それにもっと頑張ろうと気合も入る。
「トーゴがEランクになったんなら、俺達と臨時パーティーを組んで一度依頼をやってみないか?」
「臨時パーティーって何?」
「その依頼の時だけパーティーに加入する制度だ。Eランク以上じゃないと臨時パーティーには入れないから今までは言わなかったが、ランクアップしたなら入れるからな。トーゴが俺達のパーティーに入らなくても、一度他人と依頼を受けてみるのもありだと思うぞ。それにトーゴは泊まりの依頼もやったことないだろ? 経験として良いと思うが……」
この三人本当に良い人たちすぎる……そこまで俺のことを気にかけてくれるなんて。それに俺がパーティーに入る気がないことはもう分かってるはずなのに。
「俺は自分で仲間を集めてパーティーを作ろうと思ってるから、皆のパーティーに入ろうとは思ってないんだけど……それでも良いの?」
「もちろんだ」
三人はそう言って笑いかけてくれる。本当になんて良い人たちなんだ……! 俺はこの街をそう遠くないうちに出るから三人とは一旦別れることになるけど、絶対にこの三人のことは忘れない。そしてまた会いに戻ってきたい。
この街を離れるのがどんどん寂しくなるな……
「ありがとう。じゃあ俺と一緒に依頼を受けてくれる?」
「やったぜ! 一度トーゴと依頼受けてみたかったんだよな」
「トーゴの力を見てみたい」
「じゃあ決まりだな。どの依頼が良いかは俺たちで決めても良いか?」
「うん! お任せするよ。日程も明日以降ならいつでも大丈夫」
「りょーかい」
そうしてマテオ達三人と一緒に依頼を受けることを決めて、俺はミルと一緒に宿を出た。
『ミル、一緒に依頼を受けても良かった?』
『もちろんです! 一般的な冒険者の戦いを見ておくのも良いと思います』
『そうだよね。楽しみだな〜』
マテオが泊まりの依頼にするって言ってたし、初めての遠出依頼になりそうだ。色々と学ばせてもらおう。
『あっ、パンの匂いです!』
『本当に? まだ俺には分かんないな……』
『ミレイアの家はこっちですか?』
『うん。合ってるよ』
ミルはパンの美味しそうな匂いを嗅ぎ取り、足取り軽くそして尻尾をゆらゆらと振りながらミレイアの家に向かって歩き始めた。
さっき朝ご飯食べたところなのに、ミルがどんどん食いしん坊キャラになってる気がする。まあ可愛いから良いんだけど。もっと稼げるようになったら好きなだけ食べさせてあげよう。
『ここですね!』
ミルの先導によって迷わずミレイアの家に辿り着いた。この前は開いてなかったパン屋が開店しているようで、お客さんが店内にいるのが見える。
この前ミレイアを見つけた脇道を覗いてみたけど誰もいない。うーん、パン屋に入って店主に話しかけるか裏口をノックするか、どっちが良いのかな。でも突然裏口をノックして不審者呼ばわりされても困るよな……ここはお店からかな。
俺はそう決めてお店のドアを開ける。ミルは外で待機だ。
「いらっしゃいませ〜」
優しげな女性が出迎えてくれた。ミレイアの面影があるし、この人がお母さんで間違いなさそうだ。
「すみません。ミレイアさんはいますか? 友達なんですけど……」
「ミレイアの、友達?」
ミレイアのお母さんらしき人は、途端に警戒するような様子を見せた。顔には困惑が浮かんでいる。あ〜やっぱりダメだったか。
「あの子はずっと外に出ていないし、友達はいないはずよ。あなたは誰……?」
やばいな、めっちゃ警戒されちゃった。もっと親しみやすい口調にしたほうが良いのかな……
この街って冒険者には少なくても一般的には敬語を使える人が意外と多いから、思わず使っちゃうのだ。
「この前ミレイアと知り合ったんだ。早朝に散歩してたらそこの脇道で」
「本当かしら……」
「呼んで貰えばわかると思うけど……また会いに来るって約束したんだ」
「……じゃあ、確認だけするわ。名前は?」
「トーゴです」
「ちょっと待ってなさい」
女性はそう言うと店の奥に行ってしまった。そしてその後すぐにミレイアがお店に駆け込んでくる。
「トーゴ!」
うわっ……危なかった。
「ミレイア、そんなに勢いよく抱きつかれたら危ないよ」
「だって、だって、トーゴのおかげで普通の暮らしができるようになったの!」
「ミレイア、知り合いなの?」
「お母さんに言った人だよ! 私の呪いを解いてくれる人がいたって」
「あれ本当の話だったの……? あなたの願望かと……」
「もうっ、お母さん信じてなかったの!」
ミレイアはこの前よりもかなり明るく元気になっている。結界の力を使いこなせるようになったのだろうか。




