43、ランクアップ
「ミル、ちょっと難しいみたい……」
「確かに風を発生させたら、こうなりますよね……」
ミルはもふもふのスキルで濡れた場所から乾いていくみたいだ。俺もそのスキルが欲しかったな。
「風で水を動かそうって考えがダメなのか……水自体を動かす魔法ってないのかな?」
「イメージして何かしら呪文を作れば、魔力の消費は激しくても発動はするのではないですか?」
「確かにそっか。どんな呪文がいいんだろ……」
水が流れて欲しいんだから、「水よ流れろ」とかでもとりあえずいけるかな? 早速試してみるために桶に飛び散った服を集めた。
「水よ流れろ」
その呪文を唱えると一応桶の中に水が発生して、さらにぐるぐると水が回った。しかし穏やかな感じの回り方だ。さらに一回の発動で十秒だけ。
……これだと服がそもそも綺麗にならなそうだし、綺麗になる頃には魔力が尽きそうだ。呪文が良くないのか魔力の消費量も多いし。
「トーゴ様、これではダメそうですね……」
「うん。……やっぱり洗濯は手で洗うのが一番早いかも」
「手で洗えば魔力も消費しませんし、その方が良いかもしれませんね」
そうなのだ。わざわざ魔力を消費してまでその呪文を使うってことは、相当便利でないと使わないだろう。
……洗濯は自分でやった方が早いかな。
「じゃあ次をやってみよう。次はお湯を魔法で作れないか試してみたいんだ」
魔道給湯器を魔法で再現だ。これができればどこでもシャワーを浴びれる! と思ったんだけど、改めてよく考えてみると多くの問題点がある。
俺の理想は、ウォーターボールを空中に留めてそれを火魔法で熱してお湯を作るイメージだ。でもウォーターボールをずっと空中に留めるには、集中力も魔力も必要になる。さらにその上で火魔法の火もずっと保持しなければいけない。
考えるだけで大変だな……それならそこら辺の枝を集めて焚き火にして、鍋を一つ持ち歩いてそこに水を発生させて沸かした方が早い気がする。
……いや、やってみる前から諦めちゃダメだ。とにかく実践あるのみ!
「ウォーターボール、ファイヤー」
うぅ……両方を発動してるのって意外と大変だ。ちょっと気が逸れると魔力の供給が止まって、火は消えて水は地面に落ちそうになる。
そこを頑張ってなんとか……でもこれってどのぐらいでお湯になるの?
「ミル、もうお湯になってるかな?」
俺がそう聞くと、ミルが前足でチョンっと触れて確認してくれた。
「いえ、まだ冷たいです」
「マジか……」
もう結構魔力使ってるのに――これはダメだな。とりあえず中止! 俺はウォーターボールを近くにあった木まで飛ばし、ファイヤーを消した。
「ミル、これもダメみたい。魔力が勿体なさすぎる」
「みたいですね。……トーゴ様、日常生活で魔法を使うのはかなり難しいのではないでしょうか? 多分魔道具の方が圧倒的に便利かと」
ミルは言いづらそうにそう言ってくれた。いや、俺もなんとなくそうだなって思ってた。多分お金持ちのところには洗濯の魔道具とかあるんだろうし、それのほうが圧倒的に便利だろう。
お湯を作るのも魔道給湯器が圧倒的に便利で、その次に便利なのが普通にファイヤーで火をおこして鍋でお湯を沸かすこと。
魔法を使って生活を便利にするのは……うん、ちょっと難しそうだ。諦めて街中で使うのはウォーターとファイヤー、アイス、ウインドだけにしよう。
というか風魔法と水魔法で簡単に洗濯できるなら、その二つの属性を持った人の洗濯屋とかが街にないとおかしい。ないってことはできないってことだ。
「潔く諦めることにするよ。街中でも普通に使える魔法もあるし、そういうのだけを使ってあとは自力で頑張る」
「それが良いですね」
ミルは俺を労わるように近づいてきて、手をぺろぺろ舐めてくれた。……ふっ、くすぐったい。でも嬉しい。
「じゃあミル、お昼を過ぎちゃったしどこかでお昼ご飯を食べようか。そして午後はまた薬草を集めて帰ろう。アイテムボックスに入れておけばいつでも使えるから」
「はい!」
そうして俺とミルは、薬草をたくさん採取して街に帰った。
少し早めに街に帰ってきたので、冒険者ギルドに向かうとまだ人はまばらだった。リタさんの受付が空いていたので迷わずそこに向かう。
「トーゴさん、今日はお早いですね」
「はい。依頼を達成できたので帰ってきちゃいました。こちら依頼の品と依頼票です」
「ありがとうございます。お預かりいたします」
リタさんは薬草を一本一本確認して本数を数えると、受注記録に達成と書き込んでくれた。そして報酬を渡してくれる。
「とても丁寧に採取していただきありがとうございます。依頼達成です」
「良かったです。ありがとうございます」
「はい。トーゴさん、実は今回の依頼達成でランクアップできるのですが、いかがいたしますか?」
報酬をもらって帰ろうと思っていたら、リタさんにそう言われた。ランクアップって……冒険者ギルドランク!?
「できるのですか!」
思わず身を乗り出して聞いてしまう。だってずっとランクアップしたいと思ってたのだ。今はFランクだけど、Eに上がればそのもう一つ上のDランクの依頼まで受けられるようになる。そうすれば報酬もかなり上がる!
「はい。トーゴさんはとても真面目に依頼をこなしてくださいますし、達成数も多いです。それに今のところ達成率は100%ですので全く問題はありません。街の外の依頼を受けていただいたことがなかったので、今まで保留となっていたのです」
そうだったのか。ランクアップできるならする一択だ。
「ではランクアップをお願いします」
「かしこまりました。冒険者ギルドカードを交換いたしますので、Fランクのカードは回収させていただきます」
「分かりました。お願いします」
「少々お待ちください」
Fランクの冒険者ギルドカードを手渡すと、リタさんは後ろに下がっていった。そして数分待つと新しいギルドカードを持ってきてくれる。
「こちらが新しい冒険者ギルドカードとなります。ご確認ください」
おおっ、Eランクになってる。まだまだ凄いランクじゃないんだけど、結構嬉しい!
「ありがとうございます!」
「Eランクの方はDランクの依頼まで受けることができますので、無理のない範囲でお願いいたします」
「分かりました。ありがとうございます」
そうして俺は新しいギルドカードを手にして冒険者ギルドを後にした。
『ミル、ランクアップだよ!』
『凄いですね。さすがトーゴ様です!』
『これからはもっと報酬の高い依頼も受けられるよ』
『たくさん稼いで欲しいものを揃えましょう』
『頑張ろうか』
ミルと念話でそんな会話をしながら、俺は足取り軽く宿に戻った。




