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42、薬草採取と魔法の検証

 基本的に今回採取する二つの薬草は、草原や森でも木があまり密集していない場所に生えているらしい。多分日当たりが良いところの方が育ちやすいのだろう。

 俺は森と草原どちらにいくか迷ったけど、結局は人があまり足を踏み入れない草原の奥に向かうことにした。


「ミル、薬草の匂いする?」

「うーん、難しいです。僕は採取後の香りしか知りませんし、匂いを嗅いだのが少し前なので記憶が曖昧になっています」

「そっか。じゃあまずは一本ずつ見つけないとかな」


 依頼はヒーリング草を十本、シャルム草を五本だ。簡単に終わる依頼かなと思ったけど、意外と大変かもしれない。

 俺は頭の中でマップを展開して魔物の動きを気にしつつ、草原の草をかき分けて薬草を探した。そうして探すこと二十分。ついにヒーリング草を発見した。


「ミル! ヒーリング草があったよ。大きくて三本分取れるかも」

「本当ですか!」

「うん。ミルも見てみてくれる?」

「かしこまりました。……確かにこれは薬屋で見たものと同じですね。匂いも似ています!」

「じゃあ合ってるね。ありがとう」


 確認してくれたミルにお礼を言って、アイテムボックスからナイフを取り出した。ナイフは道具屋に安価で売っているので、結構早い段階で手に入れていたものだ。


「じゃあ採るよ」

「はい!」


 ヒーリング草は真ん中に太い茎があって、そこからわき芽が出ている。俺たちが採取するのはこのわき芽だ。元の太い茎から採るとそのまま枯れてしまうので、それはご法度となっている。

 ナイフで茎を傷つけないように、わき芽だけを綺麗に採取する。うん、我ながら完璧だ。


「これで大丈夫かな?」

「完璧ですね。では匂いを嗅いでも良いでしょうか?」

「もちろん」


 ミルは採取した後のわき芽と、採取していない茎の方まで入念に匂いを嗅いでいる。これでどこにあるのか見つけられたら本当に凄いな。


「いけそう?」

「うーん、そこまで特徴的な匂いではないので難しいですが、近づいたら気付けると思います」

「分かった。じゃあ匂いがしたらその辺を重点的に探そうか」

「はい!」


 それから俺とミルは二時間ほどかけて、ヒーリング草を十二本とシャルム草を六本手に入れた。ミルの嗅覚は予想以上に凄かった。ミルが匂いがすると言った直径一メートル以内には必ず薬草があるのだ。魔物使いは薬草採取に向いているのかもしれない。


「これで依頼は達成ですね」

「ミルのおかげで早く採取できたよ。ありがとう」

「いつでもお助けします!」


 ミルは褒められてドヤ顔だ。ドヤ顔だけど可愛いんだよな……人間なら鼻の穴がプカーって開いてそう。


「ははっ、ありがとう。じゃあお昼にはまだ早いし、魔法の検証をしてもいい?」

「もちろんです!」

「じゃあ、まずは魔物を魔法で倒してみよう」


 俺はまず攻撃魔法を使ってみることにして、魔物をマップで探してそこに向かった。


『カウみたいだ。この距離から魔法を試してみるよ』

『頑張ってください』


 さっき色々と確認してみたところ、魔法の飛距離は割とイメージによって融通が利くようだったので、魔法が届くギリギリの距離まで近づき発動した。


「アイススピア」


 すると氷の槍が出現してカウに向かって一直線に飛んでいく。しかしカウは何かを察知したのか少しだけ体をずらし、それによって首のあたりの狙いは外れて後ろ足の付け根付近にアイススピアが刺さった。

 致命傷にはなっていないようで、カウは怒りながら俺の方に突進してくる。しかしまだ距離はある。そう思って焦らずに次の魔法を放った。


「ウォーターボール。――え!?」


 しかしウォーターボールはカウの角でピシャっと弾かれた。俺はウォーターボールで突進を止められると思っていたので、動揺して一瞬だけ判断が遅れる。そしてその一瞬の隙にカウは俺のすぐ近くにまで迫ってきた。


 ガキンッッ!! 


 ふぅ……間一髪だ。アイテムボックスから剣を取り出してカウの角を受け止めることができた。

 やっぱり体を鍛える前に、魔法が使えるからって魔物と戦わなくて良かった。


「アイススピア」


 俺はカウの角を剣で受け止めている間に、アイススピアを急所へと放った。それによってカウは絶命する。

 ……今のはかなり危なかった。一歩間違えれば大怪我してたか最悪死んでたな。


「トーゴ様大丈夫ですか!」

「うん、大丈夫だよ。予想以上に魔法が強くなかったんだ」


 魔法ってもっとこの辺の魔物なら一撃で屠れるとか、そんな強さなのかと思っていた。確かに強いんだけどソロには向かない。パーティーに一人いて、前衛が足止めしてるところに魔法を使うのなら有用だろう。俺の場合は自分の剣で魔物を受け止めて魔法を使うのが一番かな。

 でも魔力を消費するからできる限り剣で戦うことにしたい。魔力はアイテムボックスと回復系に残しておきたいのだ。


 あとはやっぱり魔法の一覧が載っている本が欲しいな。いろんな魔法を作ったんだけど案外覚えてないものなんだ。いろんな種類の魔法が使えた方がいざという時に役立つだろうし、お金が貯まった時は最優先で購入かな。それでどんな種類の魔法があるのかを頭に入れたい。


「これからは基本的に剣で戦って、それを補助するのが魔法って形にしようかな」

「確かにそれが良いかもしれませんね」

「そうだよね。よしっ、じゃあ攻撃魔法はとりあえず使えることが分かったし、次は魔法を日常生活に応用できるか試そう」

「日常生活に応用ですか……?」

「そう! この街というかこの国って、魔法を生活に使うことはほとんどないでしょ? だから色々と試してみたくて」


 街の中で魔法を使っているところを見たことがあるのは、ウォーターで水を作り出すところと、ファイヤーで火をつけるところ。それからアイスで氷を作り出すところぐらいだ。本当に単純な魔法しか街中では見かけない。

 しかもそれも、魔道具が買えたらそっちがいいんだけどお金がないから仕方なく、って感じなんだ。魔法だと生活に使うには細かい制御ができないから不便で、圧倒的に魔道具の方が使いやすいのだそう。


 この街で一番大変なのは魔法も使えなくて魔法具も買えない人だけど、次に大変なのは魔法は使えるんだけど魔法具が買えない人だ。俺はこの後者に位置するけど、色々試して魔法も便利だよってことを証明しようと思う。


 ということで検証スタート! まずは洗濯からかな。洗濯を手でやるのって結構な重労働だから、これを魔法でできたらかなり楽になると思うんだ。


「ミル、ちょっと下がってて」

「かしこまりました」


 俺はアイテムボックスから桶とまだ洗っていない服を取り出した。そして桶の中に服を入れてウォーターで浸す。さらにその桶の水に少しだけ石鹸を溶かした。


「いつもはここからは手で洗うけど、この水をなんとか風魔法で動かして、ぐるぐる洗濯機みたいにできないかなって思ってるんだ」

「確かにできたら楽になりますね!」

「やってみるよ」


 風魔法で使えそうなのはウインドだ。ウインドは微風程度から少し強めの風ぐらいまでを起こす魔法。そのウインドを桶の水の中で発動させて、さらにぐるぐる回るように三ヶ所ぐらいから一気に……


「ウインド、ウインド、ウイ……うわっっ!!」


 バシャッと大きな音を立てて、桶にあった水は四方八方に飛び散った。もちろん中に入っていた服も一緒にだ……

 さらに近くにいた俺までびしょびしょになった。はぁ、最悪だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なろう系の異世界作品ってアイテムボックスは魔力量気にしないで使える(もちろん無限大な魔力量持ってる設定とかありはするけど)というか、別枠扱いなものが多いので新鮮でしたね。
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