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41、街の外の依頼

「トーゴ様!」

「うわぁっ」


 宿に戻って部屋に入った瞬間、ミルに飛び掛かられて顔中をぺろぺろと舐められる。


「ちょっ、ちょっと、ミル……」

「無事で良かったです。何かあったのかと……」


 そう言ったミルが捨てられた子犬のような雰囲気で落ち込んでいたので、俺はミルをぎゅっと抱きしめた。


「心配かけてごめん。これからは出掛ける前に一声掛けるから」

「……そうしてください」


 落ち込んだミルを励ますように、全身をわしゃわしゃと撫でまくる。するとミルも少しずついつもの元気を取り戻した。


「そういえばトーゴ様、どこに行っていたのですか?」

「最初は早朝の街を散歩してみようかなって、あてもなく歩いてただけなんだけど、途中で仲間にしたい女の子に会ったんだ。結界のスキルを持つ女の子だよ」

「え、本当ですか!? それは凄いです。かなり確率の低いスキルですよね?」

「そうなんだよ。だから仲間になってほしいって勧誘したんだけど、ちょっと難しそうだったかな……」


 俺のその言葉にミルは不思議そうに首を傾げる。


「トーゴ様のランクが低いからでしょうか? 結界のスキル持ちならば既に強いパーティーに所属しているとか?」

「いや違うんだ。そもそもその女の子は結界を使いこなせてなかったんだよ」

「……どういうことですか?」


 それから俺は、さっき会った女の子についてと結界スキルの現状を説明した。


「……そのようなことになっているのですね。神界で設定した時には思い当たらなかった事態が多く発生していそうです」

「あり得る。結界スキルがまさかこんな扱いだなんて思わなかったよ」

「ですが話を聞けば納得ですね。これで神界に戻り設定を調節できたらいいのですが……」


 本当にそうなんだよね。というかそもそも、下界に降りてみて矛盾点やダメな設定があったら改善しようと思っていたんだ。

 だから思いつきでした設定だったり、適当に選んじゃった設定はたくさんある。後半はかなり疲れてきて、とりあえず適当に決めちゃえ〜って感じだったし。


 ……言い訳にしかならないけど、早く下界に降りてみたかったんだ。修正できない事態に陥るなんて、さすがに予想出来なかった。


「それができたら良いんだけど、できないから何とか今の世界で頑張らないと」

「そうですね。……その女の子は仲間になってくれるでしょうか? 今まで冒険者になるなんて考えたこともなかったら、突然勧誘されても戸惑いますよね」

「そうなんだ。だからゆっくり考えてって言ったんだけど、仲間になってほしいよなぁ」


 これからダンジョンを攻略していく中で強い仲間は絶対に必要だ。俺とミルだけでもそこそこのところまではいけるだろうけど、絶対に途中で行き詰まる。

 でも無理してパーティーに入ってもらっても結局は上手くいかないだろうし、向こうから自発的に仲間になってくれるのを待つしかない。


「また会いに行きますか?」

「うん。一回お試しで外に行くのでもいいよって言ったし、今度パンを買うついでに会いに行ってみるよ」

「……なぜパンを?」

「あっ、その女の子の家がパン屋だったんだ。美味しそうな匂いだったよ」

「パン食べ放題なんて良いですね……! 想像だけでお腹が空いてきました」

「ちょっと分かる。あっ、もういつもより遅い時間じゃない? 朝ご飯を食べに行こうか」

「そうですね!」


 そうしていつもより少し遅れてミルと食堂へ向かい、とても美味しい朝食を食べた。



 そしてそれから数十分後、今日の依頼を受けるために冒険者ギルドに向かっている。


『ミル、今日から外の依頼を毎日受けるよ』

『ついにですね!』

『まずは薬草採取依頼からやろうかなと思ってるんだ。あとは依頼とは別に魔法の検証もやりたいかな』

『魔法の検証とは、何をやるのでしょうか。トーゴ様は既に魔法を使われていますが……』

『そうだけど攻撃魔法を使ったことはないでしょ? だから実戦でも魔法が使えるか試しておこうと思って』


 魔法が使えても身体能力がなさすぎれば危険だと思って今までは体を鍛えることを優先してたけど、体は最低限強くなったし、ここからは魔法もどんどん使っていこうと思っている。

 とりあえずは魔物相手にどれほど魔法が強いのか、それから魔力との兼ね合いでどれほど魔法を使えるのか。この辺を検証したい。あとは魔法をどこまで生活に応用できるのかも試したい。


 例えば水魔法と風魔法で服を洗濯したり、火魔法と水魔法でお湯をつくったり。街の中で試して万が一失敗した場合の被害を考えたらできなかったのだ。

 もう街の外で検証をしていても大丈夫なほど強くなれたと思うし、この機会にしっかり検証したい。


『確かに重要ですね。では薬草採取の依頼を受けて、街の外で依頼をこなしたあとは検証をしましょう』

『うん。お昼ご飯も買っていこうか』

『はい!』


 冒険者ギルドに着き中に入ると、中はいつものようにたくさんの冒険者で賑わっていた。ムキムキの大男がひしめき合っている光景に思わず後ずさりたくなるけれど、流石に一ヶ月で慣れたので気にせずに進む。極力人にぶつからないように、しかし引きすぎずに少し強引に進むことが大切だ。

 薬草採取の依頼は常時依頼で手続きせずに採ってくるだけで良いものもあるんだけど、たまにどこかのお店などから依頼が出されていることがある。常時依頼よりもそっちの依頼の方が基本的には報酬がいいから、俺はそんな依頼がないかを探す。


『ミル、ヒーリング草とシャルム草を十本ずつ採取する依頼があるよ』


 ちょうど良い依頼があった。薬草についてはマテオ達から少し教えてもらったけど、ヒーリング草は怪我や風邪などに効く万能な薬草だ。シャルム草はヒーリング草よりも少し珍しくて、手順を踏んで煎じて飲めば魔力が回復するものらしい。

 どっちも街の薬屋で実物を見せてもらったし、冒険者ギルドに出入りしてると納品に来てる人もたくさんいるし、どんなものかは覚えている。


『その二つならば匂いも覚えていますので探しやすいです』

『じゃあこの依頼を受けようか』

『はい!』


 依頼表を剥がして受付に持っていく。もちろんリタさんのところだ。


「リタさんおはようございます」

「トーゴさんおはようございます。依頼票お預かりしますね」

「お願いします」

「遂に街の外の依頼ですね」

「そうなんです。やっと武器も持てましたし、そろそろ街の外で頑張ろうと思います」

「頑張ってください。ヒーリング草とシャルム草をご覧になったことはありますか?」


 リタさんはそう言いつつ、棚から一冊の本を持ってきてくれた。


「一応薬屋で売っているものや、納品しているものは見たことがあります」

「それならば大丈夫かもしれませんが、念のためこちらをご覧ください。採取前の二つの薬草です。この真ん中の茎とその先端にある新芽は取らず、左右に伸びたわき芽だけを採取してください」


 本には二つの薬草のイラストが描かれていた。こういう本が自分用に欲しいな……でも本は高いのだ。


「ありがとうございます。次も採取できるように配慮ですね」

「その通りです。薬草を守るためにもお願いいたします」

「分かりました」

「では依頼を達成できましたらこの依頼票と薬草の実物を持ち、またここの依頼受付までお願いいたします」

「はい。では行ってきます」


 そうして俺は依頼を受けて冒険者ギルドを出た。そして門の前にある屋台でパンと串焼きを購入し、街の外に出る。やっと冒険者らしくなってきたな!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「その通りです。薬草を守るためにもお願いいたします」 「かしこまりました」←ここちょっと気になったのですが、トーゴは普段から割と丁寧語でしゃべるので違和感はないのだけど、相手がギルドの…
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