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37、今までのお礼 畑編

 今日は一日仕事は休みにして、イゴルさんの家とイサークさんの宿屋に行く予定だ。

 どっちも仕事は終わったからないんだけど、今までお世話になったお礼に行こうと思っているのだ。一ヶ月の継続依頼で本当に良くしてもらったし、イサークさんにはかなり報酬も弾んでもらった。


『ミル、まずはイゴルさんの畑から行こう』

『はい! もう皆さんと会えなくなるのは悲しいですね』

『そうだよね……でもまた機会があったら遊びに行けばいいんじゃない? いつでもおいでって言ってくれたし』

『……そうですね。ではそうします!』


 ミルとそんな会話をしつつ畑に向かうと、いつものように畑仕事をこなすイゴルさん達がいた。


「イゴルさーん!」


 俺が呼びかけると、イゴルさんはこっちをみて大きく手を振ってくれる。


「トーゴ来たんだね! 家の方に行っててくれるか? 妻がいるから」


 実はイゴルさんにお礼に来ると言ったら、今日のお昼ご飯に誘われたのだ。俺の今までの仕事へのお礼に豪華な食事を作ってくれるらしい。凄く楽しみだ。


「分かりました!」

『じゃあミル、家の方に行こうか』

『はい!』


 家に入ると、中には奥さんとまだ小さな赤ちゃんに子供達がいた。子供達は奥さんの手伝いで赤ちゃんの機嫌を取ったり、料理の手伝いをしているらしい。本当に偉い子達だな。


「トーゴいらっしゃい。まだご飯はできてないから座っててね」

「お邪魔します。何かお手伝いできることはありますか?」

「トーゴはお客さんだからいいのよ」

「いえ、座ってるだけも落ち着かないですから」

「そう? それなら料理の手伝いをお願いしようかしら」

「お手伝いします」

「ありがとう。じゃあ手を洗ってからそこの野菜を切って欲しいわ」


 俺はその言葉に頷いて、綺麗に手を洗ってから瑞々しくて美味しそうな野菜を手にした。ミルは既に子供達に捕まったようで、赤ちゃんの近くで子供達に撫でられている……というよりも、揉みくちゃにされている。


『ミル大丈夫?』

『だ、大丈夫です……』


 子供達は小さいと言っても力は結構強いんだ。ミルはちょっと大変そう。


「トーゴ、その野菜は細かく切ってちょうだい。ソースにするの」

「分かりました。今日のお昼はなんですか?」


 奥さんは小麦粉かな? それを丸めて捏ねているみたいだ。何を作ってるのだろうか……パンとか?


「今日のメインはパスタよ。とびっきり美味しいのを作るからね」


 パスタ! そういえばこの街に来てから、今までパスタって食べてなかったな。小麦粉があるんだからパスタぐらいあるよな。


「凄く楽しみです!」

「パスタは得意なのよ。でも作るのが大変で時間がかかるから、いつもはパンを買ってきちゃうことが多いんだけど、今日は特別よ」

「ありがとうございます」


 パスタは特別な日の少し贅沢な料理って感じなのかもしれない。それを今日作ってくれるなんて、嬉しいな。


 そうして奥さんと話しながら料理を続けていると、イゴルさん達も家の中に戻って来た。


「凄くいい匂いだ」

「あなたお疲れ様。もう少しでできるわよ」

「ありがとう。何か手伝おうか?」

「トーゴが手伝ってくれてるから大丈夫よ。子供達を椅子に座らせてちょうだい」

「分かった」


 イゴルさんは優しい笑顔で子供達のところに向かって行く。イゴルさんっていい旦那さんだよな……本当に素敵な家族だ。


「トーゴ、塩を取ってくれる?」

「はい。……パスタってこの形が一般的なんですか?」

「そうよ? トーゴの家は違ったの?」

「家ではほとんどパスタを食べなくて」

「そうなのね。多分これが一番一般的だと思うわ」

「そうなんですね」


 奥さんが作ったパスタは細長い俺が見慣れたパスタじゃなくて、丸くて平べったい形のあまり馴染みのないパスタだった。大きさは五センチぐらいだ。というよりも、奥さんが適当に生地を手に取って指先でぎゅっと伸ばしたサイズだ。確かに細く切るよりはこの形の方が作りやすいのかもしれない。


 奥さんがそのパスタを茹でて俺が切った野菜を使ってソースを作り、そのソースを茹でたパスタに絡めて完成だ。

 すっごく美味しそう。ソースはトマトベースにハーブなどいろんな調味料で味付けしていた。


「お待たせ、出来たわよ」

「おっ! 今日はパスタか。豪華だなぁ」

「やった〜! パスタだ!」


 皆パスタが大好きみたいで、子供達も大はしゃぎだ。ミルも美味しそうな匂いに尻尾が大はしゃぎしている。


「では食べましょうか。神に祝福を、糧に感謝を」

「神に祝福を、糧に感謝を」


 食前のお祈りをして、俺は早速パスタを一口食べた。

 ……やばい、何これ、美味しすぎる!


「美味しすぎます!」


 とにかくこのソースが美味しい。少しだけ酸味もありながら塩味もハーブの香りもあって、日本で食べていたミートソースをもう少し複雑にしたような味だ。

 このパスタによく絡んで、最高の組み合わせになっている。口の中に入れるとパスタの弾力とソースの旨味。マジで美味しすぎて食べ切るのが勿体無い。


『ミル、絶品じゃない?』

『美味しすぎます。トーゴ様、美味しすぎます……』


 ミルはめちゃくちゃ気に入ったみたい。俺の方も見ずに一心不乱に食べている。ちょっと怖いぐらいの勢いだ。

 別にミルの顔は自然に綺麗になるから汚してもいいんだけど、もしもふもふのスキルがなかったら口の周りが真っ赤だっただろう。そのミルも可愛かったかもしれないけど……


 ミルって口の周りが汚れないから、ご飯を食べるのが上手くて凄く上品な従魔だと思われてるんだろうな。うん、凄い誤解だ。


「気に入ってもらえて良かったわ」

「今まで食べたご飯の中で一番美味しいかもしれません」

「もう大袈裟よ。でもありがとう」


 イゴルさんのお母さんは少し照れたように笑った。いや、下界に来てからなら間違いなく一番です!



 そうして大満足の昼食を終えて、俺はイゴルさんの家を後にすることになった。この後も仕事があるし邪魔しちゃ悪いからな。


「イゴルさん、皆さん、一ヶ月本当にありがとうございました。凄く楽しかったです」

「こちらこそ本当にありがとう。トーゴがいなかったら今頃どうなっていたのか……妻のことも本当に感謝している。またいつでも遊びに来てくれ」

「はい! これ今までのお礼です。是非使ってください」


 俺はアイテムボックスから手拭いを四枚取り出した。安いものだけど何かお礼の品を送ろうと思って買ってきたのだ。


「仕事で使ってください」

「いいのか?」

「もちろんです。感謝の気持ちですから」

「ありがとう。じゃあ遠慮なくもらうよ」

「そうしてください。では、本当にありがとうございました!」

「こちらこそありがとう。またね」

「はい、またいつか」


 そうして別れの挨拶をして、俺はイゴルさんの家を後にした。皆さんは俺とミルが見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。本当に良い人達だったな……ちょっと泣きそう。


「うぅ……」

「ミル泣いてる!?」

『だって、トーゴ様、子供達が泣くので……』


 子供達はミルともう会えなくなることに号泣して、最後はずっと行かないでと言っていたのだ。確かにあれは俺も泣きそうになった。


『また遊びに来ようか』

『はい。絶対に来ます』


 そうして俺とミルは少しだけ泣きながら街に戻った。次はリュイサちゃんのところだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ――ハッ、もしかしてミルのもふもふって、ほとんど断続的に発動しているんですか!? ってことはミルが口の周りにソースをつける度に、食べれば美味しいはずの絶品ソースが、汚れと判断されて時空の彼方…
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