114、初の野営
ロドリゴさんが初心者狩りだと判明した次の日。俺達はダンジョンをクリアしに行くということで、ここ数日よりも倍ほどテンション高く宿を出た。
「やっぱり悪いやつらには関わりたくないな」
「本当だよね。今日はなんだか楽しいよ!」
「分かる。昨日まではダンジョンの中にいてもこれからまた作戦をやらないといけないのか……って憂鬱だったから」
ダンジョンの深層に行くのが楽しいという俺達は、ちょっとズレてるんじゃないかって一瞬頭をよぎったけど、その考えにはすぐ蓋をした。
ダンジョンを探索するのって、思っていた以上に楽しいのだ。全く命の危険がないレベルだからというのが、大いに関係してると思うけど。
『早く下に行きましょう!』
ダンジョンの下層に行かないと周りに冒険者が多くて言葉を発せないミルは、俺達を鼻先で押して早く早くと急かしている。
「分かったよ。急ごうか」
そうしてミルからの要望もあったので、とにかく最短距離を、魔物と冒険者に出会わないようにしながらダンジョンを進むこと五時間ほど。途中で一度だけお昼の休憩を挟んで、俺達は二十五層に辿り着いた。
「まだ少し早いけど野営をするので良い?」
「うん。野営に適した場所を探そうか」
「こういう森の中だと、どこが適してるんだ?」
このダンジョンの二十五層は鬱蒼と生い茂った森の中だ。ちなみに二十六層から三十層までは岩ばかりの荒野になるらしい。
「できれば開けてる場所があればそこが良いんだよね。死角があると魔物に近づかれた時に気づきにくいから」
マップでこのフロアを端から確認すると……たまに森が途切れてるところがある。目指すならこういう場所かな。後は大きな岩があるところも候補の一つだ。背後を岩に守ってもらえるのは見張りが楽になる。
「とりあえず、ここに向かってみる?」
マップを皆にも見えるようにして森が途切れている場所を示すと、二人とミルは大きく頷いてくれた。
「途中にいる魔物も倒してくか。時間はあるしな」
「そうだね。少しでも減らしておいた方が夜に楽だよね」
「じゃあ魔物を倒しつつここに向かうことにしよう」
「行きましょう!」
それからボスロックモンキーの群れや痺れ蝶などを倒しながら進むこと三十分、俺達の目の前には森の中に突然ぽっかりと空いた丸い円があった。
「これってさ、何かの罠だと思う?」
「明らかに罠っぽいけど……マップに魔物の反応はないんだよね?」
「うん。それに地図にもダンジョンに関する本にも、ただの森が途切れた場所ってなってた気がする」
「じゃあ本当にそうなんだろうな」
ダンジョンって不思議だ。こういう地上ではあり得ない環境があるところも面白いところだよな。もしかしたらこの穴って、何かあるかもしれないと冒険者を足止めすることこそが真の目的なのかも。
俺達はマップがあるからすぐに何もないって分かっちゃうけど、普通の冒険者なら魔物がいないか警戒しつつ、隠し部屋や宝箱を探したりするんだろう。その末に何もなかったらどっと疲れるだろうな。
「ここで野営をしようか。この円の真ん中なら見張りもしやすいし」
「そうだな」
「じゃあまずはテントから張ろうか」
「野営なんてワクワクしますね!」
ミルはまるでキャンプでもするかのようにうきうきだ。確かにここでならキャンプみたいなもんだよな……ボスロックモンキーが群れになって襲ってくるから、弱い冒険者にとっては死地に等しいのかもしれないけど、もうボスロックモンキーも倒し慣れちゃったし。
「地面を平らに均した方が良いんじゃない?」
「確かにちょっと石とかあるしゴツゴツしてるか。魔法でやっちゃうよ。うーん……土よ動け」
地面を平らにする魔法の呪文に心当たりがなかったので適当に唱えてみると、発動はしたけどかなり魔力の消費量が多くなってしまった。やっぱりちゃんと最適な呪文じゃないとダメだな。今度土魔法についての本を読んで確認しておこう。
「これで大丈夫?」
「うん、問題なさそう。じゃあテントを張ろうか」
「今出すよ」
テントはかなり大きくて快適そうなやつを買ったので、アイテムボックスから取り出してみると結構な大きさだ。でも冒険者用で組み立てやすいやつを選んだはずだから、簡単に組み立てられるはずなんだけど……
「まずは、側面から出てる紐を引くらしいよ。そうすると畳まれてるテントが広がるんだって」
「これか? ……おおっ、広がったぞ!」
「凄いね。こうして広げるとかなり大きいかも」
「ミレイア、そっちの支柱みたいなやつを立ててくれる? 指を挟まないように気をつけて」
そうして組み立ての説明書に従って数分テントと格闘していると、問題なく大きなテントを完成させることができた。高いだけあってめちゃくちゃしっかりしてるテントだな……これなら夜も快適に眠れそうだ。
『なんだかキャンプみたいで楽しいですね!』
ミルはキャンプという文化がこの国にはないので配慮したのか、念話で俺にそう伝えてきた。
『キャンプ場に来てるみたいだよね。これでバーベキューもしたら完璧じゃない?』
『バーベキュー、やりたいですね!』
『まだ今日は時間あるし、そこまで魔物も脅威じゃないし……バーベキューやろうか。必要なものは全部あるし』
『本当ですか!?』
『うん。バーベキューだけじゃなくて、キャンプ飯的な感じで色々料理をしようか。お米を外で炊くのとか雰囲気でない? おこげとか作ってさ』
俺のその提案にミルは嬉しすぎたのか、体を小さく変化させて俺の腕の中に飛び込んできた。
『トーゴ様、それやりましょう!』
「ふふっ、ミル、くすぐったいって」
「二人で何か話してたの?」
「うん。外で料理をしたら楽しそうじゃないかって。どう思う? そんな余裕あるかな?」
俺のその問いかけにミレイアは楽しそうに微笑んで、ウィリーは凄い勢いで何度も頷いた。
「もちろんあるに決まってる! いろいろ作って食べようぜ!」
「ははっ、じゃあそうしようか」
「ウィリーさん、たくさん食べましょう!」
そうして俺達はこれから料理をすることに決めて、まずはテントの外に調理場を作るところから始めることにした。




