111、疑惑と尾行
ギルドを出た俺達は人通りが少ない路地に入ってから、小声でさっき捕まえた初心者狩りについて話をする。
「なあ、あいつが初心者狩りだと思うか?」
「私は……違う気がした」
『僕もです』
「俺もそうかな……」
やっぱりあいつは違う気がしたよな……俺達がミルも入れて四人全員が同じ結論に達したってことは、さっき捕まえた男にはなにかしらがあるのだろう。
「どうする? このまま解決ってことになっちゃうと思うけど」
「私たちはダンジョンをクリアして街を出ていけば良いけど……このまま手を引いたらずっと気になっちゃうよね」
「そうだよなぁ。でもだからってなにをすれば良いのか分からなくねぇか? そもそもあいつってなんだったんだ?」
そこが分からないんだよな……あのさっき捕まえた男がロドリゴさんの仲間だったとして、ロドリゴさんのことを知ってるならあいつが口を滑らせたら終わりなはずだ。
考えられるとすればロドリゴさんの狂信者とか……あとは洗脳してるとか? それともロドリゴさんがトップにいることを知らない下っ端で、本当に今までの実行犯だったとか。
そもそもロドリゴさんはなんの関係もないって可能性も捨てきれないし……ああ、ダメだ。考えても分からない! これはもう行動に移そうかな。
「皆、ロドリゴさんを尾行しようと思うんだけど……」
俺が小声でそう告げると、二人とミルは心配そうな表情で俺の顔を覗き込んだ。
「バレたりしない?」
「もしロドリゴさんが関わってるなら、今は警戒してるだろ?」
「うん。でも俺はマップで一キロ離れたところから尾行できるから」
ロドリゴさんが黒の表示で分かりやすいからこそできることだ。さすがに一キロ離れたところからなら、警戒してる相手からも気付かれることはないだろう。
「確かにな……じゃあ、やってみるか?」
「うん。とりあえずこのあと宿に戻って、俺だけ買い物に行くとでも言ってギルドに戻るよ。まだギルドにいるだろうし」
「私達は一緒じゃなくて良いの?」
「うーん、一緒でも良いかもしれないけど、大人数だと目立つから。俺が一人で行ってミルに念話で状況を伝えるから、もし何かあったらミルから聞いて動いて欲しい」
俺のその言葉に皆が頷いてくれて、初心者狩りを捕まえる第二の作戦が始まることになった。
一度宿に戻ってからギルドの近くに向かった俺は、ギルドの中に黒い点が二つあることからロドリゴさんがまだいることを確認した。
さっき捕まえた初心者狩りの男は捕まえるまで色は緑で、俺達が姿を現してから黒になったのだ。
初心者狩りとして俺達を狙ってたなら元々黒でも良いはずだよな……と、そこも俺があの男を疑っているポイントだ。あの男は今回だけ初心者狩りをやらされた捨て駒なんじゃないかって。
でもそんなことしたら尋問で一瞬でバレるだろうし、尋問でそのことを話さないとなるとやっぱり黒幕の狂信者とか、洗脳されてる人とかそのぐらいしか考えられないよな……
この世界ってダンジョンから出てくるアイテムがあって、その中にはかなり強力なものもあるから、もしかしたら人を洗脳するようなものがあるのかもしれない。
「あっ、動いた」
俺は一つの黒い点が冒険者ギルドから出たのを確認して、その黒い点を追いかけるように街を歩いた。一キロのギリギリだと見失う可能性があるので、少し余裕を持って追いかける。
「そこのお兄さん! うちの野菜は美味しいよ〜」
「ありがとうございます。でも宿暮らしなんですよ」
「その宿に土産っていうのはどうだい?」
「確かに……じゃあいくつかもらいます」
「毎度あり!」
そんな会話をこなして不自然じゃないように尾行をしていく。そうして歩くこと三十分ほど。普段は全く来ない街の端まで来たところで、俺はピタッと足を止めた。
ロドリゴさんが建物の中に入っていったのだ。そしてその建物の中には……黒い点がいくつもある。
「マジか……」
本当にあの人が黒幕なのかもしれない。どうしよう、アジトらしき場所を見つけただけで大収穫だし、このまま帰る? でもどうせなら、どんな建物なのか確認しておきたいよな。闇魔法のステルスに魔力を注ぎ込めばバレることはないはずだし……ちょっと、やってみるかな。
俺はそう決めて、ロドリゴさんが入った建物に向かうことにした。
その建物があるのは街の端で、いわゆるスラム街とでも言われるような……まあそれほどではないのかもしれないけど、でも明らかに荒れた様子から、後ろ暗い人達が集まりやすい場所なことは確かだと思う。
建物は三階建ての古いものだった。表のドアは朽ちていてもう誰も使ってはいないようにカモフラージュされてるけど、裏口はしっかりとしている。さらに表のドアから入った先にある廊下に続くドアは、新しいものに変えられていて施錠されていた。
どこか上に登れる場所がないかな。ステルスで気配を消してたとしても、さすがに扉を開けたら気付かれる。外からよじ登れるところとか……
そう考えて外観を見てみると、二階にベランダのようなものがあることに気づいた。マップを見てみるとロドリゴさんが他の数人といるのは……ちょうどあのベランダがある部屋だ。あそこに登れたら中の様子が確認できて、話が聞けるかもしれないんだけど。
『トーゴ様、何か分かりましたか?』
隣の建物の影に潜んで悩んでいたら、ミルからの念話が聞こえてきた。
『ミル、ロドリゴさんが街の端で黒表示の何人かと会ってるのが分かったよ。アジトみたいなところだと思う』
『え、本当ですか!? ということは、やっぱりロドリゴさんが初心者狩りなんでしょうか?』
『多分そうだと思うんだけど確証がないから、中の様子を確認できないか考えてるところ』
『中の様子って……その建物に向かったのですか!? 危ないからやめて下さい!』
おぅ……ミルからめちゃくちゃでかい声の念話がきた。心配してくれてるのは嬉しいけど、俺の力があれば万が一があっても切り抜けられるはずだ。魔法だけは得意だからな。
『無理はしないから心配しないで』
『本当ですか? 絶対ですよ?』
『分かってるよ。大丈夫』
俺はミルとそんな会話をしながらベランダに登る方法を思いついていた。氷魔法のアイスウォールを足場にすれば、氷なら溶けて証拠も隠滅できるはずだ。火魔法を使えばすぐに溶かせるし、対処の時間がなくて最悪放置でも、今の暑い季節ならすぐ溶けるはず。
『ミル、ちょっと行ってくるよ。俺が話しかけるまで念話はしないでくれると嬉しい』
『分かりましたけど……絶対に怪我はしないでくださいね』
『もちろん』
俺はここまで心配してくれるミルが可愛くて嬉しくて、こんな状況なのに頬が緩んだ。ミルにあまり心配かけないためにも早く偵察して帰ろう。




