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110、捕獲

 俺とウィリーは六日目にしてミレイアを追いかけるのにも完全に慣れ、誰にも違和感を覚えられることなく建物の中や時には路地を歩きながら、ミレイアを尾行した。

 ビクトルさんやロドリゴさんとは完全に別行動なのでどこにいるのか分からないけど、ロドリゴさんは黒で表示されているのでマップを見ればすぐに分かる。この五日間、ロドリゴさんに不審な点はない。


「本当に襲ってくるのかな」

「本当だよなぁ。俺はもう飽きたぜ。毎日やるのも疲れるしな」

『トーゴ様、これっていつまでやるのでしょうか?』

『どうしようか……』


 そろそろ一度休止にしても良いのかな。襲われない理由としては主に三つほど考えられる。一つ目は初心者狩りがロドリゴさんで、捕まえる側で参加してるからミレイアを襲えない場合。二つ目は初心者狩りにとって俺達はターゲットじゃない場合。三つ目は初心者狩りにこの作戦がバレている場合。


 これらの場合はいつまで続けてたって意味がないだろう。他の方法を考えないといけない。


「今日襲われなかったらビクトルさんに……ちょっと待って」


 そんな話をしていたらマップに怪しい点が映った。色は緑なんだけど……ミレイアと一定の距離をとってずっと後ろに付いている気がする。


「ウィリー、ちょっと場所を移動しよう」


 建物の中を移動してミレイアの様子が上から見える場所に移ると、マップに写っている怪しい人影を視界に捉えることができた。黒いローブを着てフードを深く被っているみたいだ。……明らかに怪しいな。


「あいつ、怪しいな」


 ウィリーも気づいたようで、そう言って窓から身を乗り出した。


「初心者狩りかな」

「可能性は高い気がする。……トーゴはここにいてあいつを見張っててくれ。俺はあいつに近づいてみる」

「分かった。気づかれないように気をつけて。ミルは俺と一緒にいて」

『分かりました』


 そうしてウィリーと二手に分かれてローブの人間を監視していると……ミレイアが路地を曲がった瞬間に、そいつがミレイアに近づくように足を早めた。そしてローブが翻った時に少しだけ見えた手の中には……銀色に光るナイフがある。


『ミル、あいつ危険だ』

『僕はいつでも飛びかかれるように準備しておきます。トーゴ様も魔法の準備を』

『もちろん』


 俺はアイスバインドをいつでも発動できるように準備して、ステルスで存在感を消しながら窓から身を乗り出した。ウィリーがミレイアの後ろにいるし大丈夫だと思うけど……ミレイアはまだ気づいてなさそうだ。


『ミル、俺を乗せてここから飛び降りれる?』

『もちろんです』

『じゃあミレイアが襲われたら飛び降りよう。襲ってくれさえすれば現行犯になるし、俺達の存在はバレても大丈夫だから』

『分かりました』


 あ、初心者狩りがミレイアに向かって駆け出したっ。


『ミル、そろそろ行こう』

『はいっ!』


 俺達が窓から飛び出した時には、初心者狩りはナイフを完全に取り出してミレイアに向かって振り上げていて、その後ろでウィリーが素手で初心者狩りに飛びかかろうとしていた。

 さらにお店の影からはビクトルさんが現れて、近くの建物からロドリゴさんが出てくる。


 そうして四人の男とミルに全方位から飛び掛かられた初心者狩りは……なすすべもなく地に伏した。地面にうつ伏せで倒された男の背中にはウィリーが乗っている。


「やっと捕まえたぞ! さあて、初心者狩りの面を拝ませてもらおうじゃねぇか!」


 ビクトルさんがそう言ってローブを剥ぎ取ると……中にいたのは、初めて見る男だった。細身でなんだか不気味な笑みを浮かべた男は、俺達の顔を順に見回すと突然声を上げて笑い出す。


「はははははっ、やっと俺を捕まえたのか! 冒険者ギルドっていうのは無能な組織なんだな」

「な、なんだと!?」

「ビクトルさん、落ち着いてください」


 ビクトルさんはやっと捕まえられた初心者狩りに興奮しているようだったので、落ち着いている俺達が話を進める。


「それで、この人は冒険者ですか?」

「……いや、俺は見たことがないな。ロドリゴは知ってるか?」

「いえ、思い当たる顔はないですね」


 そう言ったロドリゴさんは初心者狩りの顔を凝視していて、初心者狩りの方もロドリゴさんを見つめていて……しかし二人は何も言葉を交わさない。


 一般的にはなんの問題もないんだろうけど……やっぱりなんとなく怪しい気がする。ロドリゴさんが黒で疑いのフィルターがかかってるからそう見えるだけなのだろうか。


「トーゴ、この人が初心者狩りなの?」


 俺達のところにやって来て男の顔を覗き込んだミレイアは、強そうでもないひょろっとした男に首を傾げる。


「あなたは初心者狩り?」

「ああ、そうだ。俺様に狙われたんだぞ、光栄に思うがいい! ははははっ」


 なんとなくさっきからわざとらしい気がするし、何よりも普通は自分が捕まったら驚くものだと思うけど、この人は一度も驚きを見せていない。

 それに……なんだろう、この違和感は。なんとなくこの人の言葉はただ発されているだけというか、心がこもっていないというか、そういう印象を受ける……気がする。


「とりあえず、お前には冒険者ギルドに来てもらう。その後は兵士に引き渡すからな。仲間の存在や逃走ルートを全部吐いてもらう」


 ビクトルさんに腕を掴まれて立たされた男は、不気味なほどに従順だった。


「トーゴ達、こいつをギルドまで運ぶのを手伝ってくれるか? 逃げられたら大変だからな。それが終わったら依頼達成だ。ギルドで報酬をもらってくれ」

「分かりました。じゃあこの縄を使ってください」

「ああ、ありがとな」


 それから俺達は不気味な男を連れてギルドに戻り、報酬を受け取って今度は三人でギルドを出た。

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