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107、作戦会議

 俺達が顔を見合わせて何でそんな依頼をされたんだろうと首を傾げていると、ビクトルさんは俺達の疑問が分かったのか、もう一度口を開いた。


「お前達を信頼して依頼を……とかそういうことではなく、囮作戦をしたいと思ってるんだ。ギルドの見立てでは次に狙われる可能性は光の桜華が一番高いと思う。だからわざと狙われやすい場所に向かい、犯人逮捕に協力してくれないか……? よろしく頼む!」


 何だ、そういうことか。それなら納得だ。変に信頼してるからとか、活躍していて強いからとか言われるよりもすんなり理解できる。


「やっぱり俺達って狙われやすいですか?」

「ああ、確実にな。初心者狩りはそう呼ばれているが、実態は有望な冒険者を狩るんだ。初心者だからってダンジョンの浅い層で苦戦してるような冒険者が狙われたことは一度もない」


 その理由が浅い階層にいる冒険者なんて碌な装備やお金を持ってないからなのか、それとも実際はお金目的じゃなくて有望なライバルを蹴落としたいからなのか……今ある情報だけじゃ何も分からないな。

 そもそもライバルを蹴落としたいって言っても、冒険者なんてそれをしたところでメリットなんてほとんどないだろう。


 ――依頼の競争率が下がるぐらい?


 たったそれだけの理由で、こんな騒ぎになるほどの犯罪を犯すとは考えられない気がする。


「二人ともどうする?」

『ミルの意見も聞かせて』

「うーん、私は協力しても良いと思うよ。ギルドが全面的にサポートしてくれるなら、危険もないだろうし」

「俺も賛成だ! 初心者狩りなんて連中をこのままにしておくのも嫌だからな」

『僕もありだと思います。捕まえなかったらずっと警戒していなければなりませんし、それならこちらから仕掛けたほうが良いかと』


 俺は皆のそんな意見を聞いて、頷いてからビクトルさんに向き直った。


「では協力します」

「本当か! ありがとう……本当に助かる。犯人はギルドに関係のある人間だと思うんだ。だからうちで捕まえないと面目が立たないところだった」


 やっぱりギルドでもそう思ってるんだな。それでもなお犯人が捕まらないって、かなりギルドでも地位がある人とか絶対に疑われないような人が実はやってるとか……?


 そう考えた俺の頭によぎったのは、先日に黒で表示されていることに気づいたロドリゴさんだった。まさかとは思うけど……可能性はあるかもしれない。

 でも俺の能力を明かせないとなると、ロドリゴさんを気をつけたほうが良いとも言えないんだよな。かなり評価は高いみたいだし、疑うのなら相応の理由がなければダメだろう。


「ではさっそく囮作戦の内容を考えたいと思っている。一日でも早く解決したいんだ」

「分かりました。それは俺達も同じ気持ちです」

「ありがとう。まずは誰が囮になるかだが……」


 ビクトルさんはそう言って俺達三人を見回すと、ミレイアに視線を向けた。まあ囮って言ったらそうなるよなぁ。


「私が一番適任ですよね」

「すまない。もし嫌じゃなければ……」

「構いませんよ。私が一人で路地を歩いていたら、数日で襲われる自信があります」


 ミレイアは自信ありげにそう言ったけど、それは自慢することじゃないと思う……確かにミレイアの容姿は細身で儚げな感じだから、俺達のパーティーを狙うとするならまずはミレイアだろうけど。

 ミレイアが毎日同じ時間に同じ路地を通ってたら、すぐに襲われる気がする。


「大丈夫なのか?」

「うん。だって皆が助けてくれるでしょ? それにもし怪我をしてもトーゴがいるから」

「もちろんすぐに治すよ。でもその前に絶対怪我なんてさせないから」

「ふふっ、ありがとう。信じてるよ」


 そうして囮役はミレイアに決まった。後はどこの路地を通るのかと、襲われた時に捕まえる役を誰にするのか。それから捕まえる役が隠れてる場所なんかも決めないとだ。


「この作戦はこっそりやらなきゃ意味がないよな? 初心者狩りを捕まえるのは俺達だけか?」

「それはさすがに人数が少ないと思いますが……せめてもう一人は欲しいです」

「ああ、だから捕まえる役にもう一人冒険者を雇う予定だ。ロドリゴって知ってるよな?」


 俺はその名前が出た途端に、思わず固まってしまってどうすれば良いのか分からなかった。俺が今一番警戒してる冒険者と初心者狩りを捕まえるとか……凄く微妙だ。

 もし、万が一にロドリゴさんが初心者狩りだった場合、犯人に筒抜けではこの作戦は意味がなくなる。


 でもこのギルドで一番の冒険者で、イレーネさんの話を聞いても信頼できる冒険者なんだろう。普通に考えてギルドが依頼するならロドリゴさんを選ぶよな。


 他に信頼できる冒険者を知らないし、代案を提案できないのも痛い。俺はどうすれば良いのかとミレイアとウィリーに視線を向けると、二人も微妙な表情を浮かべていた。


「何だ、どうしたんだ?」


 ビクトルさんは俺達の微妙な雰囲気に気付いたのか、そう問いかけてくれる。なんて言えば良いのか……さすがにロドリゴさん疑ってますとは言えない。理由はって聞かれたら、マップで黒の表示をされていますって以外に何もないのだから。


「あの、ロドリゴさんって俺達はよく知らないので、信頼しても良いのか分からないんですけど……」


 結局はそんな曖昧な言葉になってしまった。するとそんな俺の言葉を聞いたビクトルさんは、なんだそんなことかと表情を緩める。


「あいつは大丈夫だ。俺もよく知ってるし、ずっとこの街のために尽力してくれてる冒険者だからな」

「……そう、ですか」

「それにエレハルデ男爵様とも懇意なんだぞ。あいつ以上に信頼できるやつはいないさ」


 ビクトルさんはそう言って俺達の不安を笑い飛ばした。ここまで言われて、さらにそれでも不安だとは言えないよな……。そう思った俺は、まだロドリゴさんを疑ってはいながらも頷いた。


「それなら安心です」

「ああ、ロドリゴとも協力して初心者狩りの逮捕に協力してほしい。そうだな、明日には顔合わせの機会を設けよう。明日もギルドに来てくれるか?」

「分かりました。頑張ります」

「本当にありがとな! 報酬と、レベルアップの要件にも今回のことは加味させてもらう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 そうしてその日は拭えない不安を抱えながらも、冒険者ギルドを後にした。

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