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106、ギルドマスター

 ギルドに戻って扉を開けると、もう遅い時間だからか中は閑散としていた。モニカさんがすぐ俺達に気づいてくれて、受付から声をかけてくれる。


「光の桜華の皆さん、いかがいたしましたか?」

「モニカさん、実は先ほど初心者狩りに襲われた冒険者がいまして……」


 それからさっきの二人のパーティー名とどこで襲われていたか、さらに俺がヒールを使ったことを伝えると、モニカさんは表情を厳しいものに変えて俺達に少し待つように告げた。


「ギルドも初心者狩りには警戒してるみたいだね」

「そうだな。モニカさんは上に報告に行ったのか?」

「多分そうだと思うよ」


 俺達の報告は近くにいた別の職員も聞いていたからか、ギルド内にはどこか緊張感が漂っている。これほどギルドも敵視してるのに、なんで捕まらないんだろう。


「私達も初心者狩りに狙われるのかな」


 ぽつりとそう呟いたミレイアの声が静かなギルドに響いた。確かに俺達はこの街に来たばかりだし、可能性は高いよな……しばらく単独行動は避けた方が良いかもしれない。


『ミレイアさんは僕が守ります!』

「ふふっ、ミルちゃんありがとう」


 ミレイアにミルの声は聞こえていないはずなのに、細かく振っている尻尾とミレイアに顔を擦り付けるその仕草で何を言ってるか分かったようだ。

 そしてそんなミルの様子に、ギルドの緊迫した雰囲気が緩む。やっぱりミルは凄いなぁ。俺達のアイドルで癒しで最強の仲間だ。


「皆さん、お待たせいたしました。ギルドマスターがお呼びですので、応接室に来ていただけますか?」


 ミルに癒されているとモニカさんが戻ってきた。ギルドマスターがなんで報告に来ただけの俺達に……そう疑問に思いながらも、ギルドマスターからの招集に応じないわけにはいかないので頷く。


「分かりました。全員で良いですか?」

「もちろんです」


 そうして案内された応接室の中にいたのは、かなりガタイが良くて背が高い男性だった。明らかに強そうで、この地位に着く前は冒険者として活躍していたのだろうと推測できる。歳は四十代ぐらいかな。


「よく来たな。突然呼び寄せて悪かった。俺はアーネストの街でギルドマスターをしているビクトルだ」


 勧められたソファーに腰掛けると、すぐにギルドマスターであるビクトルさんが口を開いた。


「俺はトーゴです。よろしくお願いします。こっちは従魔のミルです」

「私はミレイアです」

「俺はウィリーだ」

「もちろんお前達のことは知っている。この街に来て快進撃を見せているからな」


 ギルドのトップがもちろん知っているって言うほどに、俺達は目立ってるのか。まあ確かに、自重なくダンジョンを攻略してるから仕方ないのかもしれない。

 下層に行くほど他の冒険者は少なくなったから、ずっとこの街にいても下層に辿り着けない人達もいるのだろう。そう考えたら、この街に来て数週間で二十五層まで潜ってるのは相当なペースだよな。さすがに目立つか。


「知っていただけて光栄です」

「俺達ってそんなに凄いのか?」


 ウィリーのその言葉に、ビクトルさんは呆れたような表情を一瞬だけ浮かべて頷いた。


「凄いに決まってるだろう? いくら地図があるとはいえ攻略速度は前代未聞だ。それにここは中級者ダンジョンだからクリアしている奴らももちろんいるが、それは数ヶ月から数年かけてこのダンジョンに慣れて、その先でのクリアなんだ。お前達のように来て数週間でこんなに潜る奴らはいない」


 え、そうだったのか。それは予想してなかったよ……普通にそこそこ強い冒険者グループなら、一ヶ月ぐらいでクリアできるのかと思ってた。

 俺達はこれから先、目立たないのは無理だろうな。いずれ俺達の能力が明らかにされてしまうことも覚悟しておこう。そしてそうなったときに権力に服従させられないためにも、もっと強くなっておこう。


「さらにただクリアだけを目指してるのかと思えば、依頼も達成して魔物素材の納品もして、さらに隠し部屋まで見つけたと来た。本当に信じられない」

「隠し部屋は……偶然だったんです。ミルが掘り当てて」


 マップは明かせないのでミルの功績にしようと頭を撫でると、ミルは意図を理解してくれたようでドヤ顔で尻尾を振った。


 ――ミル、マップを隠すのに協力してくれるのは嬉しいんだけど、ドヤ顔をするのも人間の会話を正確に理解するのも、確実に白狼には無理だからもう少し人間らしさを減らそうか。


 俺はミルの自慢げな顔を見て思わず苦笑を浮かべてしまった。ビクトルさんは瞳を見開いてミルを凝視しているので、やっぱりミルは一般的な従魔からはかなり外れているのだろう。


 もう白狼って言うのは止めた方が良いのかな。森で出会った魔物で種類は分からないってしておいた方が、比較されなくてミルの特異さが目立たない気がする。

 ミルなら白狼らしくしてと言えばそうしてくれるんだろうけど、俺はミルの行動にできる限り制限はつけたくないのだ。ミルにはのびのびと自由に暮らしてほしい。


「それで、今日は何のお話でしょうか?」


 ちょっと強引だけどミルの話にならないようにと本題を促すと、ビクトルさんは俺が話したくないと思っていたのが伝わったのか、ミルのことは追求せずに視線を俺達に戻してくれた。


「すまない、話が逸れたな。今日はお前達を見込んで相談があるんだ。……先ほどお前達が報告してくれた初心者狩りだが、こいつらを捕まえる手助けをしてもらいたいと思っている。よろしく頼む!」


 ビクトルさんはそう言って、ガバッと頭を下げた。初心者狩りを捕まえるのには賛成だけど……なんで俺達なんだろう。もっと高ランクの冒険者とか、適任はいるはずなのに。

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