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105、初心者狩り

 米料理を堪能してから二日後。俺達は順調にダンジョン攻略を進めていて、今日で二十五階まで潜ることができた。この街のダンジョンは最下層が三十階なので、あと五つ下に降りればクリアだ。

 たださすがにそこまで下層だと、マップがあったとしても向かうのにも戻るのにも時間がかかるので、日帰りではあまり進めなくなっている。


 残り五層の攻略は二十五層まで下ったところで一度野営をして、次の日に万全の体調で臨むつもりだ。まだ野営は一度も経験したことがないので、これからのためにも一度経験した方が良いからな。


「明日のために野営道具の確認をしようか」

「そうだな。宿に戻ったらトーゴの部屋に集まるか?」

「そうしよっか。買い物は……いらないかな」


 最初に買った保存食は結局一度も食べてないからそのまま入ってるし、それ以外の食べ物もいくらでもある。下層はあまり冒険者がいないから、人目を気にしなくて良くてなんでも食べられるのだ。


「テントとか調理器具も買ったんだよな?」

「うん。全部入ってるよ。布とか毛布もかなり多めに」

「それなら買い足しはいらないね。このまま宿に戻ろうか」

『お腹も空きましたもんね!』


 ミルのその言葉が二人にも分かったのか、二人は頬を緩めてミルの頭と首元を撫でた。

 そうして俺達はいつも通りの和やかな雰囲気で、ダンジョン帰りの心地よい疲れを感じながらも足を進めていると……突然、どこかから叫び声が聞こえてきた。


「……くれっ、た……けて!」


 誰かが助けを求めてるのか? どこだろう。この辺は路地が入り組んでて場所が分からない。


「トーゴ、マップで何か分からない?」

「さっきから見てるんだけど、今の時間は人が多くて分かりづらいんだ。特に人だかりができてるような場所はないんだけど……あっ、でもここかも。ちょっと人が増えてきてる」

「じゃあ行ってみようぜ。何かあったんなら、俺達が助けられるかもしれないからな」

「うん。こっちだよ」


 そうして俺達は助けを求める声が聞こえてきたであろう場所に向かった。するとそこにいたのは……腕から血を流した冒険者らしい格好をした女性と、その仲間だろう男性だった。かなりの出血だ。

 周りに人だかりはできてるけど、どうすれば良いのか分からないみたいで、誰も出血を止めるような動きはしていない。


「大丈夫か!?」

「た、助けてくれ! 血が止まらないんだ……! 光魔法を使える人がいなくて、さっき治癒院に呼びにいってくれたんだけど……」


 倒れてる人はまだ意識はあるみたいだけど、この勢いで血が流れ出てたら危ないな。


「俺が治すからどいて。光魔法が使えるんだ」

「ほ、本当か!? ありがとう。マジでありがとう……」

「泣くのはまだ早いよ。治すから体の力を抜いてて」


 安心してもらおうと女性に笑いかけて、それからヒールを発動させた。魔力を注ぎすぎると俺の特異さがバレるから、少しずつしか治せないのがもどかしい。

 ただそれでも血は止まったみたいだ。あとはゆっくり治して、そこそこのところで止めて治癒院に行って貰えば良いだろう。


 能力を隠すっていうのも、こういう時にどうすれば良いのか悩むよな。俺は俺の力を最大限に出さないと救えない人が目の前にいたら、隠すことを忘れて魔法を使う気がする。


 ――まあ、それは仕方ないか。


 能力がバレたら、その時にどうすれば良いのかを考えれば良いのだ。これから五大ダンジョンをクリアしていけば、目立たないのなんて無理なんだから。


「もう大丈夫かな?」

「ありがとう……ございますっ。良かった……」

「大丈夫? 気持ち悪かったりしない?」


 ミレイアが女性に声をかけると、女性は起き上がって怠そうにしながらも笑顔を浮かべてくれた。


「ああ、大丈夫だ。本当にありがとな」

「助けられて良かったよ。それにしてもこんな街中で何があったの? 刃物で切られたような傷だったけど」

「多分だけど……初心者狩りだ」

「絶対にそうだ! 黒いローブを着て顔を隠してるやつが突然襲ってきたんだ。初心者狩りの情報と一致する!」

 

 女性の言葉に男性が怒りに震えるように声をあげた。


「初心者狩りってなんだ?」

「知らないのか? この街で数年前から活動してて、有望な冒険者ばかり狙うんだ。大体は装備や金を取られるから目的は金だろうって言われてるけど、いまだに情報がほとんどなくて捕まってない」


 そんな存在がいたのか……怖いな。有望な冒険者ってことなら、俺達も狙われる可能性が高い気がする。


「あいつら……絶対に俺が捕まえてやる!」

「ははっ、そんなに熱くなるな」

「だってお前が傷付けられたんだぞ!?」

「そうだな。ただこうして治してもらったから大丈夫だ」


 男性の勢いに女性は苦笑いだ。この二人って恋人同士とか夫婦なのかな。凄く仲が良さそうで微笑ましい。


「数年前から活動してたのに、なんで捕まってないの?」

「逃げ足が早いんだ。街を熟知していて、逃げ道がいくつもあるんだろうって言われてる」

「あとは情報収集能力も高いんだ。今回だって確実に俺達の戦い方を熟知してる動きだった……!」


 冒険者の戦い方を熟知してるってことは……もしかして、同じ冒険者がやってる? 例えば低ランクで燻ってる冒険者がお金に困ってやってるとか。

 うーん、あんまり考えたくないけど可能性はあるかも。


「とりあえず、ギルドに行った方が良いよな。初心者狩りのことを報告した方が良いだろ? もし辛いなら俺達が報告に行こうか?」

「いいのか……?」

「もちろんだぜ! かなり深い傷だったから早めに休んだほうが良いだろ?」


 ウィリーのその言葉に男性と女性は感激したような表情を浮かべ、ありがとうと笑みを浮かべた。


 それから俺達は二人のパーティー名を聞いて、今歩いてきた道を引き返してギルドに戻った。

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