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104、お米料理の実食

 誰かが部屋を出る音が聞こえたからと廊下を覗いてみたら、ちょうどウィリーが出てきたところだった。夕食が楽しみなのか、満面の笑みで部屋の鍵を閉めている。


「おうトーゴ、ちょうどいいな!」

「ううん。ドアが開く音が聞こえたからウィリーかなって思って」

「なんだ、そうだったのか。もう下に行こうぜ。俺はお腹ぺこぺこだ」


 俺とウィリーのそんな会話が聞こえたのか、ミレイアも部屋から顔を出す。


「まだ早いけどもう行くの?」

「ウィリーがお腹空いたんだってさ」

「了解。じゃあ行ってみようか」


 俺の言葉にミレイアが苦笑しつつも頷いてくれたので、俺達は夕食まであと三十分はあるけど下の食堂に向かうことにした。


 食堂にはまだ他の宿泊客は誰もいなかったけど、とても良い香りが充満している。この香りは……トマトかな。


「イレーネさん、夕食はまだか?」

「まだもう少しかかるぞ。今日は早いな」

「ごめんね。ウィリーが我慢できないみたいなんだ」

「ははっ、そうなのか。ちょっと待っててな」


 イレーネさんはカラッと気持ちの良い笑みを浮かべると厨房に向かった。そして一分ほどですぐに戻ってくる。

 その手にはお皿が乗せられていて……そこに載っていたのは、まさかの焼きおにぎりだった。


「こ、こ、これって!!」

「焼きおにぎりだ。炊いた米が余ったからってさっきソフィアが作っててな。私達が食べる予定だったけど、まだたくさんあるし少しお裾分けだ」


 焦げ目が強目についた焼きおにぎりからは、香ばしい香りが漂ってくる。マジで美味しそう、一気にお腹が空いた。


「トーゴは知ってるの?」

「もちろん! おにぎりはお米料理の定番だったんだ」

『トーゴ様、おにぎりがありましたね!』

『めちゃくちゃ美味しそうじゃない!?』

『早く食べましょう!』


 瞳を爛々に輝かせているミルに背中を押されて、イレーネさんに了承を得ておにぎりを手に取った。そして口に入れると……カリッとしたおこげの食感の中に、もっちりとしてほのかに甘みのあるお米がたくさん詰まっている。


「美味しすぎる……」

「本当だな! お米ってこんなに美味いのか!」

「確かに……これは癖になるかも」

「イレーネさん、これって味付けは何?」

「それは果物とか野菜とか香辛料を、色々と煮込んで作る特製ソースを塗ってるんだ」


 ソースを塗った焼きおにぎりがこんなに美味しいなんて驚きだ。さすがに醤油には勝てないけど、これはこれでかなり美味しい。


「じゃあそれ食べて待っててな」


 イレーネさんはそう言って準備に戻っていったので、俺達は一人一つずつのおにぎりを大切に味わって食べた。


『ソースも合いますね』

『驚きだよ。でもこの焼きおにぎりを食べたら、醤油がより欲しくならない?』

『なります。早く醤油を見つけましょう。この世界のどこかにはありますよね?』

『作ったから似たようなものはあるはずだよ。もっと大きな街に行けば良いのかな』


 そうしておにぎりを食べながら夕食の時間を待つこと三十分。ついに夕食が完成したようで、イレーネさんがお盆にたくさんのお皿を載せて運んできてくれた。


「お待たせ。今日の夕食はトマトソースのビッグバードドリアと、レッドカウのステーキ丼だよ」


 うわぁ……何これ。めちゃくちゃ美味しそう。ドリアはまだ焼きたてなのか上にかかったチーズがぐつぐつ言っていて、暴力的なまでの美味しそうな香りを放っているし、ステーキ丼は上から掛けられたソースが目に毒だ。艶々であまりにも美味しそうで、空腹が刺激される。


「めちゃくちゃ美味そう……!」

「本当だね。さっそく食べようか」

「ソフィアが自信作だって言ってたから、楽しんで食べてくれ。これはミルのな、火傷するなよ」


 イレーネさんがミルの分も床に置いた台に並べてくれたところで、俺達は四人で食前の祈りを済ませてからスプーンに手を伸ばした。

 さすがにドリアは火傷しそうなので、まずはステーキ丼からだ。一口サイズに切られたステーキを下にあるご飯ごと掬い、ソースが垂れないように気をつけて口に運ぶ。


 ステーキは噛めば噛むほどに旨みが出てきて、ソースは少し甘めでとにかく絶品だ。そしてそんな二つを下から支えて何倍にも美味しくしているのが米だ。食感もほのかな甘みもソースへの絡み具合も、全てが完璧だ。


「やっぱり米って美味い。ステーキにはパンより米の方が合う」

「本当だな!」


 俺の呟きにすぐ同意してくれたのはウィリーだ。ウィリーはよっぽど米が気に入ったのか、かき込むようにステーキ丼を口に入れている。


「そんなに急いだら味が分からなくない?」

「いや、めちゃくちゃ美味いぞ!」

「それなら良いんだけど」


 俺はウィリーがドリアも普通に食べているのを見て、そろそろ冷えたのかなと思ってスプーンをドリアに入れてみた。そして一口分だけ持ち上げると……チーズが凄い勢いで伸びて、中から熱々の熱気が溢れ出てくる。


 伸びたチーズをスプーンに巻き付けて、息を吹きかけて少し冷ましてから口に運ぶと……かなり熱いけど、それを上回るほどの美味しさが口の中に広がった。


「これは美味しすぎる」

「私もこれ凄く好きかも。チーズが良いね」

「どれも美味すぎるな!」

『最高です。幸せです……!』


 トマトソースってなんでこんなに美味しいんだろう。何にでも合う万能なソースだよな。それにチーズも美味すぎる。


「米って美味いんだな!」

「そうなんだよ。買い占めたくなるでしょ?」

「やっとトーゴが探してた気持ちが分かったよ。確かにこれは一度食べたら定期的に食べたくなるね」


 それからは皆で言葉少なに、ひたすら美味しい米料理を堪能した。今日はウィリーだけじゃなくて俺もミレイアもおかわりしたほどだ。

 めちゃくちゃお腹がキツイけど、久しぶりに米を心ゆくまで堪能できて最高だったな。またソフィアさんに頼んで米料理を作ってもらおう。

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