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103、お米料理

 店員さんが案内してくれたところには、俺が日本でよく目にしていた米とほぼ同じものがある。米は変なふうに進化してなくて良かった……とりあえず見た目はセーフだ。


「これはここにあるだけで全部ですか?」

「いえ、倉庫に大袋で十個ほどございます」

「それって全部買っても良いでしょうか?」

「え……全部、ですか?」

「はい。俺は米が大好きなんです。アイテムボックスがあって持ち運べますし、買える時に買っておきたいなと」


 俺のその説明を聞いて、店員の女性は納得したのか頷いてくれた。


「アイテムボックスが使えるのですね。それならば米はとても良い保存食になると思います。もちろん全てお売りいたします」

「本当ですか! ありがとうございます!」

『トーゴ様、ついにお米をゲットですね!』

『ミル、やったよ!』


 今ここにあるだけで大袋に五つ分。倉庫のと合わせて十五個分の米だ。相当な量だし、しばらくは米に困ることはないだろう。

 ヤバい、早く米が食べたい……!


「倉庫にあるものを持って参りますので少々お待ちください」

「分かりました。よろしくお願いします」


 それからは裏にいたガタイの良い店員さんも協力して、俺達の前に十五袋の大量の米が積み上げられた。


「凄い量だね……本当にこんなに買うの?」

「もちろん。米はめちゃくちゃ美味いんだよ」

「俺は米って食べたことないぜ。そんなに美味いなら楽しみだな!」


 ソフィアさんは米を調理したことがあるかな。あるのなら別料金を払ってでも米料理を作ってもらいたい。もしなかったら……厨房を借りられるか交渉して、俺がやってみるしかないか。


「全部で金貨二枚と銀貨六枚です」

「分かりました。金貨三枚で良いでしょうか?」

「もちろんです。お釣りをお持ちしますね」

「ありがとうございます」


 そうしてお金を支払い、米はアイテムボックスに全て収納して取り引きは終了だ。


「本日はたくさんのお買い上げ、ありがとうございました。またいらしてください」

「こちらこそ目当ての品物があって良かったです。また買いに来させていただきます」


 店員の女性は入店時よりもことさら良い笑顔で俺達を見送ってくれた。あの人の中で俺達は上客認定されたんだろう。


「じゃあ二人とも、宿に戻るんで良い?」


 早く帰って今日の夕食に米料理を作ってもらわないと。その一心で足を宿に向けながらそう聞くと、ミレイアは苦笑しつつ頷いてくれて、ウィリーは瞳を輝かせながら食い気味に頷いてくれた。ウィリーは何よりも美味しい食べ物が優先なんだろう。


「ありがとう。じゃあ宿に行こうか」

「うん。その米って穀物のことはトーゴが何回か言ってたよね。そんなに美味しいの?」

「めちゃくちゃ美味しいよ。でもこれ自体が凄く美味しいっていうよりは、主食として優秀って感じかな。これはパンの代わりになるようなものだから」

「そうなんだ。トーゴはよく食べてたの?」


 俺はミレイアのその質問にすぐ頷きそうになって、なんとか寸前で頭の動きを止めた。俺はナルシーナの街に辿り着ける場所にある田舎の村出身なんだから、さすがによく食べてたのはおかしいだろう。


「よくってほどじゃないけど、村に来てくれる商人が持ってきてくれてたまに食べてたんだ。それが美味しくてまた食べたいなって」

「そうだったんだ。たまに食べてただけで記憶に残るほどのものなら、気になっちゃうね」

「想像したら腹減ってきたぜ!」

「ふふっ、さっき食べたばっかりだよ?」


 もう腹減ったって、つい一時間前ほどに串焼き屋のおじさんを驚かせたばっかりなのに。大量に買い込んだ米も、ウィリーが気に入ったらすぐに無くなりそうだな。これから米は見つけ次第、買えるだけ買う方針でいこう。


 それからも談笑しながら早足で宿に向かい、午後二時過ぎには宿に着くことができた。中に入るとイレーネさんはいなくて、ソフィアさんが奥から顔を出してくれる。


「あら、今日は早いのね」

「今日は依頼を受けずに観光をしてたんだ」

「それでソフィアさんに相談があるんだけど……これって知ってる?」


 アイテムボックスから一握りの米を取り出して見せると、ソフィアさんはすぐに頷いてくれた。


「もちろん知ってるわ。前に米がよく食べられている地域から来たお客さんがいて、その人に米料理を作って欲しいって頼まれたのよ。それからたまに作るわ」

「そうなんだ! じゃあ米は提供するから、夕食に米料理を作ってくれない……?」


 俺が恐る恐るそう聞くと、ソフィアさんはにっこりと微笑んで頷いてくれた。これで米料理が食べられる……!


「今日の夕食はまだ決めてなかったし良いわよ。イレーネが買い出しに行ってるから、買ってきた食材で何を作るか決めましょうか」

「楽しみにしてるぜ!」

「じゃあ米を一袋渡しておくよ。これでお願い」

「ありがとう。ちょっと待ってて、お金を持ってくるから」


 そう言ってカウンターの裏に回ろうとするソフィアさんを、俺は慌てて引き留めた。


「お金は良いよ。こっちからお願いして作ってもらうんだし」

「でもそういうわけには……」

「じゃあソフィアさん、今夜の夕食はおかわり自由っていうのはどう?」


 俺とソフィアさんの話が平行線になることを感じてか、ミレイアがそんな提案をした。するとウィリーのいつもの食べっぷりを知っているソフィアさんは、苦笑しつつ頷いてくれる。


「分かったわ。じゃあこれをもらう代わりに美味しい夕食を好きなだけ食べて」

「やったぜ! ソフィアさん、ありがとな!」

「良いのよ。米の一袋は結構高いもの」


 そうしてソフィアさんに米を渡して、俺達は夕食までは自由時間ということで各自部屋に向かった。


 部屋に入ってベッドに横になると、小さくなったミルが俺の上に尻尾を振りながら登ってくる。小さなミルが尻尾を振って俺の胸の上で伏せをしてる光景は……可愛すぎてヤバい。


「トーゴ様、やっとお米が食べられますね」

「楽しみだよね。どんな料理だろう」

「リゾットとかでしょうか?」

「その可能性が高いかなぁ。さすがにおにぎりはない気がする。なんだかんだ一番好きなんだけど」


 ただ炊いただけの白米を握って塩をかけるだけなのに、あんなに美味いって奇跡だよな。


「おにぎりが出てきたら驚きますね。米の種類はどうなんでしょうか?」

「確かにそれによっておにぎりは無理か」


 日本米みたいに粘り気がある米ならおにぎりができるけど、海外でよく食べられてた細長いタイプのお米とかは粘り気が少ないんだったはずだ。

 一応この世界を作った時にはいろんな種類のお米を作っておいたはずなんだけど、どう進化してるのかも分からない。


「夕食の楽しみにしようか」

「そうですね!」


 それからもミルと部屋でまったり過ごして、夕食の時間より少し早いぐらいに部屋を出た。

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