101、二人への話と観光
俺が宿に戻ろうと話をしたら二人はすぐに頷いてくれて、俺達は口数少なく宿に戻ってきた。そして俺の部屋に皆で集まって、さっそく話をする。
「依頼を受けてたのにごめん」
「大丈夫だよ。依頼は期限が一週間後だからね」
「それでどうしたんだ?」
「トーゴ様はかなり警戒していたみたいですが……」
「実は……さっきのロドリゴさんって人、マップで黒の表示だったんだ」
俺がその言葉を発すると、皆は驚いたのか瞳を見開く。そして不思議にも思ったのだろう。少し首を傾げて口を開いた。
「私達って……あの人と今日初めて会ったんだよね?」
「何で嫌われてるんだ?」
「それが分からないんだ。もしかしたらマップの黒い表示には嫌われてる以外にも他の意味があるのか、それともロドリゴさんに嫌われるようなことを、何か無意識のうちにやらかしてたのか……」
「……怖いですね」
ミルの小さな呟きを聞いて、俺は小型犬サイズになっていたミルをギュッと抱きしめた。
「ミルは絶対に俺が守るから大丈夫」
「僕もトーゴ様を守ります!」
「うん、ありがと」
そうして俺とミルが戯れ合っていると、二人の緊張感も霧散したのか頬を緩めた。それによって部屋に流れていた緊迫した雰囲気も無くなる。
「黒だって分かったから俺達に近づかせなかったんだな」
「そういうこと。もしかしたら握手に見せかけて手にナイフを仕込んでるとか、あるかもしれないと思って」
「うわっ、怖いな。これからどうすればいいんだ?」
「とりあえず、できる限り距離を取るしかないかなぁ」
後はあの人の情報を仕入れるぐらいだけど、それもあからさまにやってたら変に思われるだろうし、そこまで目立たない方が良い気がする。
「アーネストの街でトップのBランク冒険者って言ってたよね? それなら街の人も知ってるのかな」
「確かにな。イレーネさんに聞いてみるか?」
「確かにありかも」
「じゃあ行きましょうか!」
そうして俺達はミルに中型犬サイズに戻ってもらって、下の食堂に向かった。するとイレーネさんはちょうど掃除をしているところだった。
「おっ、光の桜華じゃないか。またどっか行くのか?」
「ううん。イレーネさんに一つ聞きたいことがあって。ロドリゴさんって冒険者を知ってる? Bランクでこの街のトップらしいんだけど」
「ああ、ソロ冒険者のロドリゴさんだよな? それならもちろん知ってるぞ」
イレーネさんはほとんど悩むことなく、ロドリゴさんに思い至ったらしい。それほどに有名ってことか。
「どういう人なの?」
「エレハルデ男爵様から認められてる強い冒険者で、この街で一番強いって有名だな。優しくて街中でもよく人助けをしてたりして、皆が感謝してるんだ」
「そうなんだ……」
何でそんな人が黒なんだろう。本当に不思議だ。普通に考えたら黒が誤作動かなと考えるんだけど……神様チートのマップだからな。
「会ったことはある?」
「見かけたことはあるぞ? 優しい感じの見た目で評判通りって感じだったと思うけど……何でそんなことを聞くんだ?」
「いや、さっきギルドでロドリゴさんに声をかけられたから、どんな人なのかなって思って」
「そういうことか。良い人だし仲良くなれたらトーゴ達にプラスだと思うぞ」
「そっか。教えてくれてありがと」
この様子だと誰に聞いても良い評判しか出てこなそうだ、警戒しなくても大丈夫なのかなぁ……でもマップで黒の表示はさすがに無視できない。
今のところは様子見かな。
俺はそう結論づけて、イレーネさんにお礼を言って宿から外に出た。
「とりあえず警戒はしておくことにしよう」
周りの人には何の話か分からないように皆に伝えると、皆は真剣な表情で頷いてくれた。
「分かったぜ。それで今日はどうする? 微妙な時間だけど」
「うーん、今日も休みにしようか。昨日は結局、武器屋巡りをして休みって感じじゃなかったし、今日は完全な休息日っていうのはどう?」
「それ良いね! まだこの街の観光もしてないし、見て回りたいと思ってたんだ」
「じゃあそうしよう。どうする、皆で一緒に観光する?」
『最初ですから、それが良いです!』
ミルが尻尾を振りながらそう言ったのが二人にも表情で伝わったようで、一緒に行動することで決まった。俺達の中でミルの意見はほぼ通るのだ。
「ミルちゃんはどこに行きたい?」
ミレイアがミルの頭を優しく撫でながらそう聞くと、ミルはいつもギルドに向かう方向とは逆に体を向けた。
『こちらに行きましょう!』
「こっちって……確か広場があるんだよな?」
「それから広場を越えると、こっちよりも高級なお店があるんだよね。気になってたし行ってみようか」
「わんっ!」
そうして俺達は可愛いミルに頬を緩めながら、ロドリゴさんのことは頭の隅に追いやって久しぶりの休日を楽しむことにした。
「こっちはあんまり冒険者がいないんだな」
「本当だね。この街って冒険者ばっかりなのかと思ってたよ」
「ダンジョンから出るアイテムを扱う商人がいて、その商人に対する他のお店があって……って感じで、意外と冒険者向けじゃない場所もあるらしいよ」
これは本から得た情報だ。やっぱり本って凄いよな、大切なことがたくさん書いてある。
「あっ、あの屋台面白くない?」
「おおっ、何だあれ! ビッグレッドカウとレッドカウの食べ比べだぞ!!」
俺が指差した広場に出店している屋台を見て、ウィリーとミルの瞳が分かりやすく輝いた。
「ふふっ、食べてみる?」
「おうっ! そういえばビッグレッドカウって食べてなかったよな。俺としたことが……!」
『不覚です……!』
「ははっ、そんなに落ち込むこと?」
二人が面白すぎる。さすが食事に命をかけてる二人だ。
「おっちゃん! 食べ比べセットを十個頼む!」
「え、ウィリーが十個も食べるの!?」
屋台に駆け寄ったウィリーの言葉が衝撃で思わず突っ込むと、さすがにウィリーは首を横に振った。
「違うぞ。俺が五つでミルが三つ、トーゴとミレイアが一つずつだ。もっと食べたいか?」
「いや、一つで大丈夫」
「私も大丈夫だよ」
「そっか、良かったぜ。じゃあおっちゃん、十個頼む」
ウィリーのその言葉におじさんは瞳をぱちぱちと瞬かせ、衝撃を受けたような表情で何とか頷いた。
「あ、ああ、分かったけどよ、本当にそんな食べられんのか? 二本で一セットだぞ?」
「もちろんだ」
「そうなのか……じゃあ、焼くからちょっと待ってろ」
おじさんは理解することを放棄したようで、とりあえず焼くことに集中することにしたようだ。ウィリーに対してはそれが一番良いと思う、俺達でも毎回食べたものはどこに消えてるんだろうって思うから。




