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99、武器屋

 そうして辿り着いた武器屋は、路地裏の奥にあるボロくて流行ってなさそうなお店だった。実物を見ると、さすがに大丈夫かなと心配になってくる。ミレイアとウィリーは

だから言ったじゃんとでも言うように、ジト目で俺とミルを見つめてくる。


「トーゴ、ミルちゃん、別の武器屋に行くのなら今のうちだよ」


 ミレイアのそんな言葉を聞いて少しだけ気持ちが揺れたけど、俺はミルと見つめ合って固い決意を確認した。そしてキリッとした表情のミルと同じタイミングで頷き、武器屋のドアノブに手をかける。

 ドアは建て付けが悪いのかギィィと嫌な音を立てて開き、俺達は恐る恐る店内に入った。ミレイアとウィリーも呆れつつ付いて来てくれるようだ。


「すみませーん」


 店内には所狭しと武器が並べられていた。しかし狭い店内には店員が誰もいない。もしかして定休日だった?

 そう思いながらもう一度声をかけようと息を吸い込んだちょうどその時、奥の工房から白髪のお爺さんが顔を出した。


 吊り目気味の瞳は眼光鋭く、俺達のことを品定めするようにジロジロと見つめてくる。


「何の用だ?」

「あの、武器を新調したくてきました」


 お爺さんの鋭い雰囲気に緊張しつつ、それを表に出さないように注意してそう言った。するとお爺さんは鋭い視線はそのままに、顎をくいっと動かして俺の後ろを示した。


「自分で武器を選んでみろ。話はそれからだ」

「分かりました……!」


 これは武器を売るか売らないかを見極める試験みたいなやつだ! 俺は理想通りの偏屈なお爺さん鍛冶師の存在にワクワクしてしまい、思わず頬を緩ませた。そして店内を見て回って俺に合いそうな武器を探していく。


『トーゴ様、何だか楽しいです!』

『分かる。俺もめちゃくちゃ楽しい』


 ミルとそんな会話をしながらルンルンで店内を見て回っていると、ミレイアに小声で声をかけられた。


「トーゴ、あのお爺さん怖くない? ここで買うの?」

「うん。良い武器があったらだけど。ミレイアも見てみれば? かなり良いものが揃ってるよ」

「本当だなぁ……俺も斧を買い替えようかな」


 俺とミレイアの会話が聞こえていたらしいウィリーが、斧を手に取って吟味し始めた。さっきから剣を何本か手に持ってるけど、あのお爺さんはかなり腕が良いと思う。俺にはまだ扱えそうにないなっていう、凄そうな剣がたくさんあるから。


「……この矢、今まで使ってたのよりも使いやすいかも」


 ミレイアも真剣に商品を見て回り始めたところで、俺は両手剣に視線を戻した。

 今まで使ってきたやつは今の俺には少し軽すぎるようになっちゃったから、とりあえず今のより重いものを。それでいて重心が取りやすくて初心者でも扱える剣が良いな。俺はまだ剣に関して、そこまでの実力じゃないから。


『ミル、この剣とかどう思う?』

『少し振ってみてください』

『狭いけど……こんな感じ?』

『そうですね……少し振り辛そうです。トーゴ様にはもう少し短い両手剣が良いのではないでしょうか』

『確かにそうかも。じゃあ……この辺かな』


 それからいくつもの両手剣を試して、俺は一本のシンプルな剣を選んだ。俺が選ぶ頃には、ウィリーとミレイアも斧と矢を選んだようだ。


「すみません。この剣が欲しいんですけど」

「ちょっとそこで持ってみろ。素振りもするんだ」


 カウンターの近くにあったスペースを示されてそこで剣を構えると、お爺さんは鋭い視線でしばらく俺のことを見つめた後、一つ頷いて俺に剣を渡すよう指示をした。その指示に従って剣を渡すと、カウンターの上でより切れ味が増すように手入れをしてくれる。


「お前はしっかりと自分の実力を分かってるみたいだな。そういうやつはこれから伸びる。この剣で頑張るといい」

「……じゃあ、売ってもらえるんですか!?」

「もちろんだ。……わしの何を聞いてるのか知らんが、わしはその者に合う武器ならどんなやつにだって売る。自分の実力を過信して無駄にいい武器を欲しがるやつには、自分の実力を認識しろと言うだけだ」


 そういう感じの人なのか。だから意見が二分するのかもな。指摘されて自分に合った武器を教えてくれてありがたいと思う人と、実力を貶されたと思って怒る人とに分かれるだろう。


 まあ何にせよ、偏屈なお爺さん鍛冶師攻略だ!


『ミル、ついにやったよ!』

『なんだか嬉しいですね!』

「後ろの二人、お前らも手に持ってるものを買いたいのか?」

「おうっ、そうだぜ」

「じゃあお前らもそこで構えてみろ。弓はそこの的に一本撃って良い」


 そうしてミレイアとウィリーの二人もカウンター横で武器を構えた。するとミレイアはすぐに合格をもらったけど、ウィリーの様子を見てお爺さんは顔を顰める。


「……全く合ってないじゃないか。お前にはもっといい斧が必要だな」

「確かにちょっと軽すぎるんだよな。でも今までのより全然いいぜ!」

「それを売るのはわしのプライドが許せん。ちょっと待っていろ」


 それから数分待っていると、お爺さんがふらつきながらも台車に載せた斧を運んできた。今までウィリーが使っていた斧より一回りは大きくて、全体的に黒を基本とした色合いがカッコ良い。


「これは上級ダンジョンの深層から出た金属を、半年かけて加工して作ったんだ。とにかく重くて硬い金属で、加工したところで誰も使わないと安くこの街に流れて来た。まさかこれを売る時が来るとはな。持ってみろ」

「分かった」


 ウィリーが黒く輝く斧を前にしてゴクリと息を飲み、恐る恐る手を伸ばして……軽々と斧を持ち上げた。


「おおっ! なんだこれ、めっちゃいい!!」

「お前は……本当に馬鹿力だな」

「今までのやつより何倍も振りやすいぜ!」


 確かに側から見ていても違いは一目瞭然だ。例えるなら今までは発泡スチロールの斧を振ってたけど、それが金属の斧になった感じ。それほどにウィリーは今までの斧を軽々と、重さなんて感じていないように振っていた。


「それを買うか?」

「おうっ! あっ、でもいくらだ?」

「それほど高くはない。先ほどお主が持って来た斧と同じ値段で良い。加工は大変だったが素材は安かったからな」

「本当か!? 爺ちゃんありがとな!」


 ウィリーは嬉しそうに満面の笑みで斧の様子を確認している。この武器屋に来て良かったな。こういう掘り出し物が見つかるのも、偏屈なお爺さんがやってる武器屋の特徴なんだ。俺の理想の武器屋そのままでテンションが上がる。


「お爺さん、この金属って何か特殊な効果とかあるの?」

「買った時の鑑定書には、とにかく硬くて重い性質を持つとしか書いていなかった。なのでそれ以外は普通の金属と同じだと思ってれば良いだろう」


 ミレイアの質問にお爺さんが答えてくれて、ウィリーが隣で頷いた。


「じゃあ普通に手入れすればいいんだな」

「ああ、手入れは怠るなよ。色が黒いから汚れが見づらいが、ちゃんと毎日やるんだぞ」

「もちろんだぜ」


 そうして俺達はそれぞれ武器を選び、さらに手入れ剤も購入して武器屋を後にした。この街で贔屓にする武器屋はここで決まりだな。

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