闇の魔法と圧倒的な力と
「やああっ!」
「これで、どうっ!」
始祖の剣とヒカリちゃんの魔法剣による挟撃。完璧なタイミングで叩きつける……が、その攻撃を食らっても傷一つつかない。それどころか、まるで子供が戯れているとばかりに体で受け止めている。
先程から何度か攻撃をしているが、それでも効果がない。
『さて、まだ攻撃はしてこないのか?』
「チッ……!」
ニヤリと笑ってそんな風に言われる。
生半可な攻撃では、傷どころか動揺させることすら出来ないか。
「ヒカリ、援護をお願い」
「……はい!」
そして、始祖の剣に魔力を通して攻撃を仕掛ける。
『なるほど、不快な剣だ』
そういうと、こちらに向けて手を握る。
……まずい! 体が危険を感知する。自分の直感に従って目を凝らし……すると、空気中に魔力のゆらぎが見える。
その揺らぎを凝らしてみれば……相手の攻撃範囲が分かった。そして、その範囲から必死に回避。
「ギリギリ……ねっ!」
『……?』
回避した俺を見て首をかしげる魔女。そのまま、もう一度握りしめる。やはり周囲に魔力のゆらぎが見えた。範囲外へと逃げる。
……なるほど、理解してきたぞ。これは周囲の魔力を動かして握りつぶしている。ならば、その範囲を見切れば回避は可能というわけか。
「……それなら!」
先程までは攻撃に対する防御手段として魔力を残していた。しかし、回避できるのであれば話は別だ。
すべての魔力を攻撃のために注ぎ込む。ヒカリちゃんが背後から始祖魔法を撃つ。効果こそないが、目くらましとしては十分に役に立っている。
そして、その魔法に紛れながら剣による一撃を放つ。
「くらいなさいっ!」
『ほう』
その攻撃を喰らい……魔力が切り裂かれ、メアリちゃんの体にほんの少しだけ傷がつく。攻撃は通るようだ
『なるほど、剣を使っているから勘違いしたが……』
「……っ!?」
「レイカさん、危ない!」
魔女が手をこちらに伸ばそうとする。触れられようとした手を防ごうとするようにヒカリちゃんの魔法が飛んできた。
それを見てうっとおしそうに手を振るって攻撃を防ぐ魔女。その援護に乗じて、慌てて手の届かない位置へと飛び退いた。
「レイカさん、大丈夫ですか?」
「ええ」
『ふむ、貴様は邪魔だな』
そういうとヒカリちゃんに向けて魔女が手を振るう。それに連動するように、魔力の壁が押しつぶそうと襲ってくる。
「……ヒカリ!」
「は、はい!?」
何故か動かないヒカリちゃん。このままだと間に合わない。
仕方ない。覚悟を決めてヒカリちゃんを抱きかかえ、そして手元で魔法を暴走。爆発させる。
「ぐっ……!」
「きゃあっ!」
ダメージこそあるが、そのおかげで相手の攻撃の外まで逃げ切れる。
そして、先程まで立っていた場所が魔力の壁によって押しつぶされた。
「あ、攻撃……?」
「ぐっ……ヒカリ! なんで回避しないの!」
その言葉に困惑する表情を浮かべるヒカリちゃん。その表情は本気で戸惑っている。
……もしかしてと思い当たる。
「……魔力の揺らぎが見えないの?」
「揺らぎ……? い、いえ……何も見えないです!」
必死に目を凝らそうとする。しかし、それに対して何も見えないというヒカリちゃん。
それを煽るかのように、魔女は魔力の揺らぎを作って見せつけている。
『世界を食らう魔の才を持たぬ者に見えるはずがなかろう』
……もしかして、闇魔法の才能がないと見えないのか!?
だから、始祖魔法の持ち主であるヒカリちゃんには魔力の予兆が見えないと……おいおい、どうなってるんだよ! レイカ様みたいな人が居ないと詰みじゃねーか!
「すいません、レイカさん……こんな時に……」
「構わないわ。私が見えるのなら、問題ない」
そう、これまでどれだけ一緒にダンジョンに潜ってきたことか。
ヒカリちゃんが限界寸前になったり、レイカ様に切れかけた長い長いダンジョン。その道中でいろいろな方法を試してきたのだ。
「ヒカリ、覚えている?」
「えっ……あ、覚えています! 勿論!」
その言葉に元気を出すヒカリちゃん。どうやらこちらの意図を読み取ってくれたようだ。
「なら、行くわよ」
「はい!」
『ようやくか。退屈で寝てしまいそうだったぞ』
そう言ってこちらを見る。わざわざ攻撃をせずに待って……いや、違うな。おそらくは余裕からだ。
圧倒的な者が自分に歯向かう相手に対して、必死になることはない。準備を整えさせて、そして叩き潰す。最も屈辱的に相手の心を折る方法だ。だが……
「その余裕の表情、崩させてもらうわ」
「ええ、メアリさんを返してもらいます!」
そして、走り出す。今度はヒカリちゃんとレイカ様の二人同時だ。
『愚直なことだ』
そして、魔女は両手をこちらに向けて握る。
魔力がゆらぎ、それは俺とヒカリちゃんを握りつぶそうと襲ってくる。
「上」
「はい!」
その指示で、ヒカリちゃんは足を踏み込んでジャンプする。握りつぶされた場所にヒカリちゃんはもういない。
『ほう、ではこれでどうだ?』
すると、指をピアノの鍵盤でも引くように上下に動かす。
それに連動して、上空からいくつもの魔力の塊が降り注いでくる。一見して回避は不可能に見えるが……
「ヒカリ」
「大丈夫です!」
その言葉と共に、ヒカリちゃんがこちらへ来る。そして、二人でダンスでも踊るように回避。
右、左、右、前、後ろ、左。ステップを踏んで、ヒカリちゃんもそれに倣って動く。これは魔獣に囲まれた時に編み出した回避方法だ。
『ふはは、面白い見世物だな。どれ、もっと踊ってみせろ』
更に激しく、そして大量に攻撃が降り注いでくる。どう見ても回避できないような程に。
おいおい、音ゲーの発狂譜面か? しかし、もう準備はできている。
「行くわよ」
「行きましょう!」
二人で正面へ突撃。目の前に降り注ぐ魔力の塊は回避。
ヒカリちゃんがぶつかりそうになった時には、目線で指示。もはやヒカリちゃんはレイカ様だけを見て動いている。二人で一緒に戦った時間が編み出した芸当だ。
そして、魔力でヒカリちゃんが足場を作る。それを使って、三次元的な動きに。
「一撃、まずは入れさせてもらうわ」
そして、魔力を本気で込め上空から魔女に向かって始祖の剣を振り下ろす。
その攻撃に対して、指で魔力の壁を作り出し防御。ギリギリと拮抗する。
『どうした? 一撃をいれられたか?』
「私が、入れさせます!」
ヒカリちゃんはレイカ様の背後に飛び、始祖魔法を放つ。その目標は、敵の魔女ではなく……始祖の剣に向けてだ。
始祖の剣は始祖魔法を受けて更に魔力を大きくして拮抗を崩した。
『むっ……』
そのまま、剣は防御を引き裂いてそのままメアリちゃんの体に達する。
腕を大きく切り裂いた。
「……攻撃は通ったわね」
「ええ、これで……」
『なるほど、面白い。創意工夫……弱者の知恵だな』
ニヤニヤとした笑みを浮かべてそう言うと、自分の切り裂かれた手を撫でる。
すると、傷が消えてなくなり元通りになる。
「……さっきのカリバと同じね」
『さて、次の余興だ。精々足掻いて楽しませよ』
そして手を叩く。
一見すると何もなかったように見えて……突然、シルヴィアくんが苦しむ声が聞こえた。
「ぐっ……ああああ!」
「シルヴィア!?」
見れば、そこにいたカリバが先程よりも身に纏う闇魔法のローブが巨大に、そして凶悪になっている。
『さて、貴様らはどこまで耐えれるかな?』
「……なるほど、配下を強化したのね……」
第二段階、それは自分の配下の強化というわけか……心配なのは、他の王候補の皆だ。
心配だが、それでも目の前の魔女と戦わなくてはならない。
「……信じるしかないわね」
そして、魔女との戦いは次の段階へと移行するのだった。
調子悪いと思ったら普通に熱が出ていたので初投稿です(昨日の話です)
ちょっとした用語説明
【発狂譜面】音ゲーマーが使う用語。発狂という「途中からとんでもなく密集した譜面、とんでもない量のボタンを要求される譜面」などに使われる。自分の知っている音ゲームの発狂で調べると「人間が出来るのか……?」と思うような譜面が垣間見える




