闇の魔導書と闇の魔女
ゲームをやっていた時には名前すら出てこなかった存在、闇の魔女。
しかし、この世界でお伽噺という名の過去にあった事実として伝わっている存在をメアリちゃんが名乗っている。その突然起きた出来事に頭が混乱していた。
「闇の……魔女、だって……? それは、あくまでも伝説の存在で……存在したとしても、はるか昔に死んだはずだ!」
『……ふむ、この体は異物があるな。来い』
指を鳴らすと魔力が渦のように撒き起こり、そして渦が消えるとそこには先ほど倒したはずのカリバが膝をついて頭を垂れていた。
「なっ!? ふ、復活した……!?」
「ふん。知らなかったかシルヴィア? 闇魔法の深淵の力を」
それは、紛れもなくカリバだった。先ほど倒した姿と寸分違わない。
それが闇魔法の力なのか、魔女による魔法なのかはわからない。しかし、見たこともないその力に動揺を止められない
「お呼びでしょうか」
『この体は純度が低い。説明せよ』
「はっ! 候補としては、そこにいる女が最も適していましたが……奴は闇魔法に関わることはなく、因果を破りました。そのため、代わりとして混じり物である女を……魔力量という面では優れていましたので」
『使えぬ』
そういうと、魔女は手を空中に握る。
その瞬間、カリバの体が突然締め付けられる。まるで、目に見えないプレス機に潰されていくかのようにバキバキと音をさせる。その表情は苦悶の表情で、本気で苦痛を感じて悲鳴を上げている。
「ぎっ、ぐ、が、ああああああ!」
『魔導書を使い、余の復活のための素体を用意した功績に免じて消滅はさせないでやろう』
「なっ……!? 君たちは、仲間じゃないのか!?」
シルヴィアくんが突然の凶行に思わずそう叫ぶ。突然自分の兄弟だった人間が目の前で拷問をされているのだ。慌てないほうがおかしい。
そして、叫んだシルヴィアくんを見る魔女。その目は暗い愉悦を浮かべていた。
『仲間? くだらぬな。この世の全ては余の玩具よ』
「がっ、はぁ……! そ、そうだ……我々は……下僕……!」
苦しみながらもそういうカリバ。まるで尊大な様子はなく敬仰な信徒のようだ。そして、魔女が手を開放するとカリバも連動して開放された。
「……僕の知っているカリバは、そんな風に人の元に付く人間じゃなかったはずだよ」
「ごほっ……真理を知っただけだ。頭を垂れぬ貴様らが俺には愚かに思えるがな」
そういうカリバは、心の底から本当に愚かな人間を見るような視線を俺達へ向けている。
……脳裏で今まで得た情報と現状を統合して推察をする。
(闇の魔導書は確か、壊せないと言っていたけども……魔女の意識が宿っていたからか? そして、闇の魔導書が持ち主を探すのは自分が復活するために必要な体を見つけるため……)
そう考えると、ゲームの中でレイカ様の取っていた行動などに説明がつく。
元々、闇の魔導書は魔女の体として適正のある人間の元へと引き寄せられる何かがあるのかもしれない。しかし、俺が原作と違うルートを通ったことで闇の魔導書がレイカ様の元に来なかった。
そのせいで、手に入れたのはカリバだった。
(……もしや、闇魔法っていうのは習得すると闇の魔女の手駒になっていくのか?)
そのせいで、カリバは魔女の純粋な手駒として働くようになったのだろう。そう考えれば、ゲームでレイカ様が自分であるために自決をした結末にも説明がつく。
多分、最初はレイカ様が闇の魔導書の持ち主としてコンタクトを取ろうとしたのだろうが……おそらく、俺が王選出場などの騒動続きで俺を魔女の依り代にすることが不可能になった。だからカリバは俺に対して裏切ったと言ったのか?
(推察でしかないけど、合ってるはずだ……多分、これ次回作とかで使うネタだったんだろうな……)
『さて、余の時代から随分と経過したようだな……まあよい。手始めに余を殺した愚か者共の子孫で遊ぶか』
「させ、ません!」
突然、ヒカリちゃんが魔女の背後から剣で斬りかかる。
『……ほう、立てるだと?』
「はぁ、はぁ……メアリさんを、返して貰います!」
苦しそうな表情を浮かべているが、それでも戦える程度には動けるようだ。
……始祖魔法の力か? そう考えが及び、剣に魔力を通して見れば体にかかっていた重圧が緩和される。闇魔法の力によって、俺達を押さえつけていたのか……
『……くふふ、なるほど。あの憎き玩具共の末裔か。そして、それは余を打ち倒した男の持っていた剣。なるほど、貴様らで恨みを晴らせばよいか』
「……勝手なことを、言うわね……メアリを返してもらうわよ」
剣を向ける。勝てるかはわからない……というよりも、これは大きく歴史が変わってしまったのだ。
ここに居る魔女は、どの程度のボスかもわからないし解決方法もわからない。しかし……
「レイカさん、絶対に、助けましょう!」
「……ええ」
辛そうに顔を歪め、今も魔力を消耗し続けているヒカリちゃんがそう強く宣言するのだ。
そこで俺が首を横に振るはずがない。主人公が、立ち上がっている時に寝ているブレファンなんているはずがないのだ。
「魔女様。この程度の雑魚は私が……」
「邪魔は、させないよ!」
シルヴィアくんは、こちらに手を向けたカリバに立ち向かう。
「……ふん、貴様か。どこまでも、どこまでも邪魔をする男だ!!」
「アクレージョさん! ノセージョさん! こっちは……僕が抑える! 君たちは、ホオズキさんを!」
「ええ! 任せなさい」
そして、魔女に剣を向ける。
レイカ様は魔女に乗っ取られまいと最後まで抵抗をして自分を貫き通した。ならば、俺がレイカ様に恥をかかせるわけにいかない。
『羽虫と戯れるのも一興か。精々楽しませてもらおう』
そして、メアリちゃんを開放するための裏ボス戦が始まった。
調子を崩し気味ではありますが、やはり変わらず初投稿です




