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闇の魔法と魔人達と

「よし……まあこんなもんか」

「そうね。ああ、猿ぐつわも噛ませなさい。手の動きと口を封じると魔力を込める際に力を入れづらくなるの」

「……詳しいですね、アクレージョさん」

「あら、常識じゃないかしら?」


 シルヴィアくんからそんな風に突っ込まれながら、はぐらかして倒した男たちを拘束していく。

 裏社会で色々とイベントをこなしている時に教えてもらったのだ。特に傭兵団と一緒に行動すると普通は聞けない話が聞けて面白かった。何事も経験あるべきだな。ルドガーがめっちゃ微妙そうな顔をしてたけど。


「これでいいか?」

「ええ。じゃあツルギ、外に放り出しといて」

「うむ」


 変なタイミングで目を覚まされても困る。一番身軽に動けて一人で数人くらいならぶっ倒せるツルギくんに頼んでおいた。

 魔人化する可能性はあるが、現状ではわざわざ相手にする時間も惜しい。運び方にコツが有るのか、まるで軽い荷物でも持っていくかのようにポンポン運んでいく。

 ……どうでもいいけど、連絡員の二人がもうすっかりと怯えている。この人達、何なんだろう的な視点で。ヒカリちゃんが倉庫らしきこの部屋に積み重ねている箱の中に入っている魔石を見ながら尋ねる。


「あの、この魔石はどうしますか? もしも危険ならどこかに隠したりする必要もあるかなって思うんですけども……」

「そうね。出来るなら壊しておきたいわ。隠すだと弱いもの」

「だが師匠、壊すにしても魔石を壊すのは少々面倒だぞ」


 カイトくんがそういう。魔石は案外丈夫だ。魔力を吸収するので魔法で壊せず、鉄の鉱石くらいの強度はある。武器を使って乱暴に壊して傷つくのも問題だ。

 そんな話をしながら、懐に入れていた手袋をして一つの魔石を試しに持ってみる……そして、何やら違和感を感じる。手袋を外して直接触れる。


「おい、あぶねえだろ。触って変な魔法が発動したらどうすんだ」

「その心配がないのは確認してるわ……ただ、この魔石。おかしいわね」

「おかしいだと?」


 そう言ってロウガくんも一つ拾う。

 すると、突然手で触れた部分がサラサラと砕け始めている。ロウガくんが驚いて取り落とすが、硬い音を立てて地面にぶつかった。


「うおっ!? なんだ!? 俺は何もしてねえぞ!?」

「分かってるわ……ヒカリ」

「はい、なんで……えっ? あ、わわっ!?」


 ヒカリちゃんに投げ渡すと、掴んだ途端にまるで砂のように崩れ落ちる。

 その速度はロウガくんが触れた時以上に早い。それこそ、砂を手ですくったかのようにボロボロと崩れた。その光景に全員が驚きを隠せていない。

 魔石を地面にぶつけてみる。当然壊れない。むしろ地面に傷がついたくらいだ。


「……なるほど」

「そ、その……どうなっているんですかこれ? いきなり壊れたのに、レイカさんが触れても全く壊れてませんけど……」

「そうね……あくまでもこれは予想だけども、この魔石には闇魔法によって加工されているみたいね」


 魔石は多少なり魔力を保持する効果があるのだが……闇魔法を使って何かしら特殊な加工をしたのだろう。始祖魔法を持っている人間が触れるだけで崩壊したのは始祖魔法と闇魔法の相性の悪さを物語っている。

 レイカ様は始祖魔法の才能が一切ない。だからこそ、この魔石が壊れなかった。全員が始祖魔法持ちだったら気づかなかったもしれない。


「意味がわからねえな……それに、このレベルじゃどういう加工をしても魔法を使えねえだろ」


 ロウガくんがそう呟く。高級な魔石であれば保持する魔力が多いので、魔法を使って擬似的な魔道具として使うことは出来る。

 しかし、それでも一日二日すれば魔法は拡散して消えるし実用的ではない。なのにこの純度の低い魔石に魔法を込めて何を狙っているのか……


「……考えてもわからないけど、壊せるならヒカリとシルヴィアはこの魔石の処理をお願い。貴方達なら触れるだけで消滅させれるでしょうから適役よ」

「了解。それじゃあやってみようか」

「はい!」


 二人が魔石に触れて破壊を始める。やること自体は簡単だが数が数だ。いつから集めていたのか、箱詰めにされた魔石が数百もあればしばらく掛かるだろう。

 その間に、まだ奥に居るであろう闇魔法使いの連中を無力化しにロウガくんと俺とホークくんの三人で行く。そこでホークくんがボソリと呟いた。


「しかし、なんでしょうね。あの魔石は」

「分からねえが、闇魔法を使った爆弾か? 魔獣に変化させるのかもしれねえ」

「ありえそうですが……いえ、その用途にしては少々おかしいですね。始祖魔法の使い手が触れただけで崩壊するのはおかしいですし、あんなに純度の低い魔石を利用しているのも不可解と言うか……」


 ホークくんは首を捻りながら考えている。

 しかし、答えは出ない。情報が足りないからだ。そして最奥らしき部屋に辿り着いた。そこで、後ろの二人に視線を送る。


「……そうね、答え合わせができそうよ」


 そう、小声で言って手招きをする。

 その部屋の中を覗くとそこには大勢の人間が何かを見守っている。その中心に一人の男が魔石を持っていた。


「……見守るか?」

「そうね。相手が何をしでかすのかを理解しないと足元をすくわれる可能性があるもの」


 そしてじっと見守る。中心の男は、手に持った魔石を前にじっと見つめ……そして、飲み込んだ。


「……!?」


 俺たちはその行動に驚き、そして見守る。

 飲み込んだ男は、とたんに苦しそうに悶え始める。体には魔人化する時に発生する模様が走っていく。

 そして、その男はしばらく痙攣しながら苦しみ……そして、大人しくなる。


「おい、どうだ?」

「……ついに成功だ! やはり純度の問題だったんだ!」

「やったぞ! これで完璧な魔人になれるんだ!」


 部屋の中で歓喜の声が上がる。そう、ここで行われていたことが分かった。それは簡易的に魔人化させる実験。

 その事実に気づいて、迷わずに飛び込んでいった。これを放置することの危険性に様子を見るなどと言っていられなくなったからだ。


「すぐに叩くわよ! 残したら駄目!」

「おう! 分かってる!」

「ええ、こちらも準備します!」


 ここで一人でも取り残して、この結果が情報として流れてしまえば今回以上の騒動が起きる。

 突然飛び込んできた俺たちに驚愕する闇魔法使い達。


「て、敵だ! 敵襲だ!」

「魔人化をしろ! 返り討ちにするんだ!」


 慌てている中で、先程魔人になった男が俺たちに襲いかかってくる。

 魔力によって真っ黒に染まった瞳をこちらに向けて憤怒の表情で武器を振るう。


「クラウンの貴族共が! 八つ裂きにしてくれる!」

「調子に乗ってんじゃねえ!」


 ロウガくんがそう言いながら魔人の一撃を受け止める。足元がめり込み、その攻撃の重さを物語っている。

 しかし、過去であればまだしも現在の俺達であれば魔人がたとえ知性を持っているとしても負けることはない。それにだ……


「はははは! この力だ! 始祖魔法如き、この力で……!」

「成り立ての魔人如きに負けると思っているの?」


 横から剣を構えて一閃する。

 しかし、魔人は余裕の表情を浮かべている。おそらく、魔人になった時の戦闘力を知っているのだろう。


「無駄だ! 貴様のような始祖魔法を持たない雑魚の攻撃など……!」

「あら、魔人は品性だけでなくて痛覚も鈍るのかしら?」

「何を言っている……」


 そこまで言ってから、ガクンとロウガくんに押し返させる。

 魔人が混乱した表情を浮かべて、斬られた場所を見る。斬り付けられた胴体が、とてつもなく綺麗な切り口で半分まで切り裂かれていた。


「がっ……!? な、あ……!?」

「おらよっ!」


 体が切り裂かれて力を維持できるはずがない。そのままロウガくんが力で押しつぶした。


「……始祖の剣、強いわね」


 思わず素になりかける。いや、びっくりした。

 性能を見るために、シンプルに魔力を込めて魔法剣として振るったのだが……今までなら、何度か攻撃を繰り返して魔力で押し切り、その綻びを狙って剣を通していたのだが……正直チートだ。


(ゲームでは魔獣相手に無双できる雑魚戦をカットする武器って認識だったけども……)


 おそらく、この剣は闇魔法に対して特攻がある。

 だから魔獣に対しても強く、こうして魔人を楽々と切り裂ける。とはいえ、ここまであっさりと攻撃が通ったのは油断をしていたからだろうが。

 そのまま体が灰になって消滅する。集まっていた人間の数人が魔石を飲み込んで魔人に変貌していた。


「残りもさっさと倒すわよ」

「ああ。少なくとも、この魔石の実験結果を残させるわけには行かねえからな」


 ロウガくんもホークくんも、真剣な表情で武器を構える。

 そして、急造された魔人達を消滅させるべく魔力を込めて、剣を振るい続けるのだった。

寒暖差が激しいので体を大事にしましょうということで初投稿です

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