闇の魔法と策略と
「アクレージョさん、お疲れ様。いい演説だったよ」
壇上から降りると、シルヴィアくんからそんな風に褒められる。
「お世辞はいいわ。それで、どうだったの?」
「お世辞じゃないんだけどね……数人はマークしたよ。特に、最初に苦言を呈した貴族だね。まあ、彼らが裏切っていると確定しているわけじゃないけども……」
「マークをしておくことのほうが重要だから必要な措置よ」
演説で貴族たちの協力を仰ぐ。これも必要ではあった。
しかし、それだけではない。演説をしている間に数人が参加した貴族たちの反応を見て、その中で疑わしいと思える貴族をチェックしていたのだ。
「リストはある?」
「うん、こんなものかな。発言も抑えているし、その時の反応についても意見は書いてある」
「優秀ね」
「あはは、僕の自慢の部下だからね」
謙遜ではなくそんな風に自慢する。なんとなくほっこりしてしまいそうなので慌てて気を引き締める。
さて、リストアップした面々を見る……まあ、予想通り最近は地位も上がらずドンドン立場を失っている貴族たちだ。別に彼らが裏切っているという確証はないが、今回の魔人掃討戦に置いては彼らを重要なポジションにつけるのは不味いかもしれない。
数人、反応が不自然だった貴族の名前もある。とはいえ、あまり人数自体は多くはない。これならば裏切られて致命的な事にならないだろう
「この程度なら大丈夫そうね。それで、他は?」
「そうだね、今回参加してくれた貴族の反応を見る限りなら協力せざるを得ないだろう。特に四大貴族の当主が声を上げて動くともなれば、参加してなかったというだけで立場に影響があると考える。なら、魔人掃討戦に関しては協力的にしないと不味いと考えるだろうね。参加せずに様子見していた彼らにはちょっと面倒なことを頼もうと思ってる」
「それでいいと思うわ。ところで、演説の反応に関しては根回しをしていたの?」
四大貴族の彼らがちょうどよく返事をしてくれたこともあるし、もしかしたらある程度は演説前にちゃんと打ち合わせなどをしていたのかと聞いてみる。
しかし、笑顔で首を横に振った。
「あはは……そんな時間があったと思う?」
「それもそうね」
レイカ様が起きるまでは演説の予定も立てられないからそりゃ根回しも出来ないだろうな。
まず、関係者に書面を送って学園で演説の準備。その間も色々と根回しをして更に自分の部下を使って時間や予定の調整……足りないね、うん。本当にご苦労さまだよ。
「だから、この結果は純然たる君が頑張った成果だよ」
「そう……ありがとう、シルヴィア」
感謝を述べると、キョトンとした表情を浮かべるシルヴィアくん。
「……素直に感謝されると思ってなかったよ」
「私だって褒めるわ。貴方には苦労をかけているもの」
「あはは……なんだろう、嬉しいけど不安だな。何か要求されたりしそうで」
「失礼ね」
そう言ってから笑い合う。なんというか、この世界で生きているという感じがする。
だからこそ、ここに居ないあの子を取り返しに行かないと。
そして、演説の二日後にクラウン新聞社から号外が発売された。それは、魔人騒動にケリをつけるために貴族が動き出したという話だ。
その新聞を読みながら学園の中庭で休憩をしていると、ヒカリちゃんが走ってくる。
「レイカさん! 見てください! 新聞が……!」
「ええ、読んでるわ」
その手には新聞を持っている。どうやらいきなり見つけて驚いたようだ。
その慌てように思わず笑いそうになる。
「そんなに慌ててどうしたのかしら?」
「どうしたって……大変じゃないですか! だって、こんな新聞に書かれたら私たちが行動していることがバレちゃいますよ! そうしたら、魔人が……」
「心配は不要よ」
その言葉に、首をかしげるヒカリちゃん。
まあ、何も説明をされていないと戸惑うだろう。
「元々、ほぼ全ての貴族を動かすような大規模な作戦を隠し通せるわけがないわ。だから、こちらから情報を提供したのよ。ぜひ新聞で公言をしろと」
「あ、そ、そうだったんですか……すいません、つい慌ててしまって……」
「別に構わないわ。ヒカリがそう判断をするならもう一つの成果も出るでしょうね」
「もう一つの成果?」
と、そこでホークくんがやってきた。うむ、表情を見るに成功したようだ。
「アクレージョさん、とりあえず心当たりのある数件の商店から情報提供です」
「そう。後追いはしている?」
「今、その真っ最中ですね。カイトとロウガ先輩が情報を元に締め上げています」
なるほど、それなら大丈夫そうだ。というか、すっかり仲が良くなってるな。
ダンジョン探索はレベルアップ以外にも、こうして仲良くなる効果があるのか……ゲームでもダンジョン掛け合いとか仲良くなるキャラたちを見たかったな。いや、容量とかの関係でそれは無理だな……
と、勝手にしょんぼりしていると聞きたそうな表情をしているヒカリちゃんに気づいた。
「……あの、レイカさん。どういうことでしょうか……?」
「新聞を使って広報をしたことで、市井にも「貴族たちは噂の魔人をすぐにでも倒すつもりだ」ということが周知されたのよ。そして、貴族一丸となるほどに魔人は危険で関わることにはリスクがあるとも知ったの。そうすると、どうなると思う?」
その質問に、ヒカリちゃんは考えてから答えを出す。
「……えっと、魔人に関わっていると危ないから手を引こう……ですかね?」
「そうね。それもあるし、ならば今のうちに貴族に協力を申し出て疑いを晴らそう、もしくは目溢しをしてもらおうと思うのよ。だから、魔人関係に関する情報がドンドンと市井から集まっているわ。ちょうど人手もあるから、割り出しもすぐでしょうね」
「凄い……協力したらこんなにスムーズに行くんですね……!」
そう言って感心している。
今でこそすべてが上手く回っているが、まず最初の全ての貴族に協力をしてもらうのが高いハードルだった。だからこそ、その一番の難しい点をダンジョン踏破という目に見える実績でクリアした事が大きい。俺達が魔人に勝てると思わせる理由になるからだ。
「もしかしてですけど……レイカさん、最初からこうなることを考えてダンジョンに潜ったりしてたんですか……!?」
「さあ、想像に任せるわ」
「……はい! レイカさんはやっぱり凄いです……!」
キラキラと感動した目で見つめられる。
……そこまで深く考えていたわけではなくて、後からうまく使えるかも? だったんだけどね……レベル上げとエンドコンテンツクリアをしたかっただけだから……流石に気まずくなり、話題を変える。
「そろそろ動きましょうか。ホーク、当たりだと思う方にお願い」
「ええ、分かりました。案内しますね」
そう言って立ち上がる。目指すは締め上げている二人のどっちかだ。
シルヴィアくんは貴族たちを動かす調整。ツルギくんは別件で動いてもらっているので行けるのはそっちしかない。
「あ、私もついていっていいですか!」
「いいわよ。ついてきなさい」
「はい!」
そして、ヒカリちゃんを連れてカイトくんたちの元へと向かう。
さあ、待っててくれメアリちゃん。きっと助け出してやるからな。
9月なのにまだまだクソ暑いので初投稿です




