闇の魔法と立ち上がる人々
クラウン学園の中庭。以前にも剣聖徒で演説をした場所だ。そこには、学生ではない貴族たちが集まってザワザワとしている。
クラウン学園に関係者以外が立ち入ることは出来ない。物珍しさもあるのだろう。中には見知った顔の貴族が数人居る。四大貴族も出席しているようだ。
「人は揃ったかしら?」
裏で色々と準備をしているシルヴィアくんに問いかける。
「うん、おおよそめぼしい貴族は出席してくれたみたいだね。まだ来てない貴族もいるし、返事が返ってきてない貴族もいる。けど、ここで動き始めれば動かざるを得ないから十分だろうね」
「ならいいわ」
確認を取れたので、ゆっくりと壇上へと歩いていく。
「頼んだよ。ここで、君がどれだけ人を動かせるか……とても重要になるからね」
「あら、心配性ね。安心しなさい」
なぜなら、俺はレイカ・アクレージョなのだから
先程まで騒がしかった貴族たちは壇上に上がってきた事でシンと黙る。そして壇上に立ったレイカ様はやってきた貴族を見渡して声を上げる。
「――集まってくれて感謝するわ。知っていると思うけども、私がレイカ・アクレージョよ」
その言葉に返事はない。真面目な場では、息を呑むように静かになるのだ。
挨拶もそこそこに、本題へと入る。
「昨今の魔人騒動について……私たちは消極的な選択を取ってきたわ。誰が裏切っているかわからない、そして、相手の戦力もわからない。だからこそ、安全策のために相手が動くのを待つという選択をしてきた」
その言葉に頷く貴族たち。彼らも被害が起きたり自分の身内に裏切り者がいるかも知れないという事で日夜気を抜けない日々を過ごしてきた。
その重圧から開放される話ともなれば、気分としては小躍りしたいくらいだろう。
「でも、それも今日で終わりよ。これより、魔人共を一掃する。攻勢に出るわ。そして、貴方達にも全面的な協力をして貰うわ」
その言葉にざわつきが出る。
当然だろう。あくまでもこちらが魔人騒動に手を出すだけで自分たちには大した役目は来ないと思っていたのだろうから。
「まて、それは聞いていないぞ!」
「魔人共に襲われたらどうするつもりだ!」
「まず、以前に待つという話はどうなったんだ!」
ザワザワと騒がしくなる。
まあ、反応は当然だ。それぞれで対策はしていたのだ。それを捨ててこちらに協力しろというのだから反発は受けて当然だ。中には、成り上がりが偉そうになんて罵倒も聞こえてくる。
しかし、あえて何も言わない。色々と言っていたが、徐々にレイカ様の反応がないことに困惑して静かになっていく。そして静まり返ったのを確認し、口を開いた。
「――言いたいことはそれだけかしら?」
挑発的にも聞こえる言葉。しかし、堂々とその言葉を宣言する。
文句を言っていた人間も、その動じることのないレイカ様の態度に気圧されている。
「そうね、貴方達にも文句はあるでしょう。不満もあるでしょう。ただ、聞きたいのだけども……」
貴族たちを見渡す。
そして、俺は質問をする。
「貴方達は何のために貴族でいるのかしら?」
「何……?」
「自分の権利を守るため? 家族を守るため? 自分を守るため? ……違うわ、貴族である理由は一つだけよ。それは、このクラウン国を守るためでしかないわ。それが貴族の務めでしょう」
そう、貴族が忘れがちなことでありこの国の本質。
貴族というのは、魔法を使い国を守るための柱なのだ。しかし、貴族たちの反応は芳しくはない。当然ながら理想論であり、様々な事情があるのだ。
「そんな子供のような……」
「それはお題目だろう!」
「そうね、理想論でしょうね。でも、私はどうかしら? 成り上がりで、勝ち取っただけの貴族位。でも、私は始祖魔法も使えないのにこの国を守ってきたわ。そして、私は数日前にこの国を守れるという力も証明したわ。まあ、手伝いはあったけどもね」
演説というのは多少くらいは大きく言うことが重要だ。文句を言われなければいいのだ。
そして、始祖の剣を抜く。その剣を見て、驚きの声が上がる。
「なんだ、あの剣は……神器ではないが……」
「恐ろしい魔力だ……いや、それだけではないぞ……」
さすがはここに集まるだけの貴族はある。見ただけで始祖の剣の性能に気づいたようだ。
「学園で管理していたダンジョン。その最奥にて、この剣を魔獣から取り返したわ」
「ダンジョンを踏破!?」
「馬鹿な! あの危険な場所を……!?」
その情報は衝撃だろう。ダンジョンの奥底については誰しもが気になり興味をいだいていた。しかし、何度も探索のために派遣をして来たが十階層にたどり着くことすら困難だった。だからこそ危険だと管理を国に委ねて放置されてきた。
そのダンジョンを踏破したという事実は、この手にある始祖の剣だけでも嘘ではないと言う説得力は十分にあるだろう。
「情けなくはないのかしら? 所詮アクレージョは成り上がりの貴族。その私が、これだけのことを積み重ねて、そしてここで戦っている。だというのに、歴史ある貴族の貴方達は何をしているの?」
一歩間違えれば、反発を食らうであろう質問。
しかし、実績が物語る。それだけの事を言えると。それだけの事をしてきたと。
「――さあ、どうするのかしら?」
「……いいだろう」
声を上げたのは見覚えのある顔。
キシドーくんのお兄さんであるロウソーくんだ。
「そこまで言われて、四大貴族が立ち上がらぬ訳には行かぬ。なによりも……我々の国なのだ」
「……確かにそうだな」
そして、カイトくんのお兄さんであるオルカも声を上げた。
「やられっぱなしってのは性に合わねえ。お前らが出来るってんなら、やってもらおうじゃねえか! 背中くらいは守れる力はあるんだからよ!」
そして、徐々に声が上がる。
「……そうだな。成り上がりの子供にここまで言われて立ち上がらないわけには行かないだろう」
「貴族としての本分は民を守ること、国を守ること。不埒者共を自由にさせるなど名折れではないか」
「勝てるというのならば、勝たせてもらおうではないか!」
徐々に声が上がる。
魔人という力に押され、王の不在という不安定な国内。それぞれがどこか弱気になっていた。しかし、レイカ・アクレージョの言葉で火がついた。
俺たちの国を好きにさせるかという想いだ。打算もあるだろう。しかし、それでも立ち上がる決意をしたことには違いはない。
「そう、覚悟は良いのね?」
「当然だ!」
「魔人などに負ける積み重ねではないさ!」
その言葉に笑みが浮かんでしまう。
プリンセス・ブレイドの世界が好きで楽しんできた世界を守るために、この世界の人も立ち上がる。
そんな熱い展開の場所に立ち会えたことに、喜びを感じるのだった。
準備に時間がかかりまくってこんな時間になったので初投稿です
そして最終章へ




