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三年と竜と英雄と 前編

 ドラゴンが咆哮をする。それは物理的な衝撃を伴ってこちらの体をすくませた。


「……これは、魔力を利用した擬似的な咆哮ですね……!」

「ちっ、何もかも規格外だな!」


 そして、咆哮をした後に口の奥に魔力のゆらぎが見える。嫌な予感がして、警戒しろと叫ぼうとした瞬間。口から魔力の渦がこちらに向かって放たれる。それは、さながらドラゴンのブレスだ。

 それぞれが己に出来る最大の回避をしようとして……シルヴィアくんがいち早く俺達の前へと立って剣を構える。


「僕の後ろへ!」


 シルヴィアくんが叫びながら魔力を発動するとその魔力によってシェルターのように囲われ、ドラゴンから放たれた魔力を受け止める。


「ぐっ……くうううう!」


 シルヴィアくんは、脂汗を流しながら耐える。永遠に思えるドラゴンのブレスだったが、ようやく収まった。

 ドラゴンにとっては牽制とばかりの攻撃だったのか、特に反応をせずに優雅に着地をした。


「おいおい! マジかよ! 魔獣が魔法を使うなんてよぉ!」

「どうなっているんですか……!? あれだけの魔力を使ったのに……」


 ロウガくんとホークくんの驚く声。魔獣というのは自分の体を魔力によって保持しているからこそ、魔法を使えないというのが通説だった。

 しかし、その常識を覆される。本当にここまで来ると常識を遥かに超えている。


「……まず、私達の考えている魔獣とは別と考えましょう」

「ごほっ……そうだね。あれは魔獣というよりも巨大な魔人と考えたほうがいい。知性の残った魔法を使う魔人だ」


 シルヴィアくんのその言葉に全員の意識が変わる。

 魔獣を相手にするのではなく、強大な魔人を相手にしていると考えれば動き方も変わる。まあ、魔人と画策するには少々サイズが大きいし人間離れしすぎているが。


「来るわよ」


 その言葉とともに、ドラゴンは動き始める。その巨大な体躯に似合わず小さい飛翔をして、その長い尾を一振りしてこちらを薙ぎ払おうとしてくる。

 それこそ直撃すればなすすべなく壁のシミに変えられるだろう……だが、そこに立ちふさがるのはロウガ・キシドー。


「くはは! いいじゃねえか! 最近はどうにもこうにもめんどくせえ事ばかりだったからなぁ!」


 剣に魔力を込めていく。剣はドンドンと魔力によって強化されていく。周囲の魔力を、魔石を取り込んでいき……それは剣というにはあまりにも巨大な鉄塊へと変貌した。

 ロウガくんの成長の方向性は、自分の長所を伸ばすことだった。剣を振るう己の力を特化させつづけたその魔法は己の剣を兵器と呼べるほどに強化する魔法となった。


「竜を倒すってのは、いつだってロマンだってもんだからなぁ!!」


 そして、その薙ぎ払われた尻尾に強化した鉄塊を叩きつける。

 まるで重機が衝突するような轟音。その巨大な尻尾とロウガくんの剣がせめぎ合っている。だが、誰もそれに対して驚きはない。なぜなら、ロウガくんがその程度やってのけると誰もが信用しているからだ。そして、その瞬間にシルヴィアくんが叫ぶ。


「カイトくん!」

「分かっている! 見事な仕事だキシドー殿!」


 そう称賛しながらカイトくんは、ケロベロスを相手にしたときのようにロウガくんの肩を踏んで飛び上がり、尻尾からドラゴンの体を駆け上がっていく。

 曲芸のような行動だが、ケロベロスと違ってドラゴンは己の体を這い回る小さい人間に対して不快そうに身体を捩って振り落とそうと反応をする。だが、カイトくんは落ちる気配はない。おそらく、ケロベロスとの戦いから何かを掴んだのだろう


「無駄だ! さて、切り刻ませてもらうぞ!」


 そのまま駆け上がりながら無作為にも見える連撃でドラゴンの体に斬撃を与えながら駆け上がる。

 双剣を使って曲芸のように剣で切り裂いていく。まるで、小型の台風のようだ。


「でも、カイトくんの攻撃が効いている様子は……!」

「いえ、あれでいいのよ」


 見て分かった。カイトくんの無作為に切り刻む攻撃は考えなしにやっているわけではない。

 よく見れば、魔力による攻撃でマーキングがされている。ちゃんと目を凝らせば見える程度ではあるが、それはつまりだ……


「攻撃が有効な箇所を見つけ出しているのよ」

「然り。では、拙者も参ろう」


 肯定をしたツルギくんが刀を抜いて。ドラゴンへと走っていきカイトくんと同じようにロウガくんを踏み台にして飛び乗っていく。


「いでっ! クソ! どうにかしろ!」

「すまぬ、便利でな」


 そんな軽口を叩く。ドラゴンが反応して翼で羽ばたいて落とそうとするが、そこにシルヴィアくんが魔法を打ち込んだ。


「……そんな簡単に邪魔をさせないよ」

「感謝する、シルヴィア殿」


 そう言いながらカイトくんとは対象的な、まるで階段でも登るような優雅さで自然に駆け上がっていく。

 そして一瞬でカイトくんの攻撃で傷ついた場所へと辿り着いて刀を向けた。


「『一之太刀』」


 目にも留まらぬ一閃。その一撃で、ボロリとドラゴンの体が削り取られた。

 それは鱗一枚程度の傷ではある。しかし、ケロベロスと同程度……いや、それ以上硬いドラゴンの体を削った事は大きい。魔獣というのは、体を削る事で無力化出来るのだから。


「流石だツルギ殿!」

「硬いな。では仕切り直す」


 そして、そのまま駆け下りてツルギくんは着地をする。剣技にも動きにも無駄がドンドンと削ぎ落とされていくのは見ていて恐ろしい。

 カイトくんは未だにドラゴンの体の上で暴れている。そろそろドラゴンも痺れを切らしたのか、違う行動を取ろうとしている様子を見せている。しかし、背後でホークくんが一言。


「準備ができました」

「ああ、了解! カイト、降りるんだ!」

「む! 分かったぞ!」


 シルヴィアくんの言葉にカイトくんは飛び降りる。着地点にシルヴィアくんが構える。

 そして、ホークくんは正面に剣を構えた。それは何度も見たあの攻撃。


「さて、どの程度通じるか……『天上の光』」


 その言葉とともに、構えていたホークくんの始祖魔法が放たれる。その光にドラゴンが飲み込まれる。その威力は何度見てもSFでみた光学兵器のような恐ろしくも美しい一撃だ。

 その始祖魔法の勢いで体を壁へと打ち付けられるドラゴン。尻尾を受け止めていたロウガくんも開放されて肩を鳴らしていた。


「クソ、肩がいてえ……それに、あのクソトカゲの攻撃はクソ重てえな……」

「……見事ね。ホーク、貴方の魔法、早くなってないかしら?」

「ええ、短い時間でも研究は重ねましたからね。以前よりもスムーズに打てるようになりました」


 サラッと言っているが、おそらくダンジョンに潜ってレベルが上がりやれることが増えたのも影響があるのだろう。

 しかし、王子様達が完璧な連携を見せてくれた。圧倒的な力で対抗するロウガくん。そして、遊撃をして相手の弱点を探るカイトくん。その弱点を攻撃し弱らせ意識を反らすツルギくんに、最大火力のホークくん。その全てをまとめ上げるシルヴィアくん。

 これだけの連携の上で完成した戦略であればキマイラを大きい怪我もなく倒せるのは当然だろう……しかし。


「……まあ、それはそうだよね。この程度で倒れるほど話は早くないよね」


 壁からドラゴンが現れる。始祖魔法を食らって体が溶けかけているが……しかし、徐々に回復していっている。

 まず、最大火力の始祖魔法ですら体表を溶かす程度しか出来ないこともそうだが……体が再生しているのも理解が出来ない。それこそ魔人のようだ。しかし、誰も絶望していない。戦意は十分にある。


「でも、戦法自体は通用するのは分かった。後は倒し方を見つけるだけだ」

「そうね……ヒカリ、準備をしなさい。私達も行くわよ」

「はい!」


 倒し方がわからないのなら、分かるまで挑めばいい。

 あらゆる攻撃を利用しながら再生するドラゴンとの戦いはここから本格的に始まるのだ。

なんかドラゴンのモチーフがどっかで見た空の帝王がイメージなのは内緒なので初投稿です

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